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蒼銀の竜契約者  作者: 深田風介
緋銀
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我、顕現す

「わざわざユキトが仕切らなくたっていいだろ。忙しいだろうし。俺たちで勝手にやるよ」

「いや、私が仕切る。ここで君の強さを見せつけた後、君が我が軍の訓練に協力することを発表する。この手合わせが自己紹介みたいなものだな」


 武力を見せることが自己紹介とかグレン王国らしすぎて笑えてくる。

 剣術指南もするし、なめられないようにするためにも、この手合わせ、引き受けて良かったんだな。


「ユキト様ぁ! おれっち、まだ報償決めてなかったんだけど、今決めました! この少年との『竜人化訓練』にします!」


 周囲がざわつく。『竜人化訓練』? 単純に考えれば竜人化しての訓練、って意味だけど。


「む。このタイミングでか。リスキーではある。アルバート。現在のマテリア王国の様子は?」

「はっ! 前日と引き続き、沈黙を守り続けております」


 口調といい頭の垂れ方といい、アルバートがまさにザ・騎士って感じ。


「ふむ。部隊長が一日行動不能になるのは不安だ。不安だが、『竜人化訓練』で得られる経験値は絶大。ここで要求を突っぱねたらハイネ自身のモチベーション低下に繋がるだろうな」

「うぃっす! その通りっす!」


 ユキトは眉間を押さえ、瞑目し、一〇秒ほど停止する。

 今、グレン王国とマテリア王国は冷戦状態。いつ加熱し、血みどろの戦争に発展するか分からない。そんな中、部隊長一人が機能しなくなるのは危険だと感じているんだろうな。竜人化は身体の一部を竜の細胞に作り替えるため、使用後、人間の細胞に戻すのに丸一日かかる。


 その代わりに、魔力の運用効率が飛躍的に上昇し、通常ではあり得ないほどの強力な魔法を使うことができるようになる。自ら魔力を生成し、魔法を放つ竜。その竜に部分的に成るため。竜の細胞のおかげで多少魔力の生成もできるようになる。


「いいだろう。許可する。だが条件がある。簡単に負けるな。死ぬ気でソーマに食らいつき、その経験を糧にせよ。いいな?」

「ユキト様がそこまで言うってことは、ソーマ少年の実力は半端ねえってこったろ? 死ぬ気でやるに決まってるじゃないっすかぁ! むしろ死んでもいい! 今おれっちは人生で最もワクワクしている!」


 よく言ったハイネ! よっ、流石第四部隊長! 漢の中の漢! 等々ハイネを称える声が沸き上がる。狂ってる。まさに戦闘狂。


 戦闘狂といえば、カイルが頭に浮かぶ。やつもグレンの人間だった。が、行き過ぎていた。狂っているの意味が違う。


「そういうわけでソーマ、ここは一つ頼む。ハイネに稽古をつけてやってくれ。すぐには終わらせるなよ? 場合によっては手加減してもかまわん」

「いいの?」

「うむ。これは『訓練』だからな。では、そろそろはじめるとしよう。時間は有限だ。アルバート、ミーア、二人はこの場にいない兵に、この手合わせのことを伝えるように。できるだけ多くの兵に見てもらいたい」

「「はっ!」」


 命令を受けた二人は即座に散る。おおごとになってきたぞ。


「この場にいる兵士諸君! 久しぶりの竜人化訓練だ! 刮目せよ! この手合わせを見てモチベーションを上げ、一人でも多くの兵が竜人化に至ることを祈る!」


 うおおおおおおおお! と、地が揺れんばかりの雄叫びが周囲から上がる。

 人の細胞を急速に竜の細胞に変える。そのためには莫大な魔力が必要なため、竜契約者全員が竜人化を使えるわけではない。

 魔力は竜自身が鍛える、または契約者が魔法訓練を積んで魔力運用効率を上げることで使える魔力が増える。つまり、強力な竜と契約できなくとも、修行次第で至れるのだ。逆に言えば、強力な竜と契約できれば、ほぼ訓練ゼロで竜人化を使えることができる。


 三〇分後。

 屋外訓練地区に、五〇〇人ほどの兵士が集まった。これグレン兵全員だろ。ヤバすぎだろ。どんだけお祭り好きなんだ。あ、商店街案内してくれたおっさんもいる。ビール片手にチキンにかぶりついてる。完全に野球観戦するオヤジじゃねえか。


「皆の者、静粛に!」


 ユキトが、魔法か何かで声量を引き上げて、静かにするよう呼びかけた。


「これより、久方ぶりの竜人化訓練を行う。契約竜は無し。正々堂々ぶつかり合うこと。観覧者諸君、魔法の余波でケガをするかもしれないため、自身に強化魔法を施し、さらに防御魔法も展開するように。では、詠唱開始」


 五〇〇人が一斉に詠唱し、魔法を発動する様は壮観だった。

 魔法の発動が終わったのを確認したユキトは、ドレスを風に舞わせながら腕を組み、高みから俺たちを睥睨する。

 ちなみにユキトはグランの背に乗り、仁王立ちしている。絶妙にパンツが見えない。徹底してんな。


「準備は整ったようだな。ソーマ。ハイネ。後は君たちの好きなタイミングではじめるがいい。ここは、君たちだけの場所だ。存分にぶつかり合え」


 ユキトが黙ると、周囲の兵士たちも黙る。もはや、風の音が聞こえるのみ。


 俺は、静かに刀の柄に手を添えた。


 それを見て、ハイネも背中に背負った片手剣の柄に手をかける。


 詠唱は、ほぼ同時だった。


「我、顕現す。契約を依代とし、魔導の礎を我が身に」

「我、顕現す。契約を依代とし、太古より伝わりし大いなる魔導の礎を我が身に」


「「竜人化!」」


次回タイトル「風雲急を告げる」

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