逃亡
なんとなく嫌な予感はしていた。
ティオは俺との旅が終わってから、王位を継ぐために城に戻っていたはずなんだ。
この国で一番守りの固い城に。
なのに、ティオはこの有様だ。
気づくべきだった。
察するべきだった。
敵は、何も外だけにいるものじゃない。
「主よ! 流石の我でもこの集中砲火は耐えきれそうにないぞ!」
俺たちは城にさえたどり着けてはいなかった。
王都の入り口。ステルス魔法を使用していたにも関わらず、衛兵たちに見つかった。
そして衛兵たちの数が尋常ではなかった。
すぐさま集まってきたのが、五〇人。
その全員から一斉に放たれる竜魔法。
シルバの魔法だけで何とかしのげる。
俺自身が竜魔法を使えばこの局面をきりぬけることができるだろう。
しかしこの規模の戦闘となると、手加減ができそうにない。まだ自分はそこまでの実力者じゃない。
竜神化したら、おそらく何人か、何十人か、殺してしまう。
この国の戦争がなくなった今、戦いで人が命を落とすなど、あってはならない。
「カエデ! 一緒に加速魔法をかけてひとまず逃げるわよ!」
ティオがそう提案してくる。
それしかない、か。
「ティオ! 二人で加速魔法かけるぞ!」
「了解!」
協力して加速魔法を二重がけし、驚異的なスピードを得たシルバは戦線を離脱した。
『主よ。我はどこに向かえばいい』
「……グレン王国だ」
『承った!』
シルバはすさまじい速度で空を翔ける。
魔法で風圧から守られてはいるものの、あまりの速度から、俺とティオは話せないでいた。
飛び続けること六時間。
どことも分からない森林地帯に降り立つ。
「今日はここで野宿だな」
「カエデ、グレン王国に行くってどういうこと?」
「ひとまずグレン王国……ユキトに匿ってもらおう」
「ユキトって、さっき話してくれた思い出話に出て来た、カエデのことが好きな人?」
はああああ!? いきなり何ぶっこんできちゃったのこの記憶喪失娘はぁぁぁぁああああ!
予想外のコメントに心拍数が爆上がりしたため落ち着くために深呼吸。念入りにな。
「ぶっ!? ちょ何言ってくれちゃってんの!? ユユユユユキトはそんなんじゃないから。固い絆、そう、友情とかで結ばれてるだけだから!」
深呼吸の意味がなかった。だって今までそんなこと考えもしなかったもん。
「ふーん。どう考えてもユキトはカエデのこと……まあいいか。でも、なんで私たち、いきなり攻撃されてしまったのかしら?」
「……分からん。けど、ある程度の憶測は立てられる」
「聞かせて」
シルバの背の上で向かい合いながら、ティオが真剣な目を向けてくる。
「おそらく、今、マテリア王国は、何者かに乗っ取られている」
次回更新3月中盤〜末予定