第二章 転落のアラーム
第二章 転落のアラーム
眠れない夜は、救急の廊下のように長い。
天井の染みが、患者の顔に見えてくる。
若い男の喉が上下し、空気を掴めない。
真白の手袋は汗でぬるつき、吸引の管が指から滑りそうになる。
「大丈夫、今——」
“今”の先に、間に合うはずだった。
だけど彼は、目を開けたまま息を止めた。
視線だけが残って、真白の手のひらの熱を拒んだ。
その視線が、今夜も戻ってくる。
真白は布団の中で、無意識に自分の喉を押さえた。
そこに、何も詰まっていないのに。
翌朝の空港。
人の流れは滑らかで、誰も倒れていないことが、逆に異物みたいに感じた。
免税店の片隅。
古い石のアクセサリー。
黒い隕石のペンダントが、真白の足を止めた。
触れた瞬間、冷たさが骨まで刺さる。
石の溝は、文字のようで、地図のようで、縫い目のようでもあった。
「砂漠の星の欠片」
売り子の老人が、流暢すぎる日本語で言った。
笑うと目尻の皺が砂紋みたいに広がる。
「音を閉じ込める石。息をね。あなた、息が足りない顔してる」
真白は胸へ手を当てた。
吸う。吐く。
吐くときに、途中で引っかかる。
「……買います」
言った瞬間、自分でも驚いた。
理屈じゃない。
救急で鍛えた“嫌な予感”の逆——必要だという直感。
首にかけた。
チリン。
どこにもないはずの鈴の音が、耳の奥で鳴った。




