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第五章 4655年の石の海
石の隙間の通路は、外より冷たかった。金属の匂いが混ざる。
円形の広間。床に複雑な紋。
中心に鈴。銀色で、触れる前から鳴る気配がある。
真白は手を伸ばし、止めた。
未知の器具は怖い。
触れた瞬間、誰かが死ぬかもしれない。救急の癖だ。
「触れていい」
マリクが言う。
「あなたは呼ばれた側だから」
指先が鈴に触れた瞬間、耳の奥が痛んだ。
——ヒュッ。
誰かの息の吸い損ね。
その音が、真白の内側で鳴った。
真白は膝をついた。喉を押さえる。
視界が暗くなる。
救急外来の床の冷たさが戻る。
マリクが背に手を当てた。熱い。
「聞こえた?」
真白は頷き、涙が勝手に落ちた。
「ここは息の保管庫だ」
マリクの声は低い。
「世界が壊れないように、最後の息を石に封じる」
真白は反射的に首を振った。
封じるなんて。
息は、返すべきだ。
そう思った瞬間、胸の奥が痛んだ。
返せなかった息が、何度もあったから。




