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ひまわり  作者: 仲村 歩
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海の家

磯の香りがする。

そんなことを言うと綺麗な海を想像するかもしれないが磯の香りは淀んだ栄養豊富な海水で微生物が繁殖し死んだ時に発する臭や海藻の腐敗臭だ。

だから僕が知っている綺麗な海では磯の香りなんて殆どしないのを記憶している。

でも、その記憶に残る海で僕は大きなトラウマを負って水が怖くなって泳げなくなった。

江ノ電の高校前駅に降りて海を見ると朝だというのに情け容赦なく太陽が照りつけている。

この界隈では人気がある江ノ島の砂浜には組立途中の海の家の骨組みがある。

もう、そんな季節なんだ。

夏の太陽、青い空に入道雲とくれば海なのだろうか、単純。

そんな僕でも夏には小遣い稼ぎができるから嫌いじゃない。


「クラゲはまた怪我をしたのか。しょうもない奴だな」

「緋山先生、僕の名前は海月です。クラゲじゃありません」

「そうだな。クラゲ」

ここは鎌倉高校の保健室で僕は1年の海月蒼佑うみづきそうすけ

体育の時間に膝を擦りむく怪我をして保健室に来ていた。

「しかし、お前の体はどうなっているんだか」

「そんな事、僕の方が知りたいです」

初めて気づいたのは小学校の時だろうか。

治癒力が高いだけじゃ説明が出来ないほど怪我の治りが早く風邪などの病気にもなりにくい事を感じたのは。

そして、小学校の頃からは好奇心から気味悪がられそれが嫌で怪我をすると大袈裟に包帯などで傷口を隠し続けていた。

高校に入ってからは緋山先生だけが僕の秘密を知って見守っていてくれる。

「そろそろ夏休みだがクラゲはまたバイト三昧なのか?」

「婆ちゃんの手伝いですから」

「貰うものは貰う癖に。成績に影響が出ないようにな。一応、ここは学力向上進学重点校なのだからな」

「先生が一応なんて言っていいんですか? 僕は戻ります。有難うございました」


僕が通う高校も住んでいる場所も湘南なんて呼ばれて巷では人気のある土地にある。

神社仏閣が数多く点在していて情緒ある古民家もあるがマンションなどや新しい家などもあり新旧が混在して独特の雰囲気を醸し出している。

狭い路地と坂道が多く無駄に足腰が鍛えられるのは間違いないと思う。

高校前駅から江の島を超えたところに僕の家と言うか住まいがあり。

婆ちゃんと2人暮らしで夏には婆ちゃんが海の家を出すので僕は毎年駆り出されて手伝う予定になっている。

まぁ、目の前に海があるけれど過去のトラウマから嫌いではないけれど海が苦手と言うか。

特に夏休みの予定なんて無いので小遣い稼ぎにはもってこいなのだけど。

それと両親は事故で亡くなったと婆ちゃんに教わる程、僕が幼いころに他界していて。

育ての親である婆ちゃんも実は大叔母で双子の片割れの本当の婆ちゃんは沖縄に住んでいる。

ばーちゃんの話によれば千と千尋に出てくる湯婆婆と銭婆と同じくらい性格も何もかも正反対らしい。

そんな僕が暮らす婆ちゃんの家は純和風の古民家で庭には季節の草花が植えられ、少し前までは紫陽花が雨上がりにはとても綺麗だった。

ばーちゃんの性格は明るく小さな事に拘らない一言で言えば豪快なのは海の家にぴったりだ。


夏休みになると朝から海の家の準備に追われる。

7時前には海の家に行き婆ちゃんと開店する為にパラソルや浮き輪を表に出す。

「クラゲ、ちゃんと働いてるか?」

「お早うございます。黒川さん」

「おはー、蒼ちゃん」

「お早うございます。白銀さん」

続々とアルバイトの大学生が海の家に現れた。

黒川さんはサーファーで真っ黒に日焼けしていて体つきもしっかりしていて頼れる兄貴分で、白銀さんは黒川さんと対照的にスレンダーで姉貴肌の大学生だ。

直ぐにナイスバディの赤坂さんと物静かなイケメンの青野さんが顔を出した。

婆ちゃんの海の家は周りから比べれば派手さはなく昔ながらの海の家なのにアルバイトの大学生のおかげで毎年大繁盛する。

何故、他から比べても群を抜くアルバイトが何の変哲もない海の家にアルバイトに来るのだろう。

時給だって周りと変わらないし婆ちゃんの人徳なのかもしれない。

黒川さん達に直接聞いた事があるけど顔を見合わせて笑われてしまった事がある。

「しいてい言えばアサギだからかな」

「えっ、婆ちゃんの名字だから?」

余計に頭がこんがらがってしまい、それ以上は聞くことが出来なかった。

海の家の仕事はメインが客引きであると言っても過言ではなく売り上げを一番左右する。

その点、婆ちゃんの海の家は宣伝効果抜群のスタッフが粒揃いだ。

パラソルや浮き輪の貸し出しに始まりドリンクの販売と焼きそばや焼きモロコシの調理を黒川さんと青野さんが担当し。

そしてお客の対応など赤坂さんも白銀さんも心得ていて僕はパシリみたいな仕事に従事する。

「あら、蒼ちゃんは私たちのマスコットなんだから」

「そうそう、蒼ちゃんは笑顔でいれば良いの。揉め事はオーナーに任せておけば」

そんな事をしらっと言うけれど…… 派手なアロハを着た婆ちゃんは店にかかわる事でも関係なくトラブルには躊躇せずに踏み込んでいく。

今もナンパで揉めている男女の間で問題を仲介するのではなく直感でどちらが悪いか判断して男たちを蹴散らしている。

婆ちゃん自身がとてつもなくでかい広告塔で助けられた女の子達が嬉しそうに婆ちゃんの後を追いかけてきた。

「いらっしゃいませ」

「うわぁ、イケメンも良いけど僕が可愛い!」

「婆ちゃんは何を言ったのさ!」

「可愛い孫がいるけど」

仕事中はお客さんに弄られ休憩中には赤坂さんや白銀さんに弄られたおされる。

完全に弄られキャラになるのは僕の背が低いからだろうか。

そんなに低い気はしないし標準だと思うけどモデル並みのスタッフから見ればちんちくりんなのかもしれない。


海の家は日が傾きお客が帰るころを見計らって片づけをはじめ砂浜のごみ拾いも日課になっている。

皆がゴミを持って帰ったり処分したりしてくれればもっと綺麗になると思うけれどそうはいかないらしい。

「あっ、すいませんでした」

「気を付けろ。クソガキが」

「すいません」

ゴミ拾いに集中しすぎて人にぶつかってしまい顔を上げるとすごい形相で睨まれていた。

関東でも有名なビーチなのでそれこそ色々な場所から人がやってくる。

当然、中には柄の悪い人もやってくる訳で……

「ちっ、気を付けろよ」

「はい、すいませんでした」

また絡まれるのかと思ったら周りの視線を気にして男の人が立ち去っていく。

シーズン中は弄られキャラなので絡まれることも多いけれど周りの人に助けられることが多い。

今だって椅子に座っているアロハ姿の婆ちゃんの前に黒川さんを筆頭に赤坂さん・青野さん・白銀さんがこちらに視線を送っているお蔭で男の人が逃げて行った。

まるで……考えるのは止そう。

非現実的だしそんな事を口にすればヲタクだと言われるだけだろう。





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