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7話 張り合いがない

 西浦(にしうら)あかりたちは、二つ目のメダルをゲットするため次のアトラクション、馬車娘に挑戦するべく待機列に並んだ。その位置からは先に並んだ客が実際にプレイしている様子が見える。その光景は入口の看板に載っていた紹介文やイメージ絵と若干異なるものだった。


「走るんだ…… 運転じゃなくて」


 この施設は馬車で舞踏会会場へと向かう童話のシーンを再現しレースにアレンジしたもの。だがお姫様になって馬車に乗るのではなく、引く馬になって走る体験をするものだった。そうする方が走った時間に対する距離が短くなり、施設の立地スペースを抑えられる利点がある。

 ただお姫様になれると期待したら実際は動物にされるというのは期待を裏切られアカリは内心がっかりした。


「これじゃ人力車ね。乗ったことはあるけど、引っ張るのは初めて」


 美南(みなみ)哀月(アイリ)は思った。馬になりきった人が引くのならそれはただの人力車だと。とはいえ引く側になるのは初めてで、経験できる機会はこの遊園地にいる間だけかもしれないとは思う。


「だったらそう説明してくれたらいいのに」

「こっちの方が客受けがいいのかも」


 日比谷(ひびや)興奈(オキナ)は疑問に思った。人力車を引く体験ができる施設ならそこをアピールしてほしいのに、どうして馬車要素を前面に出したのかと。

 その疑問への回答にアカリは心当たりがある。申し込むどころか存在すら知らなかった遊園地への招待状。飛行機の手配や入園料などサービス満載、指定された七つの施設を制覇するとスゴいことが起こるという報酬までついているが、何か裏があるように彼女は思えてならない。

 この施設の紹介に対する実態を見て、その予感は一層当たってそうな気がしてきた。一人で先に帰るのも怖いので、皆が滞在する間は同行する。とはいえ皆にもこの不安を実感してほしいから、興味を引きつけて想像と違うことが待っているのはこの施設だけでなく遊園地そのものにも言えることだと考えてくれるよう誘導を試みる。


「まあどんな内容だとしてもクリアしないといけないわけだし」


 川口(かわぐち)青空澄(アスミ)の言う通り、彼女らは選んでこの施設に挑戦するのではない。制覇の対象に指定されていて、遅かれ早かれここに来る。やりたくなるような宣伝であろうとなかろうと、義務感で向き合うのだから関係ないと割り切った。つまり客受けを狙っているというのは思い過ごしで、アカリは返す言葉がなかった。


「これなら馬車置いて走った方が速くないか?」

「失格になると思う」


 レースを見る限り、馬の被り物を着けて馬車を引いても走力が上がるわけではない。時折加速するがそれでも普通にダッシュする方が速い。かといってあまりスピードが出てもヘルメットを装着しているとはいえ事故になりかねないから、速度を抑えるために馬車という枷をつけているとも考えられる。

 施設の醍醐味を無視してメダル獲得だけを考えるのなら、オキナの提案通り単なる徒競走になる。それがルールで認められるかは不明だ。誰か実践してくれたら判明するが、あいにく仲間は四人しかいない。一人抜けると他チームの一人が代わりにレースに参加してきて、その人に一位を取られるとメダルをゲットできず並び直しでタイムロス。気づくのがもう少し早ければ留守番のイコイに頼めたが、もう離れてしまい姿が見えない。電話で頼むにしても、今から彼だけ並んで彼が終わるのを待つことになるし、そもそも彼が引き受けてくれるかも分からない。


「見て、羽が生えた」


 列が進んでレースが近くで見えるようになると、挑戦している客に羽が生えて急加速したのが見えてアカリは興奮した。


「そういう能力?」

「ボーナスアイテムね。最下位の人がたまに手に入る」


 人に羽が生えるくらいではアイリたちはあまり驚かない。彼女らが暮らす島には特殊能力者がいる。彼女らも該当し、他校の同学年であっても交流の機会があり、羽を生やせる友達がいる。あの参加者とは面識がないがその類の能力者であっても不思議ではないと思うも、アスミはからくりに気づく。能力ではなくこの施設の演出だと。現にレースが進むと別の人が同じく羽を生やしてが位に上がった。途中で最下位の人には稀に逆転用のボーナスが与えられ、それによる羽なのだ。


「置いていったらああいうのできないかもね」

「そういう仕掛けか」


 馬車を放置して走ると、あの羽が生えるボーナスを掴めないかもしれない。普通に走るのではできない経験だ。


「でもビリじゃないと出てこないんだっけ」

「多分」


 かといって馬車を引けば手に入るとも限らない。逆転のためのアイテムなので上位を維持していては駄目だ。そして暫定最下位になった瞬間に手に入るわけでもなく、運次第だ。


「まあせっかくだし、誰が一位でも同じだし」


 一位を取りたいがために馬車を置いて走るなんてもったいないことをしているようにアカリは思う。普通の競走なんてどこでもできるし、なんならさっきやった。けれども馬車を引く機会なんてめったにない。だから貴重な経験を楽しむことを優先し、順位は二の次でもいいように思えた。同じチームなら誰がメダルを獲得してもそのチームの物として扱われる点も、順位を重要視しなくていい要因だ。だからボーナスが訪れるまでわざとビリになって、なかなか運に巡り合えず逆転できず終わったとしても、羽が生えたことに満足するかもしれない。


「でもいざやってみると皆一位になりたくなるでしょ」

「それはそう」


 誰が一位でもいいのは一つ目の施設にも言えることだったが、高得点の秘訣はスタートダッシュを決める勇気と勝負の最中に気づいてから、今度は飛ぶことを怖がらずスタートしようとやる気が湧いた。チームでメダル獲得という目的は達成したにもかかわらず、その意味ではもう一度挑戦する利点はないのに、また並んで今度は勝ちたいと思っている。そんな内心をアイリとアカリはアスミに見透かされた。なおオキナは前の挑戦で不在で、アスミは一位で満足している。


「というか競馬場で全力ダッシュもやってみたい」

「全員でそれやったら面白いかも」


 一周回ってどんな手段に走っても一位を取ってみたいという意見が出る。賛成派もいることからアカリは、皆の狙いは周りを唆して失格者を出して一人勝ちすることなのではないかと内心疑った。遊園地も招待状の差出人も怪しんでいるのに仲間まで信じられなくなると心が窮屈になる。



 ハチの次はウマになったアカリたちはスタート地点に並び立つ。馬車は引くのがしんどいほどの重量ではないが、筋肉と関係なく出せるスピードは同じなので気にすることではない。走行中にランダムに表示されるマークに対し的確にボタンを押してスピードアップするボーナスをいかに得られるかが勝敗の鍵を握る。


 合図が鳴ると四人は馬車を引いて走り出す。初手から馬車を置き去りにする人がいないのを確認したアカリは安堵したが、そのよそ見のせいでマークの表示に気づくのが遅れてしまい、正面を向いていてすぐ反応した三人に遅れをとった。


 表示されるマークは二色で、手元にはその色のボタンが左右対象に二個ずつ配置されている。マークは奇数個で一セット、ボタンを押し終えると次のセットが表示されるが、一セット目と同じ配色をしている。その次も同じで、何セットか終えるとボーナスで加速した。

 法則が読めると配色を一度認識するだけで、後は手の動きを同じように繰り返せばいいと気づき、つっかえる頻度が下がった。差がついたのはボタンの押し方の違い。アスミとアイリは常に同じ押し方をするがアイリの方が速く、競走でリードする。彼女より速いオキナは左右交互に押している。押し方は複雑になるが利き手への負担を少なくすることで押すペースを落とさない。


 少し遅れてアカリにチャンスが訪れた。暫定最下位の人に時折現れるボーナスマークだ。すると彼女に羽が生えて一気に加速した。馬車の重みを感じない、体がフワッとした感覚。前の施設でハチになって空を飛んでいたときとは違うスピード感。アイリは思わず足を止め見惚れていた。まるでペガサスになったアカリが、一瞬で自分を追い抜いていくのを見送った。

 羽はすぐに消えてしまったが、アカリはまだ心臓がバクバクしている。


「アイリ走って!」


 羽が生えた自分は周りにどう見えていたか。レースに勝つことより皆の反応を確かめたい気持ちが強く、見渡したらアイリが呆然としていることに気づく。驚いて固まっているのではと察したアカリは、ビリ回避のチャンスとは考えず、自分は大丈夫だから走るよう彼女に呼びかけた。

 だがその直後、余計なお世話かもしれないと思いアカリは目を背けた。アイリが止まったのは自分も羽が欲しいと思ってわざと順位を落としたとも考えられる。それなら今のうちに差を広げておき逆転されないようにしたい。だが近くで飛ぶのを見てみたい気もあり、天秤にかけた結果勝利を望んだ。



 アスミも失速しアカリが抜いた。羽の加速の効果は切れている。アスミがマークを押すペースが落ちたことが原因だ。あえて最下位になって羽が生える体験をしたいように思えたが、後方で同じことを考えているアイリがいる以上、減速は意味がない。三位ではボーナスが出ないルールなのだから。

 アカリは気になってもう一度アスミの表情を見ると、その目に輝きがないことに気づく。一位を諦めてでも羽を手に入れたい期待の籠った目ではない。勝つことも楽しむことも諦めた、渇いた目だ。

 スピードを上げるためにボタンを押す速さも落ちている。左手を使わず片手だけで押しているので余計に時間がかかってしまう。両手で全力でやっても敵わないと悟ったアスミは、手を抜き始めたのだ。


 おかげでアカリは容易に二位まで浮上した。けれども一位のオキナとの差は縮まらない。そして一位にメダルが与えられるだけで二位の特典はなく、そもそも誰が一位でも同じチームなので変わらない。

 アカリは張り合いがないと感じた。もう頑張らなくても三位に落ちないだろうし、頑張っても一位には届かない。つまり何かしてもしなくても結果は同じだ。そしてこの半端な順位ではボーナスアイテムが出ることもなく、作業のようにボタンを押してゴールを目指すだけ。

 アスミが諦めたくなる気持ちは分かる気がした。



 一方オキナは肩透かしを食らった気分だった。この施設のルールを聞いてアイリが参加することになった時点で、この勝負は彼女が制すると思っていたのだが、彼女が仕掛けてくる気配がない。彼女の能力は足止めに適しておりこのルールでは効果的で、だからこそなるべく逃げ切るために急いでいたのだが、その能力を発揮してくる様子ではない。

 ただ想像はできた。オキナ一人を狙っての足止めはできない。間にいるアカリたちを巻き込んでしまうのを避けた結果なのかもしれない。今回は競走相手でも友達に、足止めしようとして転倒させて怪我させてしまうのを嫌った。特に今回は馬車を引いているから、不意の転倒は怪我に繋がりかねない。

 その予想が当たっているなら、序盤から前に出てアカリたちを盾にする形でアイリに対抗できたことが勝因に思えた。後はウイニングランと割り切り、オキナは一位を目指す。


 一方アイリは違う理由で躓いていた。アカリに羽が生えた姿を見て、綺麗だと思った。自分も生やしてみたいと思ったし、だからわざと最下位になってチャンスを掴もうとした。

 その直後、彼女は自信がなくなった。ペガサスの羽で輝いてみえるのはアカリのような可愛い子だからであって、自分がそうなっても不自然なだけではないかと。そしていざお披露目したら周囲の人に笑われてしまうのではないか。そんな不安が頭を過り、前進することができなくなっていた。

 ボタンを押せば前に進む。けれどもたまにボーナスアイテムが来てしまう。もしそれが羽だったらその姿になってしまい、そうなるリスクを冒すくらいなら何もしない方が無難だと考えた。ゴールしなくても順位が確定すればレースは終わる。その瞬間を待てば恥をかかなくて済む。そんな考えの下、アイリは足を止めた。皆のゴールを待っているから、足止めのための能力を使う気はない。

 そしてアイリは後悔していた。迷うくらいなら最初から絶対に暫定最下位になるものかと集中しておけば、羽が生える可能性がないまま全力で走れた。けれどもアカリが可愛かったから、自分もそうなりたいと思ってしまい、それがこの結果だ。

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