9話 どっちが勝っても
川口青空澄の故郷にある遊園地で七つのアトラクションの制覇を目指す西浦あかりたちは、二つ目の施設をクリアしメダルを手に入れた。チームメイトの一人、三郷楽阿の姿は見当たらない。施設のゴールで待っていると思いきやそんなことはなく、引き続き彼抜きの五人で次の予定を話し合う。
「近くて待ち時間が短いのはここだ」
「いいんじゃない? 並び直す人が少ないから待ちも短いんだろうし」
大森憩が園内の施設マップと客の混み具合を調べ、どんなルートなら最低限の時間で制覇できるか考える。現在地との距離も判断材料に加えて、三つ目の施設はケーキクライムを選ぼうとする。
日比谷興奈も賛成した。なぜ待ち時間が少ないのかという視点で考えると、まずこの遊園地には彼らのように招待状を受け取った客が大勢いる。彼らと同じく制覇を目指しており、これまでゲットしたメダルは、四人ずつ挑戦する施設で一位を取ることが条件だった。
彼らの中では一つ目の施設での一位はアスミで二つ目の一位はアカリ。だが彼らはチームを組んでおり二人が入手したメダルは一つのケースに保管する。現状入れてあるのはアスミのメダルだけで、アカリは余韻に浸って手放そうとしない。
挑戦するとき、四人の内訳が全員チームメイトになるようにまとまって並んだ。だからどんな勝負を繰り広げてもチームの誰かしらが一位でメダルをゲットでき、そうやって二つ確保した。
挑戦することではなくメダルを集めることが目的なので、一回やるだけでは満足しない客もいる。そういう人が大勢並び直すと列が渋滞し、待ち時間が延びる。逆に待ち時間が短いと列も短く、クリアが簡単な可能性が高いのだ。
あまり待たずに行きたいイコイとなぜ待つ時間が短いのか根拠を述べたオキナ。二人の意見で他のチームメイトも彼らの提案に乗っかる空気になった。
「そうかな? 怖いから並ぶ人が少ないんじゃ……」
アカリは待ち時間の短さには別の理由があるように思えた。客が捌けるテンポが速いからではなく、そもそも客の数が少ないせいではないかと。制覇する都合、その施設にも寄らなくてはならない。だが招待状を受け取った全員がその企画に挑戦しているとは限らないし、招待状なしに来園している地元の客もいる。この遊園地は彼らの住まいとは離れているので、彼らの知り合いで来園したのは招待状を貰った六人だけで、チームを組んで全員企画に参加しているが。
ともあれ並ぶことが必須でない人が少ないために待つ人も少ないから待ち時間が短いかもしれず、並ぶ人が少ない理由は並びたくない要因があるかもしれず、アカリはその要因が怖いからではないかと考えた。
「怖いっていったらこっちでしょ」
イコイはアカリの意見を聞いた上で、次行く施設とは別にお化け屋敷を指差す。こちらはここから遠く現状待ち時間も長い。見るからに怖そうだが興味を示す客が多く、人気がある証拠だ。
「まあ人が少ないからこれしか待たなくていいって考え方も分かる」
オキナはアカリの考えが杞憂であることを知っている。四人で挑戦する施設五人で並んでも一人あぶれて他の客と組んで挑戦することになる。四人で事足りるので一つ目の施設に行ったとき彼は留守番に名乗りを上げ、彼女らと離れた隙に近隣の施設に下見に行っていた。だから実は次の施設がどんなものか知っている。けれどもその情報を明かさない。事前に調べたのは、皆の前で驚いたり焦ったりみっともない反応をしないようにするため。
だから彼女には考え過ぎだと告げず、意見を聞き入れたうえで警戒を解くよう促す。
「空いてる時間帯なんじゃない?」
「確かに。ケーキっていうくらいだし」
オキナはなぜ次の施設の待ち時間が少ないのは知っている。だがその理由を憶測として発言することはない。的中したことが判明したとき、実は知っていたのではと勘繰られる可能性があるからだ。だから別の理由を自分で考え、実態と外すことで疑われるのを回避する。そして自分はハズレと分かっているから冷静に受け止める。外したことを恥ずかしがることはないのだ。
そんな彼が挙げたのは、人が少ないのは怖い施設だからではなく、少ない時間帯だからではないかという憶測だ。施設のデザイン的にも、食事の時間帯になると混むかもしれないのは納得がいく。
そうだとしたら彼らが考えるべきは、空いている隙に今行くか、混むが周りと同じようにお昼になってから行くかだ。
「じゃあ今行こう。この人数で集まって食べるには空いている方がいい」
イコイは真っ先に前者に一票を入れる。混雑するほど大人数で揃って食事するスペースを確保しにくい。実際は飲食スペースがなく食事の施設ですらないことをオキナは知っているが、この場では黙っておいた。下調べアピールをしたいのではなく、想定外でも動じないアピールをしたいから。
施設名にケーキがついているがそれはデザインの話であって本物ではない。食事の時間帯なら混むなんて関連性はなく、空いている理由は他にある。
「……二人もそれでいい?」
オキナはアイリとアスミに尋ねる。話し合いは彼とイコイ主体で一回だけアカリが割って入ったくらいで、二人は口を挟んでいない。方針の決め方を任せる気なら構わないが、前の施設で機嫌を損ねて我慢しているようにも思えるので、確認を取る。特にアスミなら、この判断が吉と出るか凶と出るかは直感で分かるので、普段の調子なら何かしら言ってくるはずだ。
「いい」
「どこにでもついていくから」
アスミは素っ気なく一声で済ませ、アイリは一人チームから離れているメンバーへの当てつけのように、方針にはちゃんと従うと答えた。ともあれこれにて次の目的地は決まったので五人は出発する。
「食べる所じゃないじゃん」
「ケーキみたいな崖を登るんだ」
施設が見えてくると、そこで他の客が何をしているかが鮮明になる。食べ物がモチーフなだけで中身はこれまでの施設と同じだ。何か食べることはなく、空いていた理由の予想は外れた。
看板を見ると施設の概要が載っている。内容からして四人で登る速さを競い勝者がメダルをゲットするものとすぐに分かったが、これまでの二つの施設とは大きく違う点がある。
「二人一組だって」
「四人だけどチーム戦か」
一回四人で挑戦する点はこれまでと同じ。だが今回は二人ずつ協力して挑戦する。息の合ったクライムで頂上を目指すというテーマの施設だ。こうなると話が変わる。五人のうち誰が参加するかに加えて、誰と誰がペアになるかを考える。
「まあ今回は私たちの中から一人が見学よね」
これまでの施設はオキナとイコイが留守番だった。残りは五つでなるべく均等に留守番役になるためには、まだ休んでいない女子三人から一人選ぶのが妥当だとアカリは呟く。彼女自身、さっき一位だったので次は留守番でもいいと当初は思っていたが、協力対決となると話は変わる。誰と出たいというこだわりはないが、せっかくなら挑戦したい。
とはいえそれは皆も同じかもしれないから二人の反応を確かめに顔を見る。すると二人が彼女を挟む位置で彼女を見ていた。
「私と出ようっ」
「私と組んで」
アスミとアカリは両側からアカリの腕を引く。ペアを組んで挑戦しようとお互いに主張した。本人の返事を待たず、まるで相手に手を離させたら勝ちと言いたげな勢いで引っ張り合う。
動きは痛そうに見えてオキナたちはアカリを心配したが、両手に花なことを喜んでいそうな表情なのでストップをかけるのを躊躇った。
なお本人は二人がいがみ合っていることを悲しんでいるだけだ。遊園地に来るときに乗った飛行機の座席決めのように、じゃんけんのような公平な決め方をしたい。そこへ思いがけない助け舟が出た。
「あれ? というか二人でよくない? 別々のチームになれば、どっちが勝ってもメダルゲットだ」
「本当だ。二人にプレゼントされる」
目的はメダルを集めることであって、これまでは確実に一回で手に入れるためにチームの四人で同時に挑戦し、誰が勝ってもチームの手柄になるようにしてきた。今回もそのつもりで四人選出する気でいたが、今回はペアで挑戦するなら勝利条件も変わる。看板を確認すると勝ったペアのうち勝利に貢献した方にだけメダルが渡されるのではなく、二人それぞれに贈られる。つまり四人のトップにならなくていい。
二組のどちらかは勝者としてメダルが手に入るのなら、チームの二人が分かれて参加すれば、どちらが勝とうと一人はメダルをゲットする。今回は最低二人参加するだけで勝敗にかかわらず目的を達成できる。残った三人は次の施設へ向かえば、七つ集めるにあたり効率が上がるのだ。
「でもそれ、後の二人がオーケーと言ってくれるかが問題だ」
「よそのチームからしたら、協力する理由がないからな」
チームが二手に分かれるという前提を満たせるか、イコイは疑問視する。二人をこのチームから出すとして競争する残り二人は他の客で、この分け方にしたいと頼んでも頷いてくれないと破綻する。
都合よくその二人も同じチームなら、そのチームが確実にメダルをゲットするために応じてくれるかもしれないが、正々堂々チーム同士で競いたいと言い出してきてこちらが負けるなんて展開もあり得る。
二人が別々のチームならその場限りのチームワークで立ちはだかるかもしれない。七つの施設の制覇の報酬が不明なのもあり、安易に他のチームに手助けしたくない空気感が漂っている。
「じゃあ三人で出たら確実か」
「それなら四人でやろうぜ。一人が仲間外れみたい」
ならば二人ではなく三人を選出すれば、一方のペアに偏ることはない。どんな組み合わせでもメダルを確実に入手する最低限の人数は三人だが、そんな合理性で楽しさを損ねたくないという思いもあってオキナは反対した。二人が二手に分かれるのと三人が二人と一人に分かれるのは違う。それはまさに今、女子たちの取り合いとして露になっている。
何人で参加するか決めたいが、この現状を放置しておくわけにもいかない。
「男子二人に女子三人ならそうなるよな」
「俺ら人気ないね」
これまで一回ずつ留守番した男子二人は今回参加するのは暗黙の了解。残りは女子となれば男子同士でペアを組む方が気持ち的に楽というのも共通認識。一緒に遊園地に来た仲ではあるが、同じ島で暮らす特殊能力者の同学年で招待状を受け取った人という繋がりに過ぎない。学校が違い能力者に認定された時期の近い"同期"でもないから、わざわざ異性と組みたいという意識にならない。なってくれればアカリの取り合い問題は解決するのだが。
「いや、アカリは俺らと組みたいかも」
「ポジティブ過ぎでしょ」
だがアスミとアイリがアカリち組みたがっているだけでアカリ自身は男子と組みたいと思っているかもしれないとイコイは言い出す。どこからその自信が来るのかとオキナは呆れつつも、いっそその方が平和的解決することは否定しない。
そしてアカリがこの女子たちを差し置いて男子とペアになりたいと思っているとしたら、きっとその相手はイコイでもオキナでもない。島の専門用語"同期"にあたり、来園してすぐずっと一人でいる三郷楽阿だ。ラクアはベンチで休むと言って一人で残って以来、姿を見かけない。ずっとそこに居座っているかもしれないし、飽きてけれども今さら合流することに抵抗があって陰から様子を見ているかもしれない。見ているのなら姿を見せて手を貸してほしい。
ただ仮にラクアが来たところで問題がややこしくなるだけなようにも思えるから、イコイたちは彼に伝えようとはしない。彼はアイリのことが好きで組むなら彼女とがいいと考え、本心を隠しつつ彼女とペアになれる言い訳を考えることだろう。もしアカリが彼と組みたいとしても彼は別の女子が良いわけで、その女子はアカリと組みたいから、全員で幸せになれる道はない。
となると結局、この五人から四人選ぶしかない。選択肢を増やすためなら、男子勢が二度目の留守番も厭わない。ラクアがずっとベンチにいるとすれば彼は今回で三回目の留守番となるから、二回目くらいは我慢できる。そもそも全部で最低でも制覇まで七回かかるから、五人だけなら留守番二回は公平に担当しても起こり得る。
「作戦タイム」
イコイはアイリたちに待ったをかけて、誰が誰と参加するかを取り合いではなく話し合いで決めるよう促した。




