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第四章 岩絵の洞(チリン、と鳴った)
第四章 岩絵の洞(チリン、と鳴った)
翌日、岩の回廊は影が冷たかった。砂は粉みたいに滑り、足音が吸い込まれていく。
洞へ入った瞬間、真白の足が止まる。
赤褐色の線で描かれた人影。
胸元に小さな円——鈴。
絵なのに、こちらを見ている気がした。
真白のペンダントが急に重くなる。鎖が首に食い込む。
耳の奥で、澄んだ音。
チリン。
視界が白く弾けた。
硬い蛍光灯の光。消毒液の匂い。
——違う。ここは洞だ。洞なのに、病院の匂いがする。
音が消えたとき、空が変わっていた。
翡翠色の薄雲。光の角が鋭い。
砂が湿っている。足跡が消えない。
背後で砂利を踏む音。
振り向くとマリクがいた。
服が違う。胸に金属の紋章。瞳は同じ蜂蜜色なのに、そこに“長い時間”の影。
「遅かった」
初対面のはずの声が、初対面の言い方じゃなかった。
「……マリク?」
彼は頷き、真白のペンダントを見る。
「鈴が鳴った。あなたが来た」
真白は息を吸った。
空気が冷たい。
胸の痛みが一拍だけ消えた。
「西暦四千六百五十五年。九月十四日」
マリクは淡々と言う。
「タッシリは、世界の救急室になった」
救急。
逃げてきたのに、追いかけてくる。




