こいつさてはシスコンだな
綺麗なお辞儀に見とれる。育ちが良いんだろうな。
「アルバートぉ! お前、こんな可愛い妹がいるとは聞いてないぞ!」
「え、あたし可愛い? えへへ、ありがとうございますっ。あんまりそういうこと言われないから、嬉しいですっ」
「貴様、我が妹に手を出そうものならその命、無いと思え」
「可愛いって言っただけなんですけど!?」
照れるミーア。ガチギレるアルバート。こいつさてはシスコンだな。
「にいちゃん、それで、この人は誰なの? ユキト様に呼び出されたことと関係ある?」
「それは……」
「それについては私が説明しよう」
「おうユキト、ちょいと聞きたいんだが、兵たち相手にシルバと一緒に訓練するってことは、俺の正体を兵たちに明かすってことでおK? ってユキトお前いつの間ニィッ!?」
あまりにもナチュラルに場になじんでいたものだったから驚いた。
ユキト登場と共に即座に礼をしかける兄妹、に対しユキトは軽く手を挙げて、礼などよい、というジェスチャーをとる。何それカッコいい人生に一度はやってみたい。
「そういうことになる。私自ら秘匿事項であると説明しよう。しかし、ちょうどメンツが集まっているな。好都合だ」
そう言ってユキトは俺の隣に腰をおろした。ミーアにも座るよう促す。
空いているのはユキトとは反対方向、つまり俺の右となりなので、ミーアはそこにスポッとおさまった。両手に花である。ちょっとドキドキするなこの構図。
「こほん。ではミーア。まずは君の抱いた疑問から答えていこう。この人は誰か。覚えているか? 銀色の閃光を」
「伝え聞いた話でなら覚えてます。というかこの国にいて知らない、覚えてない人なんて一人もいないんじゃないですか? 竜人化した皇帝とたった一人、互角の戦いを繰り広げ、勝利したという人物のことですよね。あたしたちと一緒に戦ってくれた銀竜、その契約者だって説が濃厚の。あれ、未だに信じられないんですよ。いくら銀竜の契約者だと言っても、相手は伝説の邪竜の契約者の上、たった一日でグレン王国を乗っ取ったあり得ないくらい強い皇帝なんですよ?」
「俺も勝てたのが信じられない。まあ実際勝ったというより、時間稼いだだけというか、行動不能にしただけなんだけどな。戦闘中、あ、これ死んだな、って思った瞬間が何度もあったよ」
「へえ、そうだったんですねええええ!? え、それってまさかまさかまさか!?」
「そのまさかだ。ミーア、君の隣に座っているこの人物こそが、銀色の閃光と呼ばれているその人だ」
なぜかユキトがドヤ顔しながらそう紹介した。
「どうも。わたしが銀色の閃光こと楓ソーマです」
証拠、になるかは分からないが、両手の手の平にある銀色の【竜の爪痕】を見せる。
「ひええええ! うわ、すごいすごいすごい! 握手してください!」
ガシッとすさまじい力で両手を握られる。小さくて柔らかい手なのに何という握力。相当鍛えているのが分かる。
「貴様、いつまで妹の手を握っているつもりだ! 離せ!」
「いやまだ握手して二秒くらいしか経ってないんですけどぉ!?」
「そうだぞソーマ。そうみだりに女子の手を握るものではない。慎みたまえ」
「二人とも厳しすぎやしませんかねぇ!」
仕方ないからすぐに手を離す。離しても依然としてミーアからキラキラした目で見つめられているわけだけど。こういった反応をされることはこれまでの人生で無かったから、なかなかに嬉しいし照れる。
「全く、ミーア、君、そんなことじゃ困るぞ。これからソーマと一緒に訓練していくんだから」
「銀色の閃光さんが我が軍と訓練を!?」
「そうだ。ソーマの卓越した剣術を兵たちに学ばせる。加えて、銀竜とソーマを相手とした模擬戦闘で集団戦闘訓練を行う予定だ。君もアルバートと共にソーマの存在を踏まえた訓練メニューを考えねばならんぞ」
「へ?」
「アルバートにはグレン王国軍のトップを任せる。ミーアにはその補佐を頼みたい。組織図で言えばナンバーツーだな。兄妹だし意志の疎通は図りやすいだろう。二人の実力ならばこの人選には文句が出ないはずだ。出たら一人一人私が説得する。正式な辞令はまだだから他言無用だぞ」
「ええええ!? さっきから話の内容が衝撃的すぎて頭がこんがらがりそうです!」
ミーアが頭を抱えている。うん、確かにそうだよね。この情報量は誰でもパンクすると思う。
「そういうわけで、私は今からアルバートと引き継ぎ作業を行う。ん、事務所の片づけを頼んでいたはずだが……」
「申し訳ございません我が君。カエデ殿と話をしていたため、片づけに着手することができませんでした」
「かまわん。一緒にやろう。ミーア、君に任せる仕事はアルバートから伝えさせるから、今からソーマに、訓練地区一帯を案内してやってくれないか?」
「承りました」
取り乱していたミーアだったが、命令には即座に反応する。
さあ、行った行った。時間は有限だ、ソーマも今後この場所で長い時間を過ごすのだから、きちんと訓練地区について把握するように! とユキトに言われながら背中を押され、事務所を出る。
ミーアはしばし呆然としていたが、気を取り直すように勢いよく頭を振り、自ら頬を叩いて気合いを入れていた。
「あたしが、ナンバーツー……頑張らなきゃ! では楓ソーマ様。僭越ですが、このわたくし、ミーア・グレンが訓練地区の案内をさせていただきます」
事務室でも見せた、畏まった綺麗なお辞儀。
「そんな畏まらなくていいよ。俺も気軽に接してくれた方が助かる」
「分かりました。ではソーマさん、行きましょー! あたしに着いてきてくださーい!」
張り切って俺の手を取り、早足で外へ向かうミーア。この切り替えの早さ、見習いたい。