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第六章 息の保管庫
第六章 息の保管庫
地下の棚に並ぶ石板は、どれも“音”を抱えている。
近づくだけで耳が痛い。
息が壁から滲み出す。
保管者の長が真白を見た。
瞳が静かすぎて、怖い。
「鈴の者。あなたが均す」
差し出された石板には、心電図のような波形が刻まれていた。
「世界の感情波形だ」
長は淡々と言う。
「幸福が高まりすぎると反動で崩壊が来る。絶望が続くと文明が止まる。鈴はそれを均す」
均す。
救急のトリアージ。
冷たい判断。必要な判断。
真白は自分の指先を見た。
いつも血と汗と薬剤に触れてきた手。
世界を均すなんて、無茶だ。
そのとき、胸のペンダントがかすかに震えた。
チリン、と鳴らない音。
呼吸の奥が、勝手に痛む。




