ハァハァ。ぺろぺろ
深い眠りについた、はずが、夜中、目が覚めてしまった。
月夜がカーテンの隙間から漏れている。
意識がはっきりしてきたことにより、目が覚めてしまった原因が判明。
「ハァハァ。ソーマソーマソーマ。ハァハァ。ぺろぺろ」
横向きで寝ている俺の背後にぴったり張り付いているやつの、変態チックな台詞が聞こえてくる。
「こんのアホォ! 寝ぼけててんじゃねえ!」
首筋を往復するぬめぬめした感覚。ヘンな気分になりそうだからヤメテ!
「あ、ソーマ起きた」
「いいから舌とか口を俺のうなじから離せ。セクハラで訴えるぞ」
「ここに警察はいない。そしてソーマは竜人化の影響で身体を動かすことができない。つまり(ゴクリ)」
「つまり(ゴクリ)じゃねえよ。大声を出して人を呼ぶぞ」
まさかこの台詞を異世界で言うことなるとは思わなかった。
「ソーマが悪い。竜人化の影響で動けなくなるの忘れて私と待ち合わせの約束したんだから」
「うっ。それはそうなんだけど。あの時は予想外のことが起こりすぎて思考に余裕が無かったんだって。悪かったよ」
「なら罪滅ぼしということで、このまま私のされるがままに」
「ダメです。離れなさい」
「ちぇ」
口を尖らせながら、音波はようやく起きあがった。
かと思ったら、俺を膝枕する体勢に。
「をい」
「これくらいいいでしょ? この方が話しやすいし」
「しょうがない。このくらいなら。妹に膝枕されるくらいどうってことねえ」
「妹じゃない、幼なじみ!」
と、いつものやりとりを交わしたところで、真面目な話へ移行する。
「聞きたいことが山ほどあるが、その前に。ユキトのやつ、俺に夜霧のサポートがついてること、知ってるっぽかったぞ。ユキトの側近に元夜霧のイーリって人がいるから気づいたんだと」
「元夜霧……。夜霧構成員は組織を抜ける時、次の所属を報告しなければならない。イーリは任務失敗で死亡届けが出されていたはず。まさかグレン王国が抱え込んでいたなんて。ユキト、相当なくせ者」
「なるほど。任務で死んだと見せかけて、グレンに渡っていたのか。ユキトがたらしこんだのかな。やっぱりユキトはやり手だな」
「ソーマ、まさかユキトに恋を!?」
ガッと頭を両手で挟まれる。近い近い怖い怖い。目が血走ってる。
「無い無い。そりゃあ女性的魅力的に溢れているのは認めるけど」
「ちなみに私に女性的魅力は?」
「ほぼ感じないな」
「怒ればいいのか。僅かでも感じてくれてることに喜べばいいのか」
「ともかく、ユキトは俺の大事な友人、仲間だ」
「ふぅん。怪しい」
「怪しくない! んなことより大事な話をしよう。ティオが記憶喪失になってるのは知ってるよな?」
「知ってるも何も、ティオをマテリア王国から逃がしたのは、私たち夜霧。秘密裏に連れだそうとしたけど勘づかれて、国境線付近まで逃がすので精一杯だった。その時、シルバが偶然その場に居合わせてソーマを呼んでくれたから、まさに渡りに船。ティオをソーマに預けるよう、上から指令がくだった」
ティオが一人で国境線にいたこと、ようやく合点がいった。そっか、俺の動向、完全に把握されてたんだな。
「ティオをマテリア王国から逃がす、か。今マテリアで、一体何が起こってるんだ?」
「それが、私たちの調査力をもってしても、尻尾をつかめてない。ティオを逃がすのを失敗したことから分かるように、私たちの存在が相当警戒されてる。ただ、証拠はつかめてないけど、怪しい人物はピックアップできてる」
「待ってくれ。その前になんでティオを逃がすって話になったんだ?」
「ティオが人為的に記憶喪失にさせられたから。私たち夜霧はティオがマテリア王国を統べることを望んでいる。みすみす潰させるわけにはいかない」
そもそも、世界のバランスを保つ目的で動いてる夜霧って何なんだよという。国の情勢をコントロールしようだなんて、まるで世界の支配者じゃないか。
夜霧については考えるのをやめておこう。聞いても答えてくれないだろうし。
「人為的にって?」
「権力争いのせい。王位継承権、元一位、ティオのいとこの、デレク・マテリア。この人物に、ティオの記憶を奪った疑いがかけられている」