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蒼銀の竜契約者  作者: 深田風介
2部 銀
124/187

手合わせ

 そう言いつつも、お互い一歩も動かない。

 訓練なのにユキトからは殺気が感じられる。本気でやりにきてやがる。一瞬でも気を抜いたらつけ込まれるな、こりゃ。


 しゃーない。こっちから攻めるか。

 受けの姿勢から攻めの姿勢へ。

 一旦構えを解き、鞘に納める、仕草をする。

 そのまますり足でユキトとの距離を詰めていく。


 ユキトは自分からガンガン攻める、電光石火の強襲戦術のイメージがあったが、剣術は意外にもカウンター型なのかもしれない。

 ユキトはまだ動かない。カウンター型はどこまで相手を引きつけられるかがキモ。見極めに関してかなり気を遣っているのだろう。


 そこを逆手に取る。

 柄頭を、相手の視線の真っ正面に合わせる。その位置に合わせたまま抜刀していくと、距離感を狂わせることができる。相手には刀身が見えず、柄頭、『点』しか見えないわけだ。


 抜刀。からの、横一文字。納刀状態からの抜刀斬り。いわゆる居合い斬りというやつだ。居合道で散々鍛えた。

 ユキトは反応が遅れ、俺の横一文字を胸部やや下に受ける。斬撃を受けたのに後ずさらず、最初の構えそのままに突きを放ってきた。大した胆力だ。


 だが俺はこの時点でユキトのカウンターを読んでいた。横一文字を放つと同時に半身になり、左半身を後方に逸らしていた。


 横一文字を放った手首を返し、下からの斬り上げを行う。

 わき腹をとらえた。二撃受けたユキトはたまらず大きく後方へ距離を取った。

 その動きも読めている。斬り上げを放った後すぐに右手だけでなく両手で木刀を握り、上段に構え、剣道で鍛えた踏み込みをもってユキトの着地地点まで一気に距離を詰める。


 ユキトは着地間もない上段からの攻撃にすかさず木剣を頭上に掲げて防御する、かと思ったのだのだが。

 着地と同時にユキトの姿勢は、既に剣を振るう状態になっていた。


 振り下ろしの初期段階、木刀に力、スピードが乗り切るほんの少し前の状態で、ユキトの斬り上げが俺の木刀をとらえた。 ぐわん、と、木刀が頭上へ持っていかれる。これじゃボディががら空きだ。


 その隙を逃すはずがなく、ユキトは斬り上げから綺麗に上方からの突きへつなげ、喉元へ放ってきた。さながら、遙か上空から襲い来る鷲のごとく。

 顔を狙われたなら左右どちらかに振ってギリギリ回避できるが、喉元は無理だ。


 そう判断した俺は、木刀を弾かれた勢いを利用して勢いよく後方へ倒れ込んだ。

 その反応が予想外だったのか、ユキトの鉄面皮が剥がれ、驚きの表情が現れた。

 倒れ込んだ後、横に転がって体勢を立て直す。


 ユキトも同じく、突きが外れたために生じた隙を埋めるべく後ろに下がり木剣を構えなおした。

 静寂がおりる。振り出しに戻った。


「おいおいユキトさんや。本気になりすぎじゃありませんか? さっきの突きは肝が冷えたぞ」

「君なら避けられると信じていた。あんな避け方をされるとは流石に予想できなかったよ」

「なりふりかまってられるかよ」

「私だって。まさか二回も斬撃を受けることになるとは」

「続き、するか」

「ああ」


 その後三〇分に渡り、俺がやや優勢なまま手合わせが続いた。 


「二人ともお疲れさま。はい、これ」


 軽く息が上がっている俺とユキトに、ティオが温かい紅茶を差し入れてくれる。


「ありがとな」

「かたじけない」


 冷たい岩場で既にクールダウンをすませた身体に、紅茶の温かさが沁みる。


「グレン式剣術、受け主体のカウンター型で、横や斜めからの斬撃は少なく、代わりに振り下ろし、斬り上げが多い。上下斬りのキレがすさまじかったな。それに、突き。あれが一番キツかった。色んな体勢から突きが飛んでくるもんだから毎回冷や冷やしたよ」

「そういう君もデタラメな剣術だった。無駄な動きがなく、最低限、最速な剣捌きを披露したかと思えばダイナミック、大味な動きでパターンを読ませない。終止押されていた。完敗だよ」


 ユキトも相当な強者だった。俺が今まで戦ってきた剣術に長けた人物、ティオやギルに負けずとも劣らない腕。幼い頃から剣を振るい続けてきたことが伺える。


 それは俺も同じだ。父方、母方、それぞれの祖父から剣道と居合道をたたき込まれ、こっちの世界に来てからもティオからマテリア式剣術を教わった。また、実戦の中で腕を磨いた。


「時間あったらさ、教えてくれよ。剣術」

「よかろう。君ほどの実力者ならすぐに飲み込んでしまうのだろうな。楽しみだ」


 笑い合う俺とユキトを見て、ティオが少しむくれた顔で、自分とも手合わせして欲しいと頼んできた。

 疲れ切った俺とユキトは、勘弁してくれと同時に悲鳴を上げたのだった。



 竜二頭と共に結界魔法、探知魔法を編んだ後、就寝。翌日の朝を迎えた。

 俺は寝ている間、無意識に粗相をしないよう両手両足を縛ったままシルバにくるまれて寝たおかげで、ラッキースケベは起こらなかった。ここまでしないと俺はやらかすからな。これでいい。これでいいんだ。なのになんだろう、この、何ともいえない虚無感は。


 それはいいとして、五時前に起きて、シルバとグランの最高速でもって空を駆けたおかげで、七時頃には目的地に到着することができた。


 グレン王国、王都。

次回より、グレン王国編開始。

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