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第十一章 現代救急②「いちばん遅い到着」
第十一章 現代救急②「いちばん遅い到着」
鈴の波形がまた尖った夜、真白は現代へ引き戻された。
救急外来。
搬送されてきたのは、彼女が救えなかった若い男の“恋人”だった。
過呼吸。手が痙攣し、唇が青い。
「彼、死んだんですか」
女の声は、壊れかけのガラスみたいに震えた。
真白は、答えられなかった。
答えたら、全部崩れる。
その瞬間、女は小さく言った。
「……遅いよ」
怒鳴らない。泣かない。
ただ、息みたいに吐いた。
その“遅い”が、真白の胸を貫いた。
救急はいつも遅い。
救急は、間に合うために走るのに、どうして遅い。
真白は、女の手を握った。
握った手が冷たい。
「吸って。吐いて。私の真似して」
真白は呼吸を見せた。
自分の肺を使って、誰かの肺を落ち着かせる。
女の痙攣が少しずつほどける。
そのほどけ方が、赦しに似ていた。
——チリン。
未来に戻る。
真白の目から、熱いものが落ちる。
これは涙じゃない。
遅れた到着を、今から取り戻すための水だ。




