頼もしい王様
「そこなのだ。ソーマ。君にティオを守ってもらいたい。敵の使者の目を盗んでの警護だ。そんな高難度の任務、君にしかできないだろう?」
挑発するような物言い。やってくれたなユキト。俺の発言を予想してたのか。頭がキレるやつってのはユキトみたいなやつのことを言うんだろうな。
「任せろ! って言いたいとこだけど、隠密は得意じゃない」
「なら得意な者と組むのがいいだろう。ソーマ、君には協力者がいるんじゃないか? 夜霧の」
「なっ!」
「図星のようだな」
「知ってるのか? その組織の存在を」
「イーリ」
ユキトが呼ぶと、そのすぐそばの空間から一人の女性が出現する。城内にはじめて足を踏み入れた時、部屋へ案内してくれた人だ。高度な隠密魔法を使っていた。
「その隠密魔法。もしかして夜霧の人間か?」
「元、な。今は私の側近をしている。ソーマ、今日アルバートを止めてくれた君の協力者にお礼を言っておいてもらいたい。危ないところを助けてもらった。感謝する、と」
「お、おう」
ユキトの有能っぷりがすごい。敵に回したら厄介だ。こっち側で良かった。
「さて、ソーマ。他に何か不明点はあるかな?」
余裕の笑みを浮かべているユキト。一見笑っているように見えるが、そこはかとない圧を感じる。後は個人的に聞きに来い、って言ってるみたいだ。
俺も咄嗟には聞きたいことが思い浮かばなかったため、首を横に振り、これ以上意見がないことを示した。
「では、詳しいことはまた明日以降詰めていくことにする。各人、通常業務へ戻るように。アルバート。君の軽率な行動についてだが……減給だ」
「そ、それだけですか!?」
アルバートは信じられないとばかりに目をむき、驚いている。
「次はもう同じ失敗はしないだろう? 私は君の能力を信頼している。その信頼は、一度の失敗では崩れない。ゆえに、君を統括グループに加えるという決定に変わりはない」
「しかし、私の行動は、この国全体を危険にさらすものでした! 大罪です!」
「そう思うなら、今後の働きで挽回してくれればいい。これ以上食い下がっても無駄だぞ。私の決定は覆らない。話は以上だ。さあ全員散れ」
尚も不服そうなアルバートを無視し、ユキトは全員に持ち場へ戻るよう促した。
生真面目なアルバートのことだ。許せないのだろう。自分自身の行動が。自分が兵士たちのトップに据えられることが。
声をかけてやりたかったが、ユキトが俺の方へ向かってきたためできなかった。
「ソーマ、すまないが、君たちの歓迎会は明日に延期させてもらう」
「それは全然いいんだけど、その、作戦のことって、ティオには」
「無論、私の口から直接説明する。この後すぐにな。君を部屋まで送っていく帰りにでも」
「いいよ送ってくれなくても。忙しいんだろ?」
「休憩がてらだから気にするな。さあ行こう」
ユキトが俺の車イスを押してくれる。
王室を出る前に、もう一度アルバートを見やる。
失意に満ちた表情。慰めるミーア。
明日、あいつと一緒に飯でも行くか。
「ユキト、あの、やけに進むのが遅いような……」
「ん。ちょっと君と話したくてな。わざと遅くしている」
ぺろっと舌を出してはにかむユキトマジ天使。
「俺でよければいつでも話し合いになりますよ、ユキト・グレン陛下」
「そういう扱いは本当にやめてくれ! 今はオフだ。……すまなかったな。君たちを利用してしまって。まるで駒のように」
気落ちしたような、トーンの低い声。会議の時の力強い声とは大違いだ。
「あやまる必要ないって。ユキトは王様なんだから、駒のように人を使わなきゃならないのは当然。むしろ尊敬したよ。決断力、周囲を納得させる話術。すごいよ」
「そんなことはない。その時はそれが最善だと信じて発言をしているが、いつも眠りに落ちる前は、本当にそれで良かったのだろうか、もっと良い選択は無かったのかと、不安に押しつぶされそうになっている。時間は有限。常に選択し続ける日々は、心底、疲れるよ」
「息抜き、ちゃんとしろよな。俺でよければいつでもストレス発散に付き合うからさ。そうだ、また二人で村に行ってさ、一日ゆっくり過ごそうぜ。俺の世界の料理、ごちそうするよ」
「ふふ。不思議だな。君と話していると、心が軽くなるよ。楽しみにしてる」
暗くなりかけていたユキトの表情がパッと華やいだ。
俺はグレン王国の人間じゃない。だから話しやすいのだろう。王様という地位は、孤独とセット。その孤独を少しでも埋めてやりたい。
しばらくして、俺の部屋についた。
「運んでくれてありがとな」
ユキトの手でベッドまで運んでもらった。その際、ユキトの豊満な胸が押しつけられて心の中がヒャッハー状態だったのは秘密だ。
「礼にはおよばない。ゆっくり休んでくれ。夕食はどうする?」
「竜人化の影響で、多分、明日の昼頃まで起きれないからいいよ。それよりティオだ。夕食の時起こしに行くって言っちゃったんだけど、この通り動けねえ。だから、作戦のこと話終わったら、夕食を用意してやってくれないか?」
「了解した」
ユキトは俺に掛け布団をかけ、そっと部屋から出て行った。
ここでようやく、一息入れる。
考えるべきことが一気に増えた。でも、今は考え事をしていられるほどの余裕がない。
ギル。それに、カイル。やつらが復活していたなんて。地獄の底から聞こえてくる下品な笑い声が聞こえてくるようだ。
普段だったら寝れなかっただろう。今だけは、竜人化による疲れ、眠気に感謝。