三
俺は英語の長文と格闘している間、音楽を聴いたせいであるが、外の世界との間に堅牢堅固な壁を造って完全に隔絶していた。
そして、目の前の問題と正対する。
……。
あ~あ、それにしても、わかんねぇ~。
高二の俺に対して、結構有名な大学の入試問題をテーマ別にした長文問題集を出す学校の方が、普通に考えておかしいだろうと個人的には思っているのだが、もしかしたらこうかもしれない。
俺は昔から興味のないことを「覚える」のがとことん苦手だった。テスト前に瞬間的に覚えて一瞬で忘れるのは得意なのだが、長期的に覚えることは大の苦手だった。長期的に覚えるにはそのことに関心とか興味が必要である。しかし、俺は英単語や熟語にたいした関心も興味もない。カタカナ語として使われてる程度の英語の意味が分かれば充分だからだ。だから、問題を解くときは、文脈の中でわからない語句を類推する。しかし、最近はその常套手段が通用しない、つまりは文脈もつかめないほど、語彙が不足してきたのだ。ついに、長年語彙を増やす努力を怠ったツケが回ってきたのかもしれない。だとしたら、高一の頃にもっとやっとけばよかったなあ。
なんて後悔している時、左から声がした。イヤホンを装着しているので聞き取れないが、相手は俺に向かって話しかけているようだ。
こんなところで友人に会うなんて奇遇だな。だとしたら、偶然の産物だなぁ。俺は最初そう思っていた。
ところが、現実は俺の予想をはるかに大きく裏切ってくれた。
左を向くと、見知らぬ中年男が座っていた。どうやら、話しかけてきたのはその男以外あり得ないようだった。
設問3:男の容姿を想像せよ。