アルの本音
俺はクリス奪還の最中にメイルの上から落ち、ユキトは傷ついた状態で。
森の中での出会い。二人で協力して傷を癒し、近くの集落に行きついたこと。集落の人たちと心のやりとりをしたこと。カイル襲撃。住民が全て殺されたこと。俺とユキトだけ生き残ってしまったこと。
そこから先はアルも何となく知っていたようだ。革命軍としてユキトと一緒に戦っていたからな。間接的に俺とアルは共闘していたことになる。
「なるほど、な。戦友のようなものか。戦友は普通の友情関係とも違う特別なもの。俺とユキト様も戦友と言えば戦友だが、カエデとユキト様の場合は少し違う。身分や出身の差を超え交友を深め、戦った。ユキト様にとってカエデは特別で、カエデにとってもまたユキト様は特別なのだろう」
少し寂しそうにそう言う。
「ユキトはアルのことも大切に思ってるだろ。よく気にかけてるし、全軍を任せるくらいだし。信頼できる部下がいることは上に立つ者にとって幸せそのもののはずだ」
「……そうだな。最近、ユキト様からの信頼を特に感じる。それに応えるためにも俺は」
アルは剣を抜き、天に掲げた。
「グレン一、いや、大陸一の戦士になる! なるぞー!」
その雄たけびの声量はすさまじく、鼓膜が破れそうになった。
酔った勢いに任せた感はあるが、きっとこれは本心だろう。
「おう! アルならなれる! 頑張れ!」
「なんだその上から目線は! 貴様は現時点で俺より上なのは事実だから余計ムカつくわ!」
「なんだよ純粋に応援しただけなのにぃ!」
急に取っ組み合いになる。アルの方が遥かに体格が良く勝負になどならないはずだが、アルは酔っているため力が入っておらず、まともにやり合うことができた。
なんだかわちゃわちゃよく分からない相撲モドキみたいなのをした後、二人して倒れこむ。
「おいアル、そろそろ寝たほうが良いんじゃないか?」
「うるふぁい! 俺はなぁ、貴様、カエデに感謝してるんだ! それを分かってるのかあぁん!」
至近距離で酒臭い息を浴び、吐きそうになる。
「息くせぇ! 離れろ!」
「分かってんのかぁん!」
これ、落ち着かせてそのまま寝るのを待つのが一番の近道かもしれない。
「分かってる!」
実は分かってなかったけど。ずっと煙たがられて、嫌われていたのかと思ってた。
「嘘だぁ! いいか、この国ではなぁ! 銀色の閃光に感謝していない人間など誰一人としておらん! 貴様は英雄だ! 我らを救った! さらにユキト様の心まで救っている! 今日だって俺を気遣ってわざと俺を煽るようなことを言い手合わせにもっていったことを! 感謝だ! これからも、グレン王国を、頼、むぅ」
そう言い残し、アルは気絶するように眠りに落ちた。
アルの意外な本心を聞けて驚いた。素直に嬉しい。嬉しいけど。
眠りながらアルは俺を思いっきり抱きしめていた。抜け出せそうにない。
強化魔法を使って抜け出してもいいけど、アルを起こしたくなかった。また絡まれるかもしれないし。
何より俺自身も疲れが限界まで来ていた。今多分夜中の三時くらい。
諦めて、俺も寝ることにした。
「……マ、ソーマ! アルバート! 起きろ貴様ら!」
ユキトの威勢の良い声で目覚める。
目覚めた瞬間、目の前に、今目覚めたばかりっぽいアルの顔があった。
「カエデ。昨日の夜、アルバートさんと何があったの? もしかしてそっちに目覚めちゃったの?」
ティオの悲しげな声が耳に刺さる。
改めて今の状況を振り返ってみよう。
アルとがっちり抱き合ったまま、キス一歩手前くらいの距離で見つめ合っている。
「「うわぁぁぁぁああああ!」」
俺とアルの悲鳴が、朝焼けに包まれる広場に響き渡った。