四
男はごく普通の男で、顔に特筆すべきところはなかった。身長は俺よりやや背が高い約百七十センチメートルくらい。白髪はまったくなく、髪の量も衰えていない。また、痩せているものの引き締まった体には筋肉も結構ありそうだ。中年の割にはスタイルが良い方だろう。さらに、ベージュのコートを羽織り煙草をふかす姿は、少しかっこいい気がする。
「何読んでるの?」
イヤホンを外した俺に、男は年の割にくだけた感じで訊いてきた。
「英語の長文です。学校の宿題で……」
「そうなの。ちょっと読んでも良い?」
「あ、どうぞ」
「こう見えてもおじさん、英語は得意なんだよ」
おじさんが英文をお読みになっている間に、左のテーブルをちらりと見やる。
ホットコーヒーとカバーがかかった分厚い本……。どうやら、スポーツ新聞を広げる、競馬や競艇が好きなおじさんではないようだ。
それにしてもあの本は何なんだ?
目線を自分のテーブルに戻すと、おじさんが勝手に問題を解き始めていた。
「ちょっと書くモノはある?」
う、まずい。解答を直接書きこむ気だ。というか俺の問題だよ!
しかし、年長者はリスペクトしなくてはいけない。
「あ、ありますよ……」
と鉛筆を渡した。
「ええと、ここは……」
意外とおじさん字が汚ねぇ!
俺は叫びそうだったが、それを何とかこらえた。
設問4:おじさんの持っていた本を当てよ。