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蒼銀の竜契約者  作者: 深田風介
緋銀
148/187

剣で語り合う 

「アルを慰めにきたんだよ」

「アルと呼ぶな。貴様の慰めなどいらん。去れ」

「お前が立ち直ってくれないとユキトが困るんだよ」

「去れと言っている」


 さっきまで泣いていたことが分かる真っ赤な目でにらまれてもなぁ。グレンの人たちは黒髪赤目が多いからウサギさんみたいになっちまってる。まあアルはウサギっていうより手負いの猛獣って感じだけど。


「ユキトは減給で手を打った。もう同じ失敗はしないだろうって言ってた。ユキトのアルバートへの信頼は揺らいでない。それで十分じゃないか」


 アルは椅子から立ち上がり、こちらへ詰め寄ると胸元をガッと掴んだ。


「十分などではないっ! 私は、俺は、祖国を危険にさらした! 敵を前に感情的になった!    戦士にあるまじき行為だ! これから軍を統括する立場となる俺がそんなことでは兵は誰一人として付いてはこないだろう! 俺はこれから辞退の意をユキト様に伝えに行くつもりだ! 邪魔してくれるなよ!」


 そう言って俺を突き放すと、扉から出ていこうとする。

 繊細なやつだ。それに責任感が強い。


「待てよ」

「邪魔するなと言ったはずだ。そこをどかないなら力づくで」

「そう! それだよ! 力づくで俺をどかしてみろ。っつーわけで今から俺と剣術訓練しようぜ」

「今の俺は加減できそうにない。本気でお前を殺してしまうやもしれんぞ」

「いいって。俺はユキトに剣術で勝つぐらいだぞ? グレンの剣術大会、ユキトが一位でアルバートが二位だったそうだな。なら普通に考えて俺が負けるわけがない。全力でかかってきな」

「っ! 分かった。表へ出ろ」


 表へ出ろなんてセリフを生で聞くとは思わなかった。

 しかし何とかアルを訓練に誘うことができたぞ。意識して挑発的な物言いにして良かった。

 アルと事務所の外に出て、他の兵に見られないよう裏手に回る。

 建物の背面。自由に動けるスペースは多くはないが、剣を合わせるには十分。

 俺は真剣、時雨を。アルは腰に佩いていたロングソードを構える。

 凄まじい殺気だ。抱いていた激しい感情が全て殺意に変換されたかのよう。

 俺もこれまでの旅で幾度も死線をくぐりぬけてきたが、ここまでの迫力があった者は中々いない。まさしく歴戦の戦士。

 これは調子こいてられないぞ。こっちも殺す気でいかないと危ないかもしれない。


「強化魔法はあった方がいいか? ない方がいいか?」

「お前も俺も強化魔法を使っての戦闘の方が慣れているだろう」

「いいのか? 魔力量で差が出るけど」

「かまわん。戦場で格上と戦闘になることはままある。勝負は単純な力量で決まらん」

「了解。じゃ、はじめるか。――顕現せよ。契約に従い古より君臨する其の偉大なる力を我が元にーー白銀のノグレー・アルミュール

「――顕現せよ。契約に従い其の力を我が身にーー炎神の加護フレイム・アーマー

 剣戟。鉄の擦れる音が激しく響き渡る。

 アルは妹のミーアと違い、基本に忠実なグレン式剣術。ユキトと同程度の完成度。

 しかし俺ははじめ押された。ユキトとミーアに苦戦はしたが、劣勢になることはほぼ無かったのに。

 原因は対格差。ユキト、ミーア、俺はそこまで体格が変わらない。しかしアルは二メートル近い長身。リーチが違う。そのくせ速い。ロングソードを使ってるのに。おそらくだが、強化魔法を最大限使いこなせている。同じ剣術でもここまで違うものなのか。

 斬り合い続けること数十分。

 俺は、不意に足をとられた。俺たちが地を蹴る力が強すぎて一部抉れている部分のせいだ。

 その隙を見逃さず、グレン式剣術お得意の斬り降ろしが襲いかかる。しかしこれは対応できる。ユキトやミーアとの手合わせの経験値のおかげで。

 刀の刃部分ではなく反対のしのぎを使い、受け流す。

 ここで距離をとる。この数十分、グレン式剣術とマテリア式剣術を織り交ぜて戦ってきたが、そろそろ居合道、剣道複合剣術を使わなければマズい。

 ここまでそれを隠してきたのは、意表を突いて決着をつけるため。ここまでしないと勝てない相手。流石だ。

 アルが突きの構えを見せたところで、居合斬り。グレンの人間が所見で対応できない、柄頭を相手の視線の中心に据えることで目の錯覚を誘い、距離感を測れなくする。

 アルが突きを放つ寸前に、辛うじて俺の刀の切っ先がアルの首の数ミリ前で止まる。


「ここまで、か」


 アルが剣をおろし、魔法を解く。俺もそれにならう。


「危なかったよ。疲労による動きの鈍りがあらわれはじめてたから。アルとの体力の差を思い知らされたよ」


 俺が勝負を決めにいった理由がそれだ。鍛え方、基礎力が違う。長期化していたら負けていた。


「どちらにせよ俺の負けだ」


 悔しがる様子などみせず、静かに剣をしまう。ミーアとは真逆だ。騎士っぽくてカッコいい。


「どうだ。身体動かして少しは頭が冷めただろ」

「確かに感情の昂りはおさまったが、俺の考えは変わらん。貴様がいなくなったら即ユキト様の元へ向かうつもりだ」

「もう頑固だなぁ。ユキトからも何か言ってやってくれよ」

「は?」

「ふむ。バレていたか。流石ソーマ。慣れない隠密魔法程度では通用せんか」

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