お姉ちゃんの日
アタシにはおねえちゃんがたくさんいるの。みんなどこへいってるのかはしらないけど、いまはうちにいない。けど、アタシにはおねえちゃんがたくさんいるの。アタシはたくさんのおねえちゃんにあそんでもらったんだから。おとうさんは『おねえちゃんたちはいそがしくて、たまにしかうちにかえってこれない。それで、かえってきたときはリザといっしょにいっぱいあそぶんだ。でも、おねえちゃんたちはいそがしいから、またすぐにどこかへいっちゃうんだ。さびしいけど、すぐにね』っていってた。だからおねえちゃんたちはうちにかえってきても、すぐにどこかへいっちゃう。それで、いつかかえってくる。でも、まだもういっかいかえってきたおねえちゃんはいないんだ。でもしかたないよね、おねえちゃんたち、みんないそがしいんだから。
アタシには、おねえちゃんがいっぱいいるの。
第1話
『探すなキケン 父』
そんなふざけた書き置きを残して、父さんは消えた。一月ほど前のことだ。
神様っているのかな。もし居たら、それはとても不公平な性格を持った存在なんだろう。もしそうじゃないのなら、なんでウチは貧乏で、どうして領主様の屋敷はあんなに大きいのだろう。どうしてアタシは一人で、領主様には奥様や老いたご両親に加えて子供達や孫達が居るのだろうか。牧師様の言うこともおかしい。『神様は死後の世界において、平等な決まりを御作りになった。生きているうちにどれだけ清い行いをしたかによって、死後に住める世界が変わる。だから教会に寄付をして、善行を積みなさい。寄付というのは生きているうちにできるもっともわかりやすい善行で…』とかうんぬんかんぬん。それって結局はお金をたくさん持ってる人しか救われないんじゃないの?そのことを牧師様に言うと、ものすごく嫌な顔をされて追い返される。ひどいときなんか水を使ってまで追い払おうとする。あれは雑巾でも洗った後の水だったのかな。ひどく臭った。悔しいから窓に石を投げてやったら、ガラスは粉々、中から悲鳴が聞こえた。ざまあみろ。後で聞いた話だと、アタシが投げた石はガラスだけじゃなく聖母像の頭も壊していたそうだ。とっくに死んだおばさんのことをいつまでもありがたく崇めてる人たちの気が知れない。
アタシは神様なんて信じない。目には見えないし、触れもしない。そんなものをどうやって信じろというのか。たまに『私には神の声が聞こえる』とか言ってる人が居る。大体の宗教の『教祖様』達は、みんな口をそろえて言っている。声なんて絶対に聞こえない。だっていないんですもの。もしも聞こえる人がいたら、それは単に気が狂ってるだけでしょ?とにかく、アタシは神様を信じてない。信じてないだけじゃなく、殺したいほど憎んでる。絶対に手を合わせたり、顔を地面にへばりつけるように平伏なんてしてたまるか。信じるとしたら悪魔だろう。もし悪魔がいるのなら、この世に不公平が溢れているのは納得がいく。
……なんでアタシはこんなこと考えてるんだろう。ああ、そうか。これは夢か。どうりで普段考えないような変なことばかり考えるわけだ。それでさっきからアタシの後ろに誰かが居るわけね。
ていうか、なんでこの人はアタシの首にタトゥーを彫っているのだろう。顔が見たい。けれどフードをかぶっててそれは見えない。一針一針、私の体に刻まれていく。それはじわりじわりと広がり、やがては全身に。そして最後の仕上げとでも言わんばかりに眼球に迫る針……。
「キャーーーーーーーーーーーーッ!」
単なる悪夢だった。でも、アタシは冷静ではいられなかった。気づくとそこはいつものアタシの部屋で、アタシのベッド。心臓は狂った調子で脈打っている。本当に嫌な夢……! こんなに疲れた夢は見たこと無かった。あ、ひとつだけあったかな。でも…どんなのだったっけ? 忘れちゃった。
さて、夢にいつまでもこだわっていちゃいけない。そんなことしてたら、アタシの嫌いな教祖様達と一緒になっちゃう。あれ、まだ寝ぼけてる?まぁ、どうでもいいけどね。今日はいつもは人の来ないうちのレストランに、お客さんが確実に来る日。