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6話 目指すは舞踏会

 招待状をきっかけに訪れた遊園地で七つのアトラクションの制覇を目指す西浦(にしうら)あかりたちは、一つ目の施設をクリアしメダルを手に入れ、出口で待機していた日比谷(ひびや)興奈(オキナ)と合流した。もう一人、三郷(みさと)楽阿(ラクア)の姿は見当たらない。まだベンチで休んでいるのだろうから、彼抜きの五人で次の予定を話し合う。


「謎の黒い花か…… 分からないな」

「そうか。まあ、全部クリアしたらまたここに来て、確かめてみないかって話してて」


 大森(おおもり)(イコイ)は施設で見かけた不思議なオブジェクトのことをオキナに話した。花といっても本物ではない。一つ目の施設は花の蜜を集めて得点を競うというゲームで、花も蜜も機械でできたレプリカ。ただその中に一度も開かない花があり、一度に参加できる四人がかりで押しても何も反応がなかった。

 だがそれは今だからかもしれない。他の施設をクリアすることなど何かしらの条件で変化が表れるとすれば、制覇後にもう一度見に来る価値はある。


「何も変わってなくても、もう一回やろうって話してたしね。今度は本気で」

「うん。さっきは初めてで出遅れたから」


 別に何も変化がなかったとしても、この施設に用があるのは変わらない。アカリたちはハチの姿になって飛ぶことに抵抗があって時間をロスしてしまったことで、迷いなくスタートした川口(かわぐち)青空澄(アスミ)に逆転できないほどのリードを許してしまった。二回目となれば怖くないし、スタートダッシュを決める方が有利なことは学んだ。今度こそ真剣勝負をするという目的も、ここに戻ってくる理由なのだ。


「とにかく早く終わらせようぜ、あと六つ」

「賛成。他のチームに先越されたくないし」


 オキナは四人が施設に並んだり勝負している間に気づかれないよう一人で行動し、他の施設を下見しておいた。時間的に遠くの施設を把握することはできなかったが、近くのをいくつか見ると傾向が読めてくる。

 結果、難易度は控えめなのでもたもたしていると他の参加者に最初の制覇を取られてしまう気がした。

 ここの施設のように、四人で得点を競うルールなら誰かしらは一位になってメダルをゲットできる。ゴールまで完走することがクリア条件なら難易度が高いと誰もゲットできないことがあるが、そういうタイプのは近くになかった。

 となると、七つの施設の難易度は全体的に低い可能性が高い。謎の黒い薔薇も、誰かの制覇をきっかけに自分たちの知らぬ間に明らかにされてしまうかもしれないのだ。



「じゃあもう地図見ない? どこが何分待ちとか調べて」

「分担して回るのもアリかも」


 のんびりしていられないと察すると、イコイは効率的な回り方をしないかと提案した。園内マップで施設の待ち時間を確認すれば、時間のかからない順番を考えてから移動できる。すると美南(みなみ)哀月(アイリ)も提案した。全員で一緒に移動するのではなく散り散りになった方が良いのではないかと。


「四人でやれば絶対誰かは一位だけど、別に他のチームが相手でも一位取ればいいし」


 制覇の条件はチームでメダルを七種揃えること。スタンプラリーは台帳一冊に対し持ち出せないスタンプを押すので並行作業はできない。だがメダルは配布されるもので、回収したら各々ケースに嵌めていけばいい。

 そしてさっきの施設は四人で競う形式に同じチームの四人で挑んだからどんな結果でもチームでメダルを入手できる。これを繰り返せば頑張らなくてもクリアできるが、効率は悪い。だったら別行動して相手チームとの勝負を頑張って制しクリアしてくる方が早く集まる。前提として一位を取れる実力が要るが、アイリはあまり不安ではない。なにせ自分たちは特殊能力者だ。


「でも先着じゃないよね、報酬」

「うん。だから別に急いだところで」


 アカリはアイリの意見に反対だった。能力者とはいえ一人でクリアできるか不安で、けれどもその本心は表に出さず、分散してまで急ぐ理由はないことを確認する。分散してもうまくいく予感がしないアスミは彼女の考えに賛成で、ペースを上げなくていいと考える。最初の施設をあっさりクリアできたので、時間切れの心配をしていない。

 かといって悠長に回っていては、報酬や黒い薔薇など謎を他の人によって解き明かされてしまい、自分たちで暴く楽しみを得られないかもしれない。


「私は……一緒に回りたい。せっかく皆で来たし」

「そうよね」 


 けれどもアカリは皆と行動することを優先したい。自分が見て感じたとき、皆はどんな反応をしているか知りたい。分担して離れてしまっては、誰がどこで何があったか知ることができない。


「分担したら行けないまま終わっちゃうし」

「じゃあ皆で行こうか。次どこ行くかは考えるとして」


 アイリはアカリの意見に乗り換えた。並行して進めると仲間に任せた施設のことを知らないまま制覇してしまう。だから全員で回りつつ、早く制覇できるルートを使う。それが折衷案としてベストだと結論を出した。


「……アカリがそんな風に思ってくれているのにあいつは」

「まあ無理強いするのも良くないし」

「四人までだしな、ここ」


 ただ問題は残っており、それはラクアが単独で行動しているせいで、最初から皆で回れていないことだ。飛行機酔いしたとかではなく休みたいから休んでいるだけの彼をアイリは良く思っていない。とはいえおとなしい彼女が人をあいつ呼ばわりするのは同級生のアカリにとってなかなか衝撃的だった。

 だが施設の都合で一度に四人までしか挑戦できない。ラクアを含めた六人でチームを組んだのは、せっかく一緒に来たから分けたくなかったため。だから今回におけるオキナのように留守番する人が出てしまうのは仕方ないし、ラクアも合流すれば留守番が一人増える。乗り気でない彼を無理に引き込んで代わりに楽しめない人が出てしまうのも良くないので、彼が自分の意思で来るまでは引き続き五人で行動する。


「次はここだな。馬車娘」


 一段落ついたところでイコイが次の施設を告げる。皆が相談している間に各施設の位置と待ち時間を調べ、すべて回るための早いルートを計算していた。そして次に行く施設は、今回と同じでタイプは対決。名前とイメージ図からレースと読み取れた。


「一位になるとメダルゲットかな。今回と同じで」

「じゃあまた四人同時にやれば確実ゲットね」

「じゃあ行くぞ」


 チームで制覇すればいいから、さっき勝ったアスミが次回勝つ必要はない。四人で一緒に入れるよう調整して並び、全員のんびり歩いてゴールしても、一位にメダルが付与される。それをチームで共有しているケースに保管すれば二つ目の施設も楽々クリアだ。

 だがイコイは猛スピードで現地を目指す。忙しない彼をアカリたちは追いかける。彼の出したルートは、こういう迅速な移動を前提に計画されている。先に向かっている人を追い抜き、急げば混雑を回避できるという力業なのだ。



「なんでレース前にレースみたいなことするの」

「確かに。イコイ断トツだな」


 ファミレスのように一人が先に到着して記名台に名前と人数を書いておけばいいものではない。参加者が揃ってから並ぶ。割り込んでの合流はキャストに掃除されてしまう。

 だからアカリたちもイコイを待たせてしまうので急いで追いかけたが、その様子はまるで彼を先頭にした競走で、これから挑戦する施設での勝負と同じようなものだった。そして結果は誰も彼に追いつけず、スタートに時間差があっただけでは覆らない差があった。

 これなら施設でのレースの結果も見えているようなものだが、ルール次第で結果のひっくり返しようはある。施設名に車の文字があるように、例えば足ではなく運転してテクニックを競うのなら、今回ほどの差はつかない。いっそ今回はイコイを留守番にするという手もある。



 あるところに三姉妹がいて、城のパーティへの招待状が届いた。三人は馬車を走らせて目指すは舞踏会の会場。一番早く着いた人は王子様からメダルのプレゼント。それがここの施設の設定で、スピードは走力でも牽引力でもない。ランダムで表示されるマークに応じたボタンを押すとスピードアップする以外は、馬力は平等だ。そして道中、暫定最下位の人にランダムでボーナスマークが出る。さらにスピードアップしたり相手を妨害したり効果は様々だ。つまり単なる瞬発力勝負ではなく、駆け引きが重要になるのだ。

 別に参加者が三姉妹になりきる必要はない。男でも参加できるし、そもそも四人で挑戦するから足りない役は自由に設定できる。


「でもせっかくなら女子全員やりたいでしょ?」

「だったら俺が休みか」


 他の施設がどうなのかは詳しく調べていないが、この施設は女子に人気で、他の参加者も女子比率が高い。


「でも男の子がお姫様になれるチャンスよ」

「そういう考え方もあるか」


 だがそれは施設の設定上プリンセスになりきって挑戦できるからであって、それに憧れてか男子で並んでいる人も散見される。アスミはイコイとオキナ二人とも出てみないかと勧めた。彼らも納得しかけたが冷静になった。


「だったら王子様になりたい」

「だよなあ。ゴールで待ってればいいんだろ? やらせてくれないかな」


 お姫様あれば王子様あり。むしろそっちになりきりたいのがオキナたちの本音だった。参加する側はなれないが留守番なら、ゴールである城で王子様役と一緒に待っている手もあり、それだけなら王子役を体験させてもらうことも可能なのではと期待した。それが叶うならオキナはもう一度留守番でも構わない。


「ハチだけじゃなくウマも苦手でさ」

「嘘つけ。今度は俺が休みだ。それに見ただろ? 俺が出ると俺が一位だ」

「じゃあいい」


 イコイとオキナはなれるか未定の王子様のために参加権を押しつけ合う。結果オキナが折れた。仮に王子様になったところで飛び込んでくるお姫様が女装男のイコイだった光景を想像すると、気持ち悪くてあっさり引き下がった。


「お前は一位になるなよ」

「頑張る」

「頑張るな」


 だがオキナが一位になっても似た結果になるだけ。現れるお姫様はせめて女子であってほしいイコイは彼がレースで一位になるのは避けたいので、手を抜くよう忠告した。一位にならないよう調整を頑張るという意地悪な返答で茶化し、アカリたちと並びに向かった。


「ラクアも同じこと考えていたりして。先に待ってるかも」

「確かに。それでこう言いそう。王子様役って楽だからって」

「彼らしいかも」


 アスミはラクアが自力で施設の情報を集めているとは思っていないので思い過ごしという予感はしていたが、もし彼が王子になりきっていたら、なりたかったと素直に言わず、それが楽だからと建前を平然と言い放ってくる光景が容易に想像できた。そのくせ彼はアイリが一位で駆け込んでくるのを内心望んでいるのだろう。

 楽することばかり考えて同行を断ったせいでチャンスを逃したことを後になって明かしたときの彼の反応が楽しみになった。


「ちなみにこの設定、物語はフランスの作家さんが書いたの」

「へー、じゃあ向こうでもこういう乗り物あるのかな」


 アカリは来月フランスへの短期留学を控えており、その国に関係する情報を色々集めている。帰国した後に知って、あのとき行っておけばよかったと後悔しないように。その話にアイリは興味を持った。だがその疑問にアカリも答えを持っていない。


「それが分からなくて…… どうしてかぼちゃの馬車なのかな。かぼちゃは別に珍しくないのに」

「だからだろ。そこにあったから魔法で馬車になった」


 フランスでかぼちゃは特別な食べ物ではない。一般家庭でも買える手頃な野菜だ。それを聞いてオキナは発言する。ありきたりだからこそ選ばれたのだと。その考えにアカリたちは納得した。

 実際その物語は動物や物を魔法で馬や馬車に変えている。素材になるにはそこに元からある必要があり、筋が通る。


「魔法が解けたら時間切れでゲームオーバーとか?」

「そんな感じじゃなさそう。見た限りだと」


 魔法で変わったと聞いて、一位でも制限時間を過ぎていたらクリア失敗になるように難易度が上がったのではと考えるアイリだったが、そういう制限は何もなさそうだとアカリは答える。並んで会話している間も、先に挑戦している他の参加者の様子は観戦していた。馬車がかぼちゃに戻るような演出はないから、心配は要らないと考えている。


「その割には険しい顔だけど」


 アカリは不安がないとき却って不安そうな顔になる。それが彼女の能力だが、まだ馴染みのないオキナは素の反応と受け取ってしまう。彼女も誤解される自覚はあり、ここは茶化して和ませることにした。


「あの物語には続きがあって、負けた人は目ん玉くり貫かれてしまうの」

「怖っ…… ってかアカリの口から目ん玉なんて出てくるなんて」


 遊園地だしそんな罰はないに決まっているが、不安そうな表情の理由としてアカリは告げると皆は絶句した。夢が壊れるグロテスクな内容と、特にアイリは彼女の言い回しにショックを受けていた。アカリとしては、さっきの軽い仕返しのつもりだったが、想定以上にダメージがあったようだ。

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