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蒼銀の竜契約者  作者: 深田風介
2部 銀
118/187

まどろみ

「「「ごちそうさまでした」」」


 三人揃ってシチューを食べ終わる。

 俺とティオで皿洗いをし、食後の紅茶を飲んでほっと一息。

 俺がソファに腰掛けると、つられてティオも俺の横に腰を下ろし、それを見たユキトがティオの反対側に。


「あのーお二人さん? いや、俺は嬉しいんだけどね? その、狭すぎるんじゃないかなぁって思うんだけどね? ね?」

「私はここがいいの」

「私もだ。当の本人たちがこう言っているのだから問題あるまい」


 二人ともどんだけソファ座りたいんだよ。まあ固いイスよりやーらかいソファに座りたがる気持ちは分かるけども。

 二人掛けのソファだからぎゅうぎゅう詰めだ。お互いの体温がハッキリ感じられる。ユキトなんかドレスだから生地が薄くて感触がね、うん、ティオもなんだけどね、女の子の身体って柔らかいね。

 って今は煩悩に支配されている場合ではぬぁい! 


「ユキト。グレン王国の兵が国境線にいた理由、聞いてもいいか」

「嫌だ。私はまだくつろいでいたい。公務続きの中、ようやく捻出した僅かばかりの時間なんだ」

「つまり、休憩した後ならいいってことだな? 俺とティオは、一国の主であるユキトが対応しなくちゃいけないくらいの重要人物、だよな?」

「当たり前だ。ティオは言わずもがな、ソーマは、伝説の銀竜の契約者。あの邪竜を滅ぼした英雄だ。まあ君がシルバの主であることはごくごく少数しか知らないことだが。超重要人物だ」

「英雄っていう実感皆無なんだけどな」


 自分がそんな大層な人間だとは思っていない。あの時は、ただただがむしゃらに前へ進んでただけだったから。ティオを救うために。リーサや、アレクのために。


「君が自身のことをそう思っていなくとも、事実を知るものにとって君は英雄なのだ。君はこの先、銀竜の主であることを隠し続けるつもりか?」

「別に自分が英雄だって誇示したいわけじゃないし、面倒ごとが振ってこそうだし、隠すつもりだ。俺は自由に動きたい」


 全てが解決したら、俺はシルバに乗ってこの世界を旅してみたいと思っていた。地球じゃ見られないような景色を見ることができるはず。

 旅する場合、英雄という肩書きはただの荷物でしかない。旅に重い荷物はいらないのだ。


「そうか。なら仕方あるまい。我が国にて英雄感謝祭を行い、国を挙げて君を祝おうと思っていたのだが、それはナシだな」


 な、なんじゃそりゃ!? 国を挙げてのセレモニー。俺だけの、俺のための。

 思わずのどが鳴る。大勢の人が俺を崇め奉る光景。ボク見てみたいです。モテまくること必至だろう。うううう!


「ああ、そんなことしなくていい」

「了解した」


 断腸の思いで断った。俺はしがらみなく旅をする方を選んだのだ。


「俺はティオの付き人って設定でいいだろ。シルバには隠れていてもらう」

「彼はそれで平気なのか?」

「シルバは昔からずっと隠れ住んでたからな。慣れてるんだとよ」

「そうか。後で彼にも挨拶にいかないとな」

『主よ、グランと遭遇した。そちらにユキト・グレンがいるのか?』


 シルバが『竜の爪痕』を通じて声を飛ばしてくる。


「ちょうどお前の話してたんだよ。まだちょっとかかるから引き続き待機よろしくな。多分、グランと一緒にグレン王国に向かうことになると思う」

『ふむ。グラン嬢と一緒か……』

「不満か?」

『いや、未だ彼女との接し方が分からぬのだ。ひどく冷たく当たられたかと思えば、甘えたようにすり寄ってくるし』

「リア獣乙。このモテ竜が! 反省しろ!」

『ええっ!?』


 それからなんかゴチャゴチャ言ってきたが無視した。シルバはそろそろ自分が大変おモテになることを理解しなければいけないと俺は思うわけです。


「シルバとの会話は終わったか?」

「うん。そっちは?」


 シルバとの会話に集中していたから聞き取れなかったが、ユキトもグランと会話していたようだ。


「シルバがイケメン過ぎて辛いだそうだ。恥ずかしくてどうしてもツンケンした態度をとってしまうと嘆いていた。あと、自分の見た目をひどく気にしていたな。メイルと比べ自分は大柄だから魅力がないんじゃなないだろうか、と」

「ツンデレ竜キタコレ! なんていじらしいんだ! 萌える! シルバ爆発しろ!」


 もうシルバ完全にラノベ主人公じゃんなんなの。メイルは天真爛漫、妹系で、グランはツンデレお姉さん、シンがクーデレと、ヒロイン陣に死角がない。


「メイル、って、私の契約竜だよね?」


 メイルという単語に反応し、ティオが声を上げた。


「そうだ。青竜の上位種、蒼竜。可愛いやつだったよ。ティオがさらわれた時、俺と二人で協力したのは良い思い出だ。ギルバート・グレンを倒せたのも、メイルのおかげだった」

「ギルバート・グレン……」


 ユキトが感慨深そうに呟く。

 そうだ。まだ、ユキトにギルの話をしたことがなかった。

 ギルは、その名字が示す通り、王族だったという。ということは。


「もしかして、ギルってユキトの」

「従兄妹だ。革命軍時代、散々苦しめられた。だが、私は、どうにも彼を憎み切れずにいる……」

「どういう意味だ?」

「すまない。思い出したくない過去がある。詳しいことは話せない」

「そっか」


 俺が、カイルとは別の意味で、忘れられない人間の一人。最後に見せた高潔さは、今でも鮮明に思い出せる。

 沈黙が流れる。次の話題はすぐには見つからない。

 ボーッとしていたら、急に左肩の重みが増した。

 見やると、ユキトが寝息を立てていた。

 伸びた髪。ドレス。見慣れていたユキトの寝顔が、それらによって新鮮味を帯びたものになる。

 クマができるくらい、働き詰めだったんだ。ご飯を食べた後の眠気には逆らえなかったのだろう。


「ユキトさん、寝ちゃった?」

「ぐっすりだよ。起こさないようにしないと。それと、会話、置いてきぼりにしちまって悪かったな」

「本当にね」


 拗ねているようだ。段々と子どもっぽくなっているような気がする。


「悪かったって」

「実はそこまで気にしていない。ユキトさん、カエデにとって大事な人なんでしょ? そんな人と久しぶりに会ったんだから、会話に花を咲かせるのは当然」

「良い奴だなティオは」

「まあね。……竜との会話、か。私の契約竜、私と会えなくて寂しがってるかな」

『竜の爪痕』を眺めながら、ティオは切なげな声を出した。

「寂しがってるよ、きっと。俺も寂しい。ティオの記憶を取り戻すために動きつつ、メイルも探さないとな」


 メイル経路で呪いがティオにかけられているとすれば、犯人はメイルを手中に収めている可能性が高い。

 犯人が、何の目的で、ティオに呪いをかけ、記憶を奪ったのか。

 まだ、何の情報もつかめていない。

 安らかな寝息を立てているユキト。

 もうマテリア王国には戻れないだろう。ひとまずはグレン王国で体勢を立て直さないと。

 体勢を立て直しつつ、情報集めが得意なアイツを待つ。

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