13/17
第十三章 帰還(2026年の夜)
第十三章 帰還(2026年の夜)
真白は病院の更衣室に立っていた。
蛍光灯の白。消毒液の匂い。
現代が戻ってきたのに、胸の中だけ未来のままだ。
ロッカーに手をつく。指が震える。
鏡に映る自分の目の下の影が、濃い。
逃げたい。
でも逃げたら、未来で誰かが死ぬ。
それが想像じゃなく、体験になってしまった。
スマホが鳴る。
救急から。
真白は出ない。
出たら、日常が全部戻る。
戻ったら、未来は夢になる。
真白はペンダントを握った。
冷たい石。
免税店の老人の声が、なぜか耳に戻る。
「あなた、息が足りない顔してる」
息。
真白は深く吸い、吐いた。
胸のどこかに、まだ引っかかる。
引っかかるなら、ほどくしかない。
真白は目を閉じ、石の溝を指でなぞった。
地図みたいに。縫い目みたいに。
「……戻る」
誰にともなく言った。
「私は、私の意思で戻る」
チリン。
光。




