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岩絵の鈴(いわえのすず)——息を縫う者  作者: 百花繚乱


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第十七章 岩絵の更新

第十七章 岩絵の更新


夜明け。

真白は岩絵の洞へ向かった。

壁の“鈴を抱く人影”の胸元。

円の中に、新しい線が増えていた。

心電図のような線。

縫い目の線。


岩絵は未来の記録だ。

そして未来は、更新される。


マリクが真白の隣に立った。

「すまなかった」

真白は頷いた。

許したわけじゃない。

でも、彼の罪も、縫う対象だと理解した。


真白は鈴を掌で包み、最後に一度だけ小さく鳴らした。

チリン。

音が朝の光に溶ける。


第十八章 呼び出しの朝


白い光。

真白は2026年の洞の前に立っていた。観光客の声。乾いた熱。

胸の中の残響は消えていない。

でも、名前を持った。抱ける重さになった。


スマホが震える。

救急からの着信。

真白は迷わず出た。


「はい。真白です。今、向かいます」


走りながら、真白は深く吸って吐いた。

全部の呼吸が入る。

遅い到着を、今日こそ取り戻すために。


終章 息を抱いて歩く


救急外来は今日も溢れていた。

モニター音、足音、泣き声、祈り。

真白は走り、手を動かし、名前を呼ぶ。


救えない息がある。

それでも救う手順を捨てない。

止血し、縫い、戻す。

世界じゃなくても、目の前のひとりに対して。


休憩室で、真白はペンダントを握る。

冷たい石。

溝が、地図みたいに指に引っかかる。


遠い場所で、遠い未来で、鈴が鳴っている気がした。

真白は目を閉じ、息を吸い、吐いた。


残響は消えない。

でも残響と一緒に歩ける。

それが、生きるということだ。


(完)

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