戦闘民族系女子
「ごめんなさい、議論に熱が入りすぎてしまって……」
酒場を出てすぐ、ミーアから申し訳なさそうに謝られる。
「謝る必要無いって! 俺も聞いてて楽しかったし。俺さ、竜契約者になってから、ほとんど個人間戦闘しかしてこなかったから、集団戦闘の話は新鮮でなぁ」
「ソーマさんの場合、一人で事足りますもんね。むしろ周りが足手まといになっちゃう的な?」
「そうそう。俺、まだ未熟者だから、力の制御できないからな。えっちらおっちら、ぎりぎりのバランス保ちながら大剣振り回してるみたいなもんだよ。危ないったらありゃしない」
「あたしたち、ソーマさんとの戦闘訓練で死んじゃうんじゃないですかね?」
「大丈夫大丈夫! 竜人化しなければ!」
訓練でやりすぎちゃって殺してしまうなんて、笑えない。
グレン兵の皆さんと訓練する前に、事故らないよう一人稽古を積まないと。竜人化しなければ制御はできる。でも、万が一があるからな。力の扱いは慎重に。
俺の戦闘技術は、実戦の中で磨かれてきた。訓練向きじゃない。剣術については良い訓練になる自負があるが、竜魔法は違う。『銀竜剣』くらいだな。完璧に制御できるのは。
商店街を抜け、次に向かった先は、訓練所。
「まずは屋内訓練所からですね。あの奥の、とりわけ大きな建物が、竜魔法訓練所です。中はほとんど屋外と変わらず、簡易休憩スペースがあるくらいで、純粋に竜魔法を打ち合うのみの場所になってます。それ意外の、ブロック状に建てられてるのが、各種武装の訓練所ですね。珍しいでしょう? こんなに竜魔法以外の訓練に力入れてるの、多分うちくらいですよ」
「すまん、なんで珍しいのかよく分からない。確かに、マテリアには無かったけど」
思い返してみると、マテリアの軍隊がやってたのはせいぜい剣術訓練くらいで、訓練時間の大半は竜魔法訓練だった。
「ソーマさんは、この世界の情勢とか、世俗に疎い感じです?」
「ああ。俺、数ヶ月前、記憶喪失のところをティオに拾ってもらったからさ。この世界のこと、全然分からないんだよ。だから、教えてくれると助かる」
「はぁ。それはたいへんですね」
本当に記憶喪失で大変なのはティオなんだけどな。
ティオに関しては懸念事項が多い。グレン兵たちとの訓練のことばかりじゃなく、そっちも考えないと。
「それで、なんでうちが珍しいのかと言いますと、剣や弓、槍等による戦闘は、現在ほとんど行われないからです。なぜなら、竜魔法があるから。極論、竜魔法さえ上手く操れれば他の技能は必要ありません。ではなぜグレン王国が剣術その他の武器の訓練に力を入れるのか。それは……」
「それは?」
「趣味、というか風土ですね」
「ええ!?」
「一応、それっぽい理由はあるんです。精神的に成長できるだとか、体力をつけるためだとか、反射神経、戦場における反応速度向上のためだとか。一番言われているのは、竜魔法が使えないイレギュラーな状況でも生き残れるように、なんですが、そもそもそんな状況にほとんどならないんです。このほとんど、ってところがポイントですね。竜を封じることに心血を注いでいる部族、国もなくもないですから」
「なんだ。ちゃんとあるじゃん。理由」
「でも、極論言っちゃえば、竜契約者の集団で一斉に攻撃魔法を打つのが最も効率いいんですよ。今の戦争はそういうのが多いですし。だからうちもそこは外せなくて、この訓練地区の半分は、竜を交えた集団訓練用に充てていますし。趣味、風土、と言ったのはアレですね。初代国王の頃から、グレン兵たち、皆好きなんですよ。武器による訓練が。息抜きに屋内練習場で剣を振る、弓を引くって人たちがほとんどですし」
うわぁ、本当に存在したんだ、そんな戦闘民族みたいな人たち。
あれ、俺も、暇だし刀振るうかって思考になってたっけ? え、もしかして俺もそっち系?
いや、訓練って考えるからよくないんだ。単に、身体を動かすエクササイズが好きなだけ。そう、それだ! グレン兵たちは皆スポーツ好き!
「へえ。勉強になった。教えてくれてサンキュな」
「いえいえ。どうします? どこかのぞいてみます? のぞいたら百パーセント手合わせを申し込まれますが、それでもよければ」
ポ○モンかよ。目合ったら即手合わせ、みたいな。
「見学っていう選択肢はないわけだな。うーんそうだな。剣術訓練所だけのぞかせてもらうか」
「はーい! あたしも剣術が一番好きなんですよ! 手合わせ一人目はあたしですね!」
のぞく前から手合わせ申し込まれた。ミーアは根っからのグレン兵らしい。戦闘民族系女子、良いと思います。