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蒼銀の竜契約者  作者: 深田風介
緋銀
125/187

2部二章 始

 グレン王国は鉄の産地として有名で、それだけでなくその鉄を加工する技術もこっちの世界ではピカイチなのだという。


 俺の世界の技術書をもちこめば文明レベルを引き上げられるのだろうが、そんなことをしたら世界のバランスを崩しかねないのでできない。『夜霧』によって俺という存在が消されるかもしれない。


 俺、文系だから工業系さっぱりでアドバイスしようがないのが幸いだな。

 王都はまだ復興の最中にある。邪竜グレイブの残した傷跡は、あまりに大きい。


 王城にある特別竜舎へ着陸。

 グレン王城は、かつての面影などなく、九割ほどが欠損しており、生活スペースが、そこら辺の金持ちの邸宅くらいになっている。

 ユキトが、王城を修復している時間や物資を、街の復興に充てたためだ。良い王様である。


「みすぼらしくてすまないな」

「何言ってんだ。庶民の俺からすると十分豪邸だ」


 ユキトは、ほぼ全壊状態の王城を、寂しげに見上げている。

 もう、マテリアもグレンも、戦争して欲しくない。二人が悲しむ姿など見たくない。


「大丈夫。私は正しいことをしているはず。亡き父も、きっと、許してくれるはずさ」


 誰かに、何か言われたのだろうか。早く王城を修復しないと亡きグレン王が悲しむぞ、みたいなことを。

 俺は、言葉だけでなく行動でも肯定してあげたくて、ユキトの肩に手を置いた。


「許すどころか、褒めてくれるよ。民のためを想っての行動なんだから。俺、ユキトみたいな、自分の利益のためとか自尊心を満たすためとかじゃなく、国民のために行動できるところ、好きだ。すごいと思う。心から尊敬できるよ」

「あばばばば」

「え?」

「コホン。何でもない。ありがとう。ソーマからそう言ってもらえると、私も、その、嬉しい」

「はは、俺の言葉なんかでいいならいくらでも言うぞ」

「それは困る」

「なんで!?」


 ユキトは眉をハの字にさせ、困り顔を作った。なぜだか顔も赤くなっている。何か困らせること言っちゃったかな、俺。


「いってぇ!」


 ユキトの様子をいぶかしんでいた最中に、足の指の付け根に衝撃を受け、思わず声を上げてしまった。


「あ、ごめんカエデ。間違えて踏んじゃった」

「そこって間違えて踏める場所なの!?」

「うん。偶然間違えた」

「どゆこと」


 ティオは無表情で淡々と弁明している。これは本当に偶然間違ってしまったのかもしれないなぁあはは。


「いってぇ!」


 ぐおおおお、今度は反対の足先が! 地面にめり込むぐらい! 踏みつぶされてゆくぅ!


「申し訳ない。貴殿の身長があまりにも低かったため、視界に入らず、誤って踏んでしまった」

「失礼な170あるし低いってわけでも」


 そりゃこいつに比べれば低いわ俺。

 いつの間にか、目の前に、二メートルを超す勢いの長身の男が立っていた。

 後ろでちょこんと束ねられた、艶のある、手入れが行き届いているだろう黒髪。

 精悍な顔立ちのイケメンだ。なぜだか見覚えがある。 


「こら、アルバート。客人にそんな失礼なことを言うものじゃない。謝罪しろ」

「はっ。申し訳ございませんでした、我が君」

「私にじゃない。そこの客人にだ」


 口調こそ落ち着いているものの、奥に烈火のごとく怒りを滲ませた声音で命令するユキト。

 アルバートと呼ばれた男は、嫌そうに顔を歪めながら、俺に向き直り、洗練された優雅なお辞儀をした。


「客人、失礼なことを言ってしまい、申し訳なかった」

「いや、そこまで気にしてないけど、なんで足踏んづけてきたりあんな皮肉言ったりしたんだ?」


 そういうことを直接聞いちゃうあたり、自分って空気が読めない人間なんだろうなと思ってしまう。だって、聞かないと分かんないし。


「それは、いくら客人と言えど、姫、ではなく王になれなれしい態度をとることが許し難く、つい」


 素直に答えてくれるあたり好感が持てる。話せば分かりあえるタイプなのかもしれない。


「ああ、うん、そうだよな、ユキトってもう一国の主だもんな。俺も態度を改めなきゃいけないかもしれな」

「ソーマ。それだけはやめてくれ頼むから。以前と変わらず接して欲しい」

「お、おう、ユキトがいいなら」


 すごい食いついてきた。必死すぎて頷くほかない。


「ふむ。アルバート。君を私の近衛騎士に取り立ててからちょうど一年くらいか。君の優秀さ、働きぶりは目を見張るものがある。君とも情報を共有しておこう。悪いが、ソーマ、ティオ、アルバート、応接間まで付いてきてはくれないか」

「ティオ、とは、まさか」


 ティオという名を聞き、アルバートの顔色が変わる。


「それも含め、話す」


 ドレスを翻し、城内に入っていくユキトの後を俺たち三人はついていくことに。

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