八
おじさんは腕時計を見やってから、
「トイレに行ってくるね」
と立ちあがった。
「いっトイレ!」
とは言わずに、
「あ、そうですか」
とだけ答えた。おじさんがいない間にまた英語の長文と格闘する。おじさんのおかげかどうかはわからないが、なかなかはかどっている。できれば今日中に終わらせたいな、この問題集。
そう思っていると、おじさんが帰ってきた。(どうやら小のようだった。)そして、藪から棒にこんなことを言い出した。
「おじさんは昔はね……高校生だったんだよ」
「そんなの当たり前でしょ!」
そんな無意味な突っ込みはしない。俺は非生産的なことはしないのである。
「へぇ、そうなんですか」
「おじさんは昔は剣道に空手をやっていたんだよ。だけど、どっちもうまくいかなくてね。クラブはバスケ部だったよ。毎日毎日走らされっぱなしだったなあ。……ところで、君は何のクラブに入っているんだい?」
クラブという言い方が、時代を感じさせる。俺たちは基本的に部活と呼ぶが、昭和の学生だった大人たちは、クラブと呼ぶのだ。親も先生も皆そうである。不思議だなあ。
俺はヴァイオリンケースを見せながら、
「弦楽合奏部で、ヴァイオリンをやってます。あと、一応将棋部長でもあるんですけど……まあ、下手の横好き程度の嗜みで」
「へぇ。おじさんも昔ヴァイオリンを三ヶ月やったけど、全然弾けなかったなあ。おじさんが昔できたのは……」
おじさんが自慢話をしだした。
設問8:おじさんの自慢の内容とは?