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蒼銀の竜契約者  作者: 深田風介
2部 銀
119/187

ソーマの寝相

 とうとうティオも寝息を立てはじめた。

 食事後の昼下がり。疲れているユキトじゃなくても、誰だって眠くなるだろう。

 かくいう俺も既に睡魔に襲われている。

 しかし眠るわけにはいかない。

 ここが人里離れた村の跡地だったとしても、気は抜けない。

 ユキトやティオは、命を狙われてもおかしくない立場の人間。寝ているうちに全員殺されていた、なんてこともあり得なくもない。

 太股をつねり、意識を保つ。だがそれは応急処置にすぎない。何か考え事をしないと睡魔に屈してしまう。


 これからの計画。頼みの綱は、音波。

 俺が元の世界からいなくなったことに気づき、追ってきてくれている、はず。

 音波がいれば、『夜霧』に協力を要請することができる。

『夜霧』の目的は世界の均衡を保つこと。定義が曖昧だから、協力に応じてくれるかどうか分からない。

 だからこそ彼らは、俺の協力要請に応じる必要があるのかないのか、情報を集め『確かめて』くれるだろう。今のマテリア王国の状況を。どっちにしろ、ある程度の情報を得ることができる。『夜霧』はきっと対応してくれるはずだ。なんせ俺やシルバを、世界の均衡を崩しかねない存在としてマークしてたくらいなんだから。


 グレン王国という安全圏に身を落ち着け、『夜霧』からの情報を待つ。待っている間にティオの記憶を取り戻すために試行錯誤する。俺が考え得る限り、これが最善の行動だ。

 そんな風に今後の予定を頭の中で練っている最中、不意に部屋が暗くなった。

 急に太陽が雲で隠れた、というレベルじゃない。これは、何か巨大なものが、太陽を遮ったことによる暗転。

 窓を見る。すると、巨大な、銀色の瞳と目が合った。


「っ! おい、シルバ。驚かすなよ。危うく大声出して二人を起こすところだった」

『ちょっと驚かしてみたいという悪戯心が芽生えてしまってな』

「このやんちゃさんめ。それで、どうした? 何かあったのか?」

『いや、何も。ただ、そろそろ主たちが仮眠をとる頃だろうと考えて、見張り役を買って出ようとな。ここは我とグランが見ておく故、主は安心して眠りにつくといい』


 なんなの俺の契約竜。気遣いできすぎぃ。心までイケメン。モテて当然。リア獣爆発しろとか言ってすまんかった。


「じゃあ、お言葉に甘えて。助かるよ。ありがとな」

『礼にはおよばない。主も急にこちら側に呼ばれ、疲れがたまっているだろう。休める時に休むがいい』

「うん……おやすみ……」

 シルバのイケボが子守歌代わり。張っていた気が緩み、俺は一瞬で眠りに落ちた。


 

 どうしたらこんな姿勢になるんでしょうねぇ。分かってたけどさ、俺の寝相が常人を超越する悪さってのは。


「ソーマ。何か申し開きはあるか?」

「ないです。あの、ユキトさん、あなた様も、俺の寝相の悪さはご存じですよね?」

「ああ。はじめて君と会った日に思い知らされた」

「なら、ね? お慈悲とか、いただけないかなーっと思って」

「慈悲? なぜ? あの時私は君を正座させこんこんと説教したはずだが」

「いやね、人間、クセって中々治らないものでね。ましてや寝てる間は意識ないわけですから」

「カエデ」

「はい。なんでしょうティオさん」

「まずさ、私の胸を鷲掴みにしている手を離そうか」

「はい」


 もはや触れ慣れてしまった感触を手離す。慣れたとは言っても、毎回幸せなことには変わりない。


「ソーマ」

「はいなんでしょうユキトさん」

「そろそろそこから顔を出したらどうだ?」

「怖いんです。顔出したら、確実に二人からの折檻が待ってるじゃないですか」


 そう。俺は今、ユキトのドレスのスカートの中に顔を突っ込んでいた。目を覚ましたらこうなっていた。誓って自ら飛び込んだわけではない。

 目の前におわします神秘の布地は、ドレスの色、また、グレン王国の国旗の色である、黒と赤。黒の下地に赤系の装飾。ユキトのことだから自国に誇りを持ってこの色のを選んだのだろうが、俺からしてみればただただエロい。そうだろう男性諸君。だって黒と赤だよ? 


「ソーマ。どっちにしろ苦しみが待っているのなら、早めに消化しておくのがいいと思わないか?」

「そんなの分かってるよ! でも、ならなぜ夏休みの宿題を最後まで引っ張る!? そういうことだろ!」


 ずぐむ、と、ユキトのスラッと長い脚から繰り出される爪先キックが俺の腹部に突き刺さる。衝撃で後方へゴロゴロと転がっていくぅ!


「大声を出すなっ! い、息がかかって、へ、変な感じになるだろう!」


 そう。ユキトさんはこういうハプニングに遭遇すると、顔を赤らめるのだ。男っぽい口調のユキトがそういう可愛らしい仕草するとグッとくるものが。


「カエデ。その顔は、何も反省してない顔だね。そうなんだ。私以外の女の子にもこんなことしてたんだね。へぇ」


 絶対零度。一撃必殺。

 最高にクールな表情だぜティオ。クールっていうかブリザード。暴風雪。炎のユキトと暴風のティオ。怒る時は戦闘スタイルが反映される、と。参考になりますね。

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