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蒼銀の竜契約者  作者: 深田風介
2部 銀
116/187

待ち人

 これは、早急にあいつとコンタクトをとる必要があるな。雲行きが怪しい。今グレン兵と接触するのはマズいと本能が告げている。

 しかし、連絡手段がない。この時代に電話がないのが悔やまれる。いや、あったとしても一国の長と気軽に電話なんてできないか。

 隠密行動に長けた音波を頼りたいところだが、こちらも連絡手段がない。

 一縷の望みにかけるしかない、か。


「進路変更。シルバ、竜契約者を警戒しつつ、右方向へ。そうそう、そのまま真っ直ぐ。しばらくしたら山が二つ見えてくるから、その間を突っ切っていけ」

『承った』


 シルバに指示を出し、ある場所へ向かう。

 風景が過ぎ去っていく。子細に観測することのできないほど、速く飛んでいる。メイルを凌駕するスピードだ。この分なら数時間で着きそうだ。

 高く高く上空へ上がり、探知系の竜魔法に引っかからないようにする。


『着いたぞ、主』


 降り立ったのは、森の中の、小さな村の跡地。

 その村の中で最も広く、見晴らしの良いスペースに着地。

 荒れに荒れた広場だ。

 小さな勇者が、幼き命を散らせた、俺にとっての聖地。

 広場の一角にある、小さな小さな墓石へ手を合わせる。


「この村、戦場になったのね」


 ティオは背中越しにそう呟いた。

 記憶がなくても、そういうことは分かるんだな。そういえば会ったばかりの頃、色んな戦場を経験してきたって言ってたっけ。


「戦場なんていう上等なものじゃないよ。一方的な虐殺だった」

「カエデが何とかしたの?」

「誰一人救えなかったよ。俺と、もう一人の竜契約者と一緒に、虐殺を行ったクソ野郎を倒しただけだ」

「そう……」


 ティオはそれ以上つっこんでこない。

 まだ、辛いな。思い出すのは。辛くても、忘れちゃいけない。だから俺は、生きている限りこの地を訪れ続けるだろう。

 この広場にはもう一カ所、目を背けられない場所がある。

 広場の中央近く。

 そこには、錆び付いた大鎌が突き刺さっている。

 耳障りな哄笑が聞こえる気がした。

 できるだけ見たくない。でも、目をそらすわけにはいかない。

 やつは間違いなく大悪人だった。罪のない、無力な人々を楽しみながら殺した。

 やつを殺してしまってよかったのだろうか。

 きっと俺は、自身に一生そう問い続けるだろう。


「待たせたなティオ。行こう」

「どこに?」

「ここに来るかもしれない人を待つ。待ってる間に住む場所に行く」


 あの家は身体が覚えている。何度も足を運んだ。

 中央の広場と、村の端の中間あたり。

 比較的綺麗なまま残っている家々の中の一つ。

 ドアノブをひねり、中へ。

 変わってない。当時のままだ。

 感慨深さに身をゆだねていたせいで、気づくのが遅れた。

 あまりに、そのまま過ぎる。誰かが定期的に掃除しているとしか思えない。

 誰か、じゃないな。分かり切ってる。この家を知っているのは、この世で俺とあの子の二人だけなんだから。


「ここで待つの?」


 早速ベッドに腰掛けたティオは、きょろきょろ室内を見回していた。


「ああ。ここで待ってれば、確実に会えるはずだ」

「どれくらいかかりそう?」

「さあ。そこまでは分からん。一週間か、一ヶ月か、もっとか」

「そんなに!?」


 こればかりは断言できない。定期的に来ているのか、偶然、最近来て掃除していっただけなのか。

 どのくらい待つか、制限を決めよう。

 そうティオに提案しようと口を開きかけたところで、俺は硬直した。

 なぜなら、ドアノブが回り、誰かが家の中へ入ってこようとしたからだ。

 戦闘体勢に入りかけていたティオを、手で制する。

 現れたのは、黒と紅のドレスのようなものを纏った少女。

 最後に会った時には短かった髪が、背中くらいにまで伸びている。


「髪伸びたな、ユキト。黒髪ストレートは俺の好みド真ん中だ」

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