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『悲劇の貴婦人』は害獣夫を愛情深く飼育する

作者: こじまき
掲載日:2026/04/23

きらびやかな夜会の中心。


「はははっ!エレインが才色兼備の聖女だって?笑わせる」


私の夫――ロッジ伯爵アルベールは、取り巻きに囲まれて、今日も無邪気に醜態を晒している。


「確かに外面だけはいい。同世代では一番の美人だしな。だが中身は空っぽで、俺に従うことしかできない女だよ」


グラスをあげたりさげたりするメイドに、造りのいい顔が台無しの下卑た笑みを振りまきながら。


「身体も外側ばかり立派で…」


そういって彼は両手で何かを揉む仕草をし、取り巻きがどっと笑って私の胸に目をやる。


「だが中身はどうだ。子ども一人産めない欠陥品なのに、簡単に離婚もできやしない」


貴族学園で同級生だった貴婦人たちは、私への同情と彼への怒りを隠そうともしない。


「ちょっとエレイン!あの馬鹿に好き放題言わせておいていいの!?」

「なんであなたともあろう人が、あんなやつに馬鹿にされないといけないのよ」

「あなたが言えないなら、私が代わりに言ってきてやるわ!」


私は扇で口元を隠す。


「子どもを産めていないのは本当だもの。伯爵夫人としてあるまじきことだわ」

「エレイン…!だからって公衆の面前であの言葉は、いくら何でもひどいわ…!」

「いいのよ。私は彼と結婚できて幸運なのだから」

「何言ってるの!あなたの前にはもっといい求婚者が列をなしていたじゃない!」


友人たちは、私を心配してくれている。


ありがとう。けれど――


「心配しないで。本当に大丈夫だから」

「エレイン…!」


納得のいかない表情を浮かべる友人たちに別れを告げて、私は夫に近寄る。


「アルベール様、少しお酒が過ぎるようですわ。そろそろ馬車へ…」


私が優しく肩を抱くと、夫は「指図するな!」と私を突き飛ばす。


「めったに飲めない酒ばかりなんだぞ」


彼がこぼした赤ワインが、私の水色のドレスに広がって会場が凍りつくが、私は微笑みを崩さない。


「皆様、お目汚しを。失礼いたしますわ」


周囲が「おいたわしい」「まさに悲劇の貴婦人」と溜息をつくなか、私はまともに歩けもしない夫を支えて、夜会をあとにした。



またある日の夫は、これ見よがしに愛人を屋敷に連れてきた。私の前で自慢げに彼女を肩を抱き、彼女にキスをせがむ。


「お前が子どもを産まないのが悪いんだ。俺の優秀な血を残す必要があるからな」

「ええ、もちろんです。すべて私の責任です」

「まったく…完璧な女だと皆は言うが、俺からすれば欠陥品も甚だしい」


私が「欠陥品」とは。


真実を言い当てている。


「アルベール様だけが、本質を見抜いていらっしゃるのですわ」

「…その響きは悪くない」


夫は「ふん」と鼻を鳴らして、「寝室に温かいワインを用意しておけ」と指示する。


「承知いたしました」


いつもの手順で、銀のカップに温かいワインを注ぐ。冷えに効き、子どもを授かりやすくなる温かいワイン。


そこに、私の幸せを維持する薬を適量。


「ふふ」


寝室でもう上半身裸になっていた夫は、私が手ずから運んだワインを手に取る。


彼にベタ惚れだという「愛人」も、私からカップを受け取る。彼女は私が三顧の礼をもって迎えたプロであり、夫に惚れているわけではない。完璧に演じてくれているだけだ。


二人は盃を合わせて、ワインに口をつけた。


「邪魔だ、出て行け。それとも混ざりたいのか?」

「いいえ。失礼いたします」


ああ、どうしようもない馬鹿。


女を蔑みながらも色に溺れて、女なしでは生きられなくて。


そして愛人を帰したあとで、「エレインも抱いてほしいだろう」と、偉そうに私を寝室に呼ぶのでしょう。


何でもしてくれる私でないと満足できないのに、素直にそうは言えなくて「慈悲を与えてやる」だなんて。


抑えようとしても、喉がくつくつと鳴ってしまう。


「エレイン…エレイン、どこだ!」


愛人が私に目配せして帰ったあとで、私は部屋に呼ばれる。


部屋に行く前に、温かいワインに薬を混ぜて飲み干す。


――避妊薬。


夫と愛人にも同じものを飲ませている。


だって、もし夫の子どもが産まれたらと思うと、ぞっとする。


中途半端に馬鹿な子が産まれるのは望まない。もし運よく夫並みに純度の高い馬鹿を授かれたとしても、「多頭飼い」は愛情が分散してしまう。


「それに、父親になって急に責任感に目覚められても困るわ。何もできない馬鹿のままでいてもらわないと」


出来の悪い子ほど可愛いのだから。


ここまで馬鹿なのはもはや希少種。手放すのはもったいない。


おいたばかりするこの子を、私の手元で飼ってあげないと。


その一途なまでの愚かさが、今日も私を極上の愉悦で満たしてくれるのだから。


子どもなど、いらない。


「アルベール様だけで、いいのです」


だって私は害獣にしか愛を向けられない欠陥品。


そしてあなたは私に捕らえられた害獣。


私に組み敷かれて鳴いてくれる限りは、愛してあげる。

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