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蒼銀の竜契約者  作者: 深田風介
緋銀
135/187

ギルバート・グレン。その過去

 俺がギルバートについて知っていることをアルバートとミーアに話す前に、知っておきたかった。彼が、どんな人生を歩んできたのかを。

 俺はずっと気になっていた。なぜ、彼が死に際に、あんな穏やかな表情を見せたのか。


「事務所で言っていましたね。大にいちゃんがなんとかって」

「俺はギルバートと戦った。彼と死闘を演じた。この手で、殺したんだ」


 自身の手を見つめる。この手で俺は生死をかけた戦いを勝ち抜いてきた。すなわち、殺してきた。

 この手で奪った命。一度たりとも忘れたことはない。

 ギルバートとの戦いも、死に様も、克明に覚えている。

 竜人化し、竜魔法をぶつけ合い、最後は剣一つで斬り合った。

 あの時、ギルは、ティオを人質に俺を脅すこともできた。なのに、しなかった。俺との勝負を望んだ。


 死にたくないと叫びながら、のたうち回って死んだカイルとは真逆。自らに突き刺さった剣を抜き、とどめを刺すよう俺を促した。お前にはやるべきことがあるだろう? と、俺を気遣うような言葉まで添えて。

 俺とティオが出会った時、真っ先に襲ってきたギル。以降何度も戦った。ずっと鉄面皮を崩さなかった彼が、最期の瞬間だけ、穏やかな顔を見せた。複雑だった。カイルとは別の意味で、忘れられない死に様だった。


「そうですか。ソーマさんほどの実力者に殺されたなら、大にいちゃんも本望でしょう」


 景色を眺めながら、顔色一つ変えずにそう言う。

 実の兄妹なのだ。恨み言でも吐かれると思ったのだが、ミーアの反応が淡泊なものだった。


「アルバートも、俺を非難してこなかったけど、なんでだ? 肉親だろ?」

「ソーマさんも知っての通り、大にいちゃん、いえ、不肖の兄、ギルバートは、グレン王国を乗っ取った諸悪の根元、皇帝の下についたんです。大罪人・カイルとともに。あたしたち革命軍の敵です。ギルバートは、かつての同胞、あたしの仲間もその手にかけた。ソーマさんにはむしろ感謝しているくらいです」

「なんか、悲しいな」


 ギルに対するミーアの呼び方。かつてはお兄ちゃんと慕っていたのだろう。兄妹同士で戦う。別の世界から来た俺にとって、それは、やりきれないことのように思う。


「兄弟姉妹、親子で殺し合いなんてよくある話です。権力争いでは顕著ですね」


 そうだ。日本史、世界史で習ったじゃないか。どこの世界でも、後継者争い、権力争いで、血で血を洗う戦いを血縁同士で演じるんだな。


「聞き方を変える。皇帝に下る前、まだギルが、お前たちの近くにいた頃は、どんなだったんだ?」


 それまで無表情を貫いていたミーアが、ほんの僅か、頬をゆるめた。


「尊敬できる兄でした。誰よりも強くあらんと努力して努力して努力して……。剣術大会では、一四歳の頃から優勝し続けました。グレン王国を守れる、立派な騎士になる。それが兄の目標でした」


 ミーアは目を伏せる。それで察してしまった。きっと、彼の願いは叶わなかったのだと。


「でもギルは、騎士になれなかった?」

「はい。濡れ衣を着せられ、追放されてしまったんです。ユキト様の兄、ヒューロによって」

「なんで、そんなこと」

「気にくわなかったのでしょう。ギルバートの戦闘能力の高さと、それに付随する名声が。人望もあり、次の王に、と、民衆は期待していました。先王の第一子がヒューロ、その妹がユキト様。あたしたちは、先王の弟の子どもだったんです。順当にいけばヒューロが次期王。なのに、民衆はギルバートこそを王に、と望んでいる。ヒューロにとって兄は心底邪魔だったはずです。でも、ヒューロはそんなこと、一切表に出さなかった。本心を隠すことに長けていたんです。おまけに、狡猾でした。アルバートにいちゃんもあたしも、大にいちゃんは無実だと主張し続けましたが、ダメでした。濡れ衣を着せられたまま、国外追放されてしまったんです」


 唇を強く噛みしめるあまり、血がにじみ出ている。悔しかっただろう。俺なんかが想像もできないくらい、悔しかっただろう。


「その後、ヒューロはどうなったんだ」

「ヒューロもまた、国外追放されました。ユキト様が、ギルバートの無実を証明したんです。言い換えると、ヒューロの悪行を告発したんです。無実のギルバートを呼び戻そうとしましたが、時既に遅し。いくら探しても見つかりませんでいた。まさか、敵同士として再会しようとは」


 いわゆる闇堕ち、というやつだろうか。そんな簡単な言葉では片づけられないような気もする。


「辛かっただろうな、ギル」

「でも、だからと言って、皇帝に手を貸し、罪のない人々の命を奪っていい理由には、ならないんです」

「そう、だよな」


 ギルバートの過去を知ることができて、良かった。今更どうしようもないが、それでも、彼の人生を終わらせた俺は、知っておくべきだったと思う。

 救いようのない話だった。ギルバートは自らの夢を潰され、アルバート&ミーアは兄を失い、ユキトは実の兄を告発し、追放することになった、と。


「もう、ギルバートへの想いは、精算できてるんだな」

「当たり前じゃないですか。立ち止まっている時間なんてありません。見てください、我がグレン王国を。皇帝によって蹂躙され、邪竜によってめちゃくちゃにされた城が、町が、復興の兆しを見せています。あたしは、あたしたちは、ユキト様とともに、より良い国を作っていかなければならないんです。それが、死んでいった仲間たちへのはなむけとなりましょう」


 ミーアは、明るくそう言った。しんみりとじゃない。力強い笑顔で、だ。前向きに、国を想って。


「俺も、ちっとばかし手伝わせてもらうとするか。グレン兵たちのために一肌脱ごう」

「一肌じゃ済みませんよ。いくらソーマさんとはいえ、あたしたち全員が束でかかればひとたまりもないでしょうから」

「期待しとくよ」

「さ、食休みはこのあたりにして、そろそろ行きましょうか。最後に、訓練地区の半分を占める、集団竜魔法訓練所を案内しますね」


 行きとは違い、強化魔法を使わず、のんびりと雑談しながら、大規模な訓練を繰り広げる広大な訓練所に向かったのだった。 

一部設定変更のため、118部 まどろみ を改稿しました。ソーマとユキトがギルバートについて会話するシーンです。

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