腹を割る
「気まぐれだ。一応貴様やティオ・マテリア殿の歓迎会ということになってるしな」
「一応って言っちゃった。まあ俺も薄々ただ宴会がしたかっただけなんだろうなって気付いてたけど」
「ガス抜きが必要なのだ。こういう不安定な情勢の時はな。マテリア王国との長きにわたる戦争、アレク皇帝による支配、そこからようやく解放され、マテリア王国と和平を結び、念願の安寧を手に入れたと思った矢先にこれだ。そこは理解して欲しい」
「皆のはしゃぎようを見りゃ分かるよ。不安の裏返しってことくらい」
「貴様は妙なところで聡いな」
「常に聡いわ」
自分で言うのもなんだが、俺はかなり特殊な人生経験をしている。地球、日本で過ごした平和な日常と、こちらに来てからの激動の日々。それがブレンドされて変な価値観を持ってるんだろうなというこことは何となく自覚してる。
「ともかくまあなんだ、貴様も飲め」
「俺はなだ一七歳だから飲めないぞ」
「なんだ。ユキト様と同い年だと思っていたのだが」
「そういうアルは何歳なんだよ」
「俺は十八だ」
「うっそ!? 二〇くらいだと思ってた!」
「そうやってよく驚かれる」
意外だった。俺と一つしか変わらなかったなんて。外国人の人って大人びて見えるけどそういう次元じゃないぞ。
これまでに歩んできた道のりのせいかな。生き方が顔に出るって言うし。
その歳で全軍を束ねるのか。アルよりもっともっと年上の兵士たちが多数を占める軍を。それは不安にもなる。いや仮に二〇歳だったとしてもその点は変わらなかっただろうけど。
「お前も苦労してんだな」
「俺の苦労など、ユキト様に比べれば毛ほどもない」
「ユキトのこと、本当に尊敬してんだな」
「当たり前だ。我が軍の兵士たちは皆、ユキト様のためなら命を惜しまない。それは俺とて同じ」
「ユキトは逆に誰一人死んで欲しくない、自分一人が死んで周りが全員助かるなら喜んでそうするって思ってそうだけどな」
「そんなユキト様だから皆ついてゆくのだ」
酔っていて目の焦点が合っていない状態でも、そのセリフを言うときだけはキリッと凛々しく、だけれどどこか優しい表情になる。最初にアルに会ったときからずっと思ってるけど、ここまで忠誠心の強い人間は中々いないと思う。
「ユキトはアルみたいな部下持って幸せだな。これからもユキトのこと頼んだぞ」
「だからそのユキト様に対して失礼な物言いはやめろもっと敬え、と、言いたいところだが。貴様が来てからユキト様に笑顔が増えた。それに貴様とユキト様のやりとりを何度か目にしたが、ユキト様が心から貴様、いや、カエデ・ソーマ殿を信頼し、友のように思っている、ということが伝わってきた。認めるのは癪だが、ユキト様にとってカエデ殿はなくてはならない存在のようだ。だからこちらこそ、ユキト様を頼む」
またしても酔いを一切感じさせない真剣な表情、声のトーンで、わざわざ立ち上がって頭を下げてくる。
「頭上げてくれよ。そんなかしこまらなくてもいいって。座れ座れ飲め飲め!」
肩をつかみ、強引に座らせて酒瓶をアルの口に突っ込む。アルはそのまま酒瓶の底を天に掲げ、一気に飲み干した。
「俺は真剣なんだぞ! 茶化すな!」
「分かってるって! 俺もユキトのことを戦友、親友だと思ってる! その想いはこれからもずっと続くから安心してくれ!」
「そうか。ならよい」
あっさり納得した。やっぱりアル酔ってるわ。
「あとさ、俺のこと呼ぶんだったらソーマって呼んでくれよ。俺とアルの中だろっ(ウインク)」
「アルと呼ぶな。ならばカエデと呼ぼう」
「そこが妥協案かーしゃーなし」
「話は変わるが、カエデはどのようにしてユキト様と知り合ったのだ?」
「お! そういやあんまり他人に話したことなかったな。長くなるけどいいか?」
「聞こう」
ということで、俺とユキトのファーストコンタクトから戦争終結までの話をざっくり語る。