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第十六章 最大の選択(全解放の夜明け)
第十六章 最大の選択(全解放の夜明け)
サイードが現れた。
穏やかな笑顔。
「あなたの手順は遅い。人は待てない」
そして彼は、膜の中心へ刃を当てた。
「だから、世界を救う」
刃が入る。
息が線になって噴き出す。
ひゅう、と冷たい風。
涙の匂い。血の匂い。怒りの匂い。
群衆が一斉に叫ぶ。
波形が尖り、都市が震える。
その瞬間、マリクが立っていた。
真白の前に。
「俺の罪は、俺が止血する」
マリクは鈴を掴み、真白に渡した。
手が熱い。
震えている。
「離れろ」
真白が叫ぶ前に、マリクは膜の亀裂に自分の掌を押し当てた。
血が滲む。
膜が“呼吸”して閉じようとする。
人の体温が、世界の止血帯になる。
真白は鈴を握り、息を吸った。
吐いた。
「……縫う」
そして鈴を、強くではなく、正確に鳴らした。
チリン、チリン、チリン。
三音。
必要な分だけ。
それ以上は鳴らさない。
暴走の手前で、世界の呼吸が戻る。
泣き声が、祈りへ変わる。
拳が止まる。
サイードの笑顔が崩れた。
「なぜ……」
真白は息を吐いた。
「救いは、早さじゃない。間に合わせる順番だ」




