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第十章 恋は、止血できない
第十章 恋は、止血できない
夜、マリクと真白は石の回廊を歩いた。
風が岩を擦り、笛のような音。
遠い喧騒の残り香が、まだ空気に刺さる。
「あなたが来なければ、今日もっと死んでた」
マリクが言った。
褒めているのに、責めているみたいに聞こえる。
真白は笑えなかった。
「私、救急で……救えなかった」
「知ってる」
マリクの言葉が鋭い。
「だからここに呼ばれた」
真白は足を止めた。
「呼ばれた、って何。私、選んでない」
「選んだ」
マリクは真白のペンダントを見た。
「あなたは、あれを買った」
真白は言い返せない。
指が、首元の石を強く握りしめた。
沈黙の中で、マリクが真白の手を取った。
熱い手。
真白の手が震えるのを、押さえるように。
「怖いなら、俺を見ろ」
その言葉が、喉の奥に刺さって、抜けなかった。
恋は止血できない。
止血しようとすると、余計に出血する。




