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蒼銀の竜契約者  作者: 深田風介
緋銀
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会議の行方

 コンコン。


「失礼します。お迎えに上がりました」


 メイドさんである。それはもう見事なメイドさんである。眼福。

 木製の車イスらしきものに乗せられ、王室へ。

 入室すると、既に全員揃っていた。

 ユキト、アルバート、ミーア、俺と顔見知りの高官である各部署長たち。

 一様に厳しい表情を浮かべている。 


「ソーマ。身体が辛いだろうに、参加してくれて感謝する」


 ユキトが厳かに発言する。いつものような気安さなどそこにはなく、他人行儀な固さがあった。

 それでいい。この場では俺とユキトはあくまで一国の主と傭兵もどき。公私混同しないところは流石だ。


「いいや。俺自身にも関わってくる大事なことだからな」


 車イスを机まで移動してもらい、会議の準備完了。メイドさんが退出する。


「さて。では、先ほど起こった、ギルバート・グレン襲来事件についての話し合いを行う」

「お待ちくださいユキト様。ギルバートは死んだはずでは?」


 高官の一人が疑問を呈する。


「そう。死んだはずだ。なのに、現れた。ソーマ、君は何か知っているのではないか?」 


 鋭い目線が飛んでくる。


「ああ。憶測の域を出ないが。俺の契約竜、シルバが言うには、ギルバートとその契約竜から邪竜の魔法の気配を感じたそうなんだ。かつて邪竜は俺との戦いで、死んだ竜を復活させて使役する魔法を使った。今回現れたギルバートには生気を感じられなかった。これらから、邪竜に準ずる何かによって、ギルバート並びにその竜を生き返らせられたんじゃないかって、俺は考えてる」


 邪竜という単語を出した途端、王室がざわつきはじめる。

 グレン王国にとって、邪竜は諸悪の象徴。二度と聞きたくない言葉なのだろう。


「邪竜が復活したという可能性は?」

「国境線で皆で焼き払っただろう。それは有り得ない」


 ユキトがばっさり否定する。ユキトが先導切って邪竜の遺体を焼き払ってたもんな。


「では、どうして邪竜の魔法が?」

「分からん。これは私の考えだが、邪竜とて竜の一種。絶滅したと思われていた銀竜が生きていたのだ。邪竜の仲間が生きていたとて不思議ではない。つまりだ。マテリア王国は、邪竜を擁している可能性がある」


 再びざわつく。俺も、その可能性に至っていた。想像したくもなかったけど、そのセンが濃厚だろう。


「ではマテリア王国も、かつての我々と同じように、邪竜に乗っ取られてしまったのでしょうか?」

「そこまでは、分からん。今までの話はあくまで予想。確定情報ではない。未だマテリア王国の情勢は不透明だ」

「だからこそ、分かっていることからまず取り組みましょう。ティオ姫殿下を引き渡すか否か」


 緊張が走る。会議のメインテーマだ。


「まずはユキト様の意見をお聞かせくださいませ」


 ユキトは瞑目し、数秒固まる。

 国王になってからのユキトが何か決定をくだす時、決まってそうするのに気づいた。冷静沈着、時に激情なユキトのことだ。一度頭の中で物事を整理しているのだろう。


「……引き渡す」

「なんだって!?」


 思わず俺は声を上げてしまった。

 ユキトだったら、ティオをみすみす渡すなんて選択はしないだろうと勝手に思いこんでいた。


「ティオを引き渡すことは、こちらにとって何のデメリットもない。約束を守ってくれたらもうけもの、守られずとも痛手にはならない」

「そんな弱気になっていいのかよ!」

「く、ふふ」


 俺の言葉を聞き、不意に笑い出すユキト。気でも触れたのかと周りの高官たちが心配そうに目配せしていた。


「どうされたのですか、ユキト様?」


 アルバートの隣、末席についているミーアが、気まずい空気の中、勇気ある発言をする。


「いや、何、ソーマが、私の欲しい言葉そのまま言ってくれたものでな。つい笑ってしまった。進行しやすくて助かるよ」

「?」


 訳が分からず皆頭の上にハテナマークを浮かべる。


「私の言葉には続きがある。ティオを引き渡す。一旦、な。引き渡したフリをして敵を油断させ、奇襲をかける。ティオを引き取りにくるのだ。ギルバート、あるいはそれ並みの実力者が来るだろう。敵の主戦力を討ち取り、そのままマテリア王国へ攻め込む。つまりだ。ティオを利用し、攻めの起点を作る!」


 カッ! と目を見開いたユキトの圧はすさまじく、皆思わず気圧される。


「ユキト様。つまりそれは、こちらから戦争を仕掛けるという認識でよろしいですかな?」


 高官たちの中の最古参、壮年の男性が念を押す。


「そうだ。宣戦布告してきたとはいえ、まだこちらに手を出してきていなかったから、戦争を回避する方法も検討したのだが、我が領地に許可なく立ち入り、ティオを引き渡さねば叩き潰すと揺さぶりをかけてきたのだ。向こうに戦争する気があるのは明白。みすみす後手に回ってやる義理はない。そうだろう?」


 ユキトの自信に満ちた言葉。不敵に浮かべた一匙の笑み。

 反論などできようはずもない。

 高官の一人が、異議なしとばかりに拍手しはじめた。

 呼応して周りの高官たち、アルバート、ミーアも拍手をする。

 ただ一人。俺だけが拍手をせず、挙手をした。


「ソーマ。何か意見が?」

「その作戦、良いと思うぜ。受けに回らず攻める。賛成だ。だが、ティオの身の安全は? 引き渡すフリってことは、一度敵の手に渡るってことだろ? その瞬間、殺されたりでもしたらどうする」

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