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第三章 砂の上の青い息
第三章 砂の上の青い息
アルジェの夕方は、空が銅色だった。
乾いた風が肌を撫でる。汗がすぐ冷え、毛穴が閉じていく。
呼吸が軽い。肺が、久しぶりに“全部”開く。
ガイドの青年はマリクと名乗った。
黒髪に砂が光り、瞳は濃い蜂蜜色。言葉は少ないが、嘘を混ぜない目をしていた。
「タッシリは石の森です」
車窓の地平線はまっすぐで、世界の端みたいだった。
「迷ったら、風の匂いを覚えてください。石の匂いが帰り道の匂いです」
夜、焚き火。
煙の匂い。焦げた木の甘さ。
真白はペンダントを握った。火の近くでも温まらない冷たさ。
マリクの視線が落ちる。
「それ、どこで?」
「空港。偶然」
マリクは焚き火を見つめたまま言った。
「偶然は、砂漠では少ない」
風が岩を擦り、笛みたいな音が鳴った。
その音が、病院の呼び出しベルに似て、真白の肩が跳ねる。
怖いのは砂漠じゃない。
自分の中の、救えなかった時間だ。




