宴の時間は過ぎ去って
俺はグレイヴとの戦闘のことやシルバのこと、剣術についての質問ぜめにあい、ティオはマテリア王国はどんなところなのか等の国関係の話を求められて困惑していた。実は記憶喪失であまり憶えてない、とティオ自ら告白すると、じゃあ俺たちが逆にグレン王国のことを教えてやる! と色々吹き込まれていた。
話しても話しても次から次に兵士が現れるため、そろそろ休憩させてくれ、と音を上げると、待ってましたとばかりに「じゃあ剣で黙らせてみろ」と言い出したため、連続手合わせスタート。またこのパターンかよと。どんだけ戦いが好きなんだこの人たちは。
手合わせが五〇人を超えたところで、ようやく挑戦者がいなくなった。というのも皆酔いつぶれて肩を組みながらえっちらおっちらと寮に戻り始めたからだ。
「お疲れカエデ。はい、ジンジャーエール」
ティオがげっそりと疲れた顔で冷えたドリンクを渡してくれる。
「ノンアルコールが一種類だけなのに対してお酒の種類豊富なの、グレン兵たちの酒好き具合が分かるよな。ティオもお疲れ」
「お互い災難だったわね」
実はティオも途中から兵士たちと手合わせしていたのだ。マテリア式剣術を見たい、なら手合わせするのが一番だ、ってことで。
ユキトに引けをとらないティオの剣術。記憶はなくとも身体は覚えている。見事だった。
グレン兵たちも別の意味ですごかった。酔ってるはずなのに剣を振るうときだけやたら鋭かった。身体に染みつくほど剣を振るってきたのがよく分かった。
納刀し、ティオとテーブルに腰かけて一休み。
「血気盛んだけど、気は良い人たちだよな」
「うん。陽気でこっちまで楽しくなっちゃう」
「俺、グレン兵たちのこと、好きだな。だからこそ、戦争になってほしくない」
「でも、ユキトさんは戦争する気なんでしょ?」
「うん。まあマテリアから戦争吹っ掛けられてるしな。黙ってたらやられる。だからやられる前にやる、ってのは分かるんだけど」
「カエデはどうしたいの?」
「俺は、戦争を止めたい。戦争をせず、解決したい」
「私にできることあったら手伝うよ」
ティオはすかさずそう言う。
否定するのではなく、即座に手伝いを申し出てくれた。それが何より嬉しかった。
「ありがとな。ユキトに内緒で色々考えて、やってみる」
「私がぁ、何だってぇ!」
「ひゃあ!」
フラついたユキトがティオの背中に覆いかぶさった。
今の話、聞かれてないよな。酔ってるし大丈夫そう。
「ユキト、そろそろ寝たほうがいいんじゃないか? 明日も仕事あるだろうし」
「わらしはまだのめ~る! 兵たちに負けてられ~ん!」
「もう皆酔いつぶれてお開きムードだぞ……。仕方ない、俺がユキトを運んでくか」
俺がユキトの腕をとろうとしたら、ティオにガードされた。
「私がいくからいい。カエデ、昏睡状態のユキトにヘンなことするかもだし」
「しねぇよ!」
「どうだか。夕方のミーアさんとの身体接触、私、まだ納得してないから」
ぐ、それを言われたら何も言い返せない! まあ目的はユキトを寝どこまで運ぶことだし、俺が行こうがティオが行こうがどっちでもいいか。
頬を膨らませたティオはユキトと共に王城に向かった。
そういえばミーアはどうしているだろう。
目で探すと、数少ない女性兵士たちとともにきゃいきゃい女子会してた。平和だ。
夜も深く、肌寒さを感じた。キャンプファイヤーで暖をとることにしよう。
キャンプファイヤーのすぐ近くで腰を下ろす。
火ってなんだか落ち着くな。暖かいし、不規則な動きで飽きないし。
ボーっと炎を眺めていたら、俺のすぐ横に誰かがドスンと座り込んだ。
「こんなところで何をしている」
「そっちこそ」
酒瓶片手にアルが現れた。