食えや飲めやのお祭り騒ぎ
「うおおおおっと!」
空中で体勢を整え、上手く着地する。高さ的に強化魔法使ってないと死んでたぞこれ。
ティオと二人で顔を上げると、一斉にシャンパンが開く、ポーン! と小気味の良い音が鳴った。
『銀色の閃光に乾杯! ティオ・マテリア姫に乾杯!』
唱和とともに兵士たちが持っているシャンパンをグイッと飲み始める。何百人が同じ動きをするものだから無駄に壮大だった。むさ苦しい連中がただ酒を飲むだけなのに。あ、ちゃんと女性もいるけどおっさんたちと全く同じ飲み方だから異様になじんでる。ミーアもジンジャーエールらしきものをラッパ飲みしてた。将来酒豪になりそう。
「おらぁお前たちぃ! いったん静まれぇ! 後でいくらでも飲めばいいんだから今だけは私の話を聞けぇ!」
グランに乗り、キャンプファイヤーの真上から俺たちを睥睨しながら声を張り上げるユキト。
ここからでも分かるほど肌が赤らんでいる。完全にできあがっていた。ユキトがお酒を飲むの知らなかったな。
「我がグレン王国を取り戻すのに一役どころか二役三役かった銀色の閃光ことカエデ・ソーマ殿、並びに人質として我が国に留まることを了承してくださったティオ。マテリア殿、ようこそグレン王国へ! 暑苦しい兵たちばかりの会だが、諸君らの存在を国民に知られると厄介なことになるゆえ我慢していただきたい!」
暑苦しいとはなんだー! ユキト様が一番暑苦しいだろー! 手合わせ! 手合わせ! 手合わせ! という声がそこかしこから上がる。やたら目立つな手合わせ限界民。
「ええいうるさいうるさいうるさーい! 愛しているぞお前たちー! ああもう何言いたいが忘れたが今夜は飲みまくるぞー!」
うおおおお! という兵士たちの雄たけびにより地響きが起こる。盛り上がりがすごい。
「あ! 言いたいこと思い出した! アルバートがグレン王国軍の総指揮官、ミーアがその補佐に任命されるのは皆の知るところではあるが、加えて銀色の閃光が剣術指南、対竜契約者演習に参加することになったぞー! 喜べお前たちー!」
やったぜ! 伝説の銀龍と戦いてぇ! 英雄ボコす! キャー銀色の閃光アタシと手合わせしてー! とこれまた盛り上がる。黄色い声も聞こえたが残念ながら男だった。知ってた。
にしてもその情報、アルの正式の辞令が出てから伝えるんじゃなかったんだっけ。酔ってるから頭が回ってないのかもしれない。
「うーい。ゴクッ、プハァ! グレンワインは世界イチィ! では私からはここまで!
食えや飲めやのお祭り騒ぎのはじまりじゃー! 英気を養えお前たちー!」
強化魔法を使ったユキトが背中から落ちてきて、大の字になって地面にめり込む。
ユキト様の大の字着地だぁ! とユキトの周りに兵士たちが集まってきた。なんだこれ。
ユキトが降りてきたことで宴会? がはじまる。
そこら中に設置されたテーブルの上に置かれているのは肉や野菜の串と様々な種類の酒。
兵士たちは次々と串を手にしてはキャンプファイヤーの元に集い、炙っていく。キャンプファイヤーってそのためにあったんかい。少数だが竜魔法で炎を熾し直接焼いている者も。
「すごいね」
「ああ」
ティオと俺は完全に置いてきぼりになっていた。この会は俺たちを歓迎するためではなく、俺たちを口実にお祭り騒ぎをするために開催されたのだと察する。
めり込んだ地面から身を起こしたユキトが、跳躍で俺たちの前に降り立った。
「お前たち! よくグレン王国に来てくれたな! 今夜は楽しめ!」
「ちょ、ユキト、酒臭い。ってかお酒飲めたんだな」
「我が国では一八歳から飲酒可能だからな。普段は飲まん。特別な日だけだ」
そっか。ユキト、俺の一コ上だったか。
「そうだったんだな。俺とティオはまだ飲めないから酒以外の飲み物どっかにないか?」
「あっちのテーブルにある。案内しよう」
ユキトとともにノンアルコールドリンクを取りに行く。
ジンジャーエールしかなかった。まあ好きだからいいけども。
三人で乾杯。一気に飲み干す。
「炭酸キいてて美味いな」
「私にはちょっと強すぎるかな。むせそう」
「むぅ、お前たちと酒を酌み交わしたいが仕方ない。来年を楽しみにしてるぞ」
ユキトは残念そうに酒をあおった。本当にこんなだらしない姿は珍しい。
「俺たちの歓迎会っていうよりは、兵士たちの宴会って感じするな」
「うむ。二人の歓迎会でもあるが、同時に兵士たちのガス抜き会でもある。いつ戦になるか分からず、緊張続きの日々。おまけにギルバート襲撃。口実が必要だったのだ。こういうときこそ適度に騒がねばならん。そう、だから私が率先して酒を飲んでいるのだ!」
最後は言い訳がましいが、発言全体は国のトップらしいもので感心してしまった。
「今はそんな堅苦しい話はいらんな! ソーマ、ティオ、お前たちにはこれから苦労をかけるが、どうかグレン王国のために頑張って欲しい! では私は会場全体を回ってくる! 私がお前たちの近くにいては兵士たちもお前たちに話しかけにくくなるしな。ほら見てみろ。お前たちと話したがっている兵士たちがうずうずしているぞ!」
周りを見ると、確かに何人もの兵士たちが俺たちの様子を伺っていた。
ではまた後で、と、俺たちの肩を叩いたユキトが離れるや否や、俺たちは兵士に囲まれた。