五
「あのー、ここってこんな感じじゃないッスかねぇ?」
「いや、おじさんはこうだと思うんだけどなあ」
「でも、文脈から言ってこんなんじゃないかと思うんッスけどね」
「そうかな……」
腑に落ちない顔をしているおじさんに、俺はどうしても気になることを訊かずにはいられなかった。
「これなんです?」
「あ、これは今話題の……」
と言って、カバーを取ってくれた。
「レ・ミゼラブル! あ、これ映画化されたやつですよね! ヴィクトル・ユーゴーの傑作の!」
「そうだよ。あ、これはちなみに第三巻ね」
「読んだことはないんですけど、どうしようもなく救われない的な話ッスよね。ああ、映画みたいなあ」
するとおじさんは急に顔色を変えて、
「あれはダメだ」
「そうなんですか?」
おじさんによると、カットが多いから原作を読んだ方が良いらしい。俺はそんなこと考えずにただ観たいと思っていたのだが、そう言われるとその気も失せる。思わぬ収穫である。ま、偶然の産物と言ったところか。おかげで貴重なお小遣いを無駄に使わなくて済んだ。
それからおじさんと読書について語り合い、時は流れていき……。
「ねぇ、何か飲む? おじさんがオゴるよ?」
設問5:俺の対応を予想せよ。