商店街
ミーアに着いていき、広大な訓練地区を案内してもらう。
「まず軍用竜たちの竜舎ですね」
何十頭もの竜たちがズラッと並んでいるのは壮観で、思わず喉が鳴る。
「グレン王国の竜って、赤竜と黒竜しかいないのか?」
「そうですよ〜。国によって擁する竜種は細かく分かれてます。竜は国の財産ですからね。輸入輸出はとてもできませんし、したところで風土に馴染むか分からない。竜一頭を死なせることは莫大なロスですから、結局どの国も、元々その土地にいた、生育方法が確立されている竜だけ扱うことになったんです」
「へえ」
俺のいた世界では色んな種を交配させてより強い種を生み出すなんてことやってるんだけど、と言おうとしたが、俺が異世界から来たことは禁句なので言わないでおいた。
そういえば昔、ティオに聞いたことがあるな。竜は国が管理してるから、野生種はほぼ存在していないって。
シルバとか、伝説の竜って呼ばれる種は、遙か昔、人間が管理していなかった時、様々な竜が混じり合ったことで生まれたのかもしれない。
竜舎の次にチラッとだけ寮を見て通り過ぎる。
次に向かった先は、商店街のような場所だった。
見渡すと食料系だけでなく、武器、防具、生活雑貨など、まるでショッピングモールのように、多種多様な店がひしめいている。
「まるで一つの町みたいだ」
「まさにその通りです。この訓練地区だけで生活していけるよう、最低限の施設は全て揃っています。兵たちが訓練に集中できるようにするためですね。訓練地区内のものは外のものより格安ですので、訓練地区内から出ない兵士も多くいます」
福利厚生が整ってるな。若者の兵士離れ防止のためだろか。んなわきゃないわ。
店を案内してもらいながら二人で歩いていると、道行く兵士たちから次々と野次が飛んできた。
「お、ミーア、ついに彼氏できたんかぁ?」
「ち、違いますぅ! お客様を案内してるだけですぅ!」
顔を真っ赤にさせて否定する。可愛いらしいことだ。
「お前は面食いだと思ってたんだけどなぁ」
おい。そこのガチムチおっさんそれどういう意味だ。
「にーちゃん、ミーアから案内されてるってことは、新兵か?」
「あ、はい、正式な加入ではないんですけど、新兵みたいなもんっす」
「つーことは期間限定の傭兵か。おっしゃ、おっちゃんたちも一緒に案内してやる!」
壮年の兵士二人組が俺を案内しようと意気込んでいる。
「ミーア、大丈夫なのか? この時間って訓練の時間じゃ」
「ひゃあ!? 耳元で囁かないでください!」
ミーアはどうやら耳が弱いようだ。いつ使うんだこの情報。
「ごめん」
「いえ、もうちょっと離れてくれれば大丈夫です。はい、そのくらいです。あたしたち、四グループに分かれて訓練してるんです。グループごとに休日が異なるんですよ」
「なるほど、おっさんたちは今日が休みってことか」
「なぁに内緒話してんだあ? やっぱりデキてんじゃねえのかあガハハハ!」
「「違いますって!」」
「真面目な話、ミーアには難攻不落のアルバートがいるからなぁ。俺らからすりゃあミーアは娘か孫くらいの感覚なんだが、若いもんはそうじゃない。ミーア、知ってっか? お前さん結構人気あるんだぞ?」
「し、知りません! まだそういうのいいんで!」
動揺しながら手と頭を左右にぶんぶん力強く振るミーア。
「んまあ一番人気はユキト様だがな! 若い衆ら、気の毒だなぁ。ユキト様は国王だから告白のしようがないし、ミーアにはアルバートがガッチガチに張りついてるしよぉ。ミーア、アルバートの溺愛ぶりなんとかしないと一生独り身だぞ」
「好きな人できたら力ずくでおにいちゃん黙らすんで大丈夫です」
「ヒュー! 頼もしいねえ! おっと、にいちゃん、置いてけぼりにして悪かったな。まずは酒場から案内しちゃる!」
おっさん二人に肩を組まれ、酒場密集地帯まで連行される。おっさん二人の体格が良すぎて、俺、地面に足ついてないんですけど。
しかし、国賓証外して正解だった。じゃないとこんな風にフランクに接してもらえなかった。
「もう! ソーマさんの案内はあたしに課せられた任務なんですよ! 待ってください!」
ミーアが小走りでついてくる。おっさんたちの歩幅が大きすぎて普通に歩いてるだけなのに気づけばあり得ない距離を移動していた。おっさんすごい。
そのまま俺は酒場まで連行され、飲み始めたおっさんたちの小気味よいトークに付き合わされるのだった。後半はミーアとおっさんたちによる戦術論議がはじまって、中々面白かった。