師妹関係
再戦を望む兵士たちを振り切り、ミーアを伴って剣術訓練所を出る。
「ソーマさん、あたしとやった後、全員とやったんですよね?」
「ああ。死ぬかと思った。レベル高すぎないか? 全員相当な腕前だったぞ」
「でも、勝ったんですよね? 全員に」
「まあな。聞いたよ。剣術大会、三位の実力者なんだってな。なら、俺に負けちまうのも仕方ない。だって、昨日、俺は優勝者であるユキトと一騎打ちして勝ってるからな」
「あの、ユキト様に勝ったんですか?」
「危なかったけどな。王様やりながらあの実力を維持してるのはすごい」
「そう、ですね」
ミーアはまだ沈んだ様子だ。どうしたもんか。
「ミーアは今何歳だ?」
「一五歳です」
「俺の二個下じゃないか。その歳で国内三位の実力者とか天才だろ」
「はい。天才だって、言われてきました。でも三位なんです。あたしは、誰にも負けたくない。兄にだって、ユキト様にだって。そして、貴方にも」
決然とした表情。強い意志が瞳に宿っている。
そっか。それほどまで、剣術に入れ込んでるんだな。
「びっくりした。俺が知ってるグレン式剣術じゃなかったから。あれ、我流か?」
「はい。グレン式剣術も極めればユキト様のように追随を許さないくらいになるのですが、あたしの戦い方に合ってるか疑問で。色々模索してるんです」
「向上心の塊だな。グレン式剣術に拘ってないのか?」
「拘ってない、わけじゃないんですけど、強くなるためなら、別の型を取り入れることも厭いません。だから最近は外国の剣術書を取り寄せて読んでるんですけど、文字だけだと中々イメージしにくくて」
だろうな。こういうのは、見て、実演して学ぶものだ。俺も、剣道、居合道、マテリア式剣術、それぞれ師匠から直接教わった。
「良かったら、俺と稽古しないか? 一応、三種類の剣術を修めてるから、ミーアの力になれると思う」
「い、いいんですか!?」
ずい、と眼前にミーアの顔が迫ってくる。近い近い。長いまつげが俺の目に入りそうだ。にしてもユキト同様、なんと整っていることか。ユキトとは違い健康的な日焼けをしているから印象は結構違う。
「元々、グレン兵たちに剣術の稽古をつける予定だったしな。それとは別メニューで、マンツーマンで稽古するって意味なんだけど。それでもいいか?」
「もちろんです! あたしはもっと色んな剣術を学んで、強くなりたいんです! ぜひ、お願いします!」
深々と頭を下げる。下げすぎて頭が地面につきそうだ。ついでにパンツがボトムスからはみ出して見えかけているぅ!
黒とは恐れ入りました。
「もう頭上げろって! 人に教えるのは自分のためにもなるし、恩義とか諸々感じる必要ないから! 早速、今夜からやろうぜ」
「はい、師匠!」
「師匠はやめろさっきまでの呼び方でいいから」
「はい、ソーマさん!」
ミーアは心底嬉しそうだ。
熱意が伝わってくる。その熱意に動かされて、つい、手伝いを申し出てしまった。彼女が強くなる手伝いを。
ミーアはきっと強くなる。ともすればユキトよりも。その成長を見るのが楽しみだ。
話が終わったところで、どちらからともなくお腹が鳴る。そろそろ昼食の時間だな。
「昼飯どうする?」
「商店街でお弁当買って食べようと思ってたんですけど、どうですか?」
「オッケー」
ミーアがいつも購入しているというスタミナ弁当(牛肉や豚肉が山ほど入ったやつ)を買い、食べる場所を探す。
「眺めがいいところがあるんですけど、行きませんか」
「いいねえ」
「よければ競争しませんか? 強化魔法使って」
「楽しそうだな。やろう」
「北東の方角にある塔みたいなの、見えます?」
「あのとんがったやつか?」
「ですです。使われなくなった物見塔なんですけど、てっぺんからの景色が素晴らしいんですよ。じゃあ、強化魔法、使いましょうか」
「おう」
ミーアは軽くストレッチしてから、詠唱をはじめた。
「ーー顕現せよ。契約に従い其の力を我が身にーー炎神の加護」
ユキトやギルが使っていたものと同じ、赤いオーラを纏う強化魔法。グレン王国の竜契約者の強化魔法は全員同じなのかもしれない。
「ーー顕現せよ。其の偉大なる力を我が身にーー白銀の鎧」
俺も白銀のオーラを纏う。竜人化ほどではないにせよ、身体能力が引き上げられたことが分かる。
「いきますよ〜。位置について、よーい、ドン!」
ミーアの掛け声とともに、飛び出す。
足で地面を蹴る度、数十メートル進む。魔法によって身体にかかるGが軽減されており、感覚器もある程度強化されているため、高速の世界に身を置いても違和感が少ない。
身体で風を切って走る。竜魔法の力で思いっきり走ることのなんと気持ちの良いことか。
数秒足らずで、塔のてっぺんに到着した。
なるほど。確かに絶景だな。
城。城下町。竜の訓練風景。それらを一望できる。
一分ほど遅れてミーアは到着した。
「速すぎですっ!」
ミーアが責めるようにそう言う。
「すごいだろ、シルバの魔法の力は。伝説の竜の力は伊達じゃないってこった」
本当に、シルバの力は規格外だ。折りに触れてそれを実感する。
「これは、竜魔法訓練も期待できそうですね」
そう呟きながら弁当を広げる。俺もそれにならって弁当を開けた。
超スピードのあおりを受けてぺちゃんこになっていたが、味は問題なさそうだ。
「「いただきます」」
肉を、思いっきり頬張る。
「うめえ! なんじゃこりゃ!」
「タレが違うんですよこれが! 秘伝の味です! 甘さと辛さの融合……」
「最高……」
スタミナ弁当に舌鼓を打った後、食休みを挟む。
会話はなく、俺もミーアも景色に見入っていた。
アルバートに聞こうと思っていたが、ミーアでもいいか。
「なあ、ミーア。聞きたいことがあるんだけど」
「ギル、ギルバートってさ、どんな人だったんだ?」