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19話 気持ちは一つ

 遊園地の五つ目のアトラクション、ワニ退治が始まった。この施設は赤と青のハンマー二本で同じく赤と青のワニを叩く。挑戦者四人はそれぞれレーンに立ち、一列で迫るワニを迎え撃つ。他の人のレーンに手出しはできず、どのレーンにも同じ順番でワニがいる。

 ワニを同じ色のハンマーで叩くと次のワニが来る。叩き間違えるとペナルティで少し硬直し、制限時間内に四人で一番多くワニを叩いた人にメダルが渡る。四人は同じチームなので誰が一位になろうとチームとして五枚目のメダルをゲットできるため、順位を競う必要はない。

 だがチーム結成の経緯は同学年の特殊能力者という繋がりがあること。そして各々が持つ力を試したいから勝負に本気だ。


 だが大森(おおもり)(イコイ)日比谷(ひびや)興奈(オキナ)は調子が上がらない。始まる前に体力を削られたせいで、おもちゃの軽いハンマーを振るだけで疲れている。これは三郷(みさと)楽阿(ラクア)の能力、触れた相手を過労させる効果の影響だ。始まる前、じゃれてラクアを叩いたときに腕を疲れさせられてしまった。


「もう疲れた」

「クソっ、まんまとラクアの術中に嵌った」


 オキナとイコイはヒィヒィ言いながらワニを叩く。疲れていようと休んでいては得点のペースが遅くなり一位が遠のく。


 自業自得なのではとラクアは内心呆れながら黙々と叩く。叩いてきたのは彼らの方で、スタッフに注意を受ける程度に非がある。そして叩くよう誘導したわけでもない。いや、誘導はあった。


「アイリのせいだ」

「でも元はと言えばそっちが鬼の話するから」


 イコイたちがラクアを叩いたのは、彼が小学生の頃は勤勉で、節分の日には怠け者の緑の鬼に豆を撒いたという独特のエピソードを旧友の美南(みなみ)哀月(アイリ)が語り、だが中学三年生の今の彼は遊園地に来て早々メダル集めをチームメイトに任せ四つ集まるまで休憩していたくらいの怠け者という現状がおかしくて、鬼は彼の中にあるから叩いて退治してやろうという流れになった。

 だからこの疲れはアイリのせいと言い張る二人に、そもそもそのエピソードに触れたきっかけはハンマーで叩くならワニより鬼が適任ではという会話にあり、それは二人が話していた。その会話がなければ思い出すこともなかっただろうから、責任は彼らの方にあると反論した。どちらでもいいとラクアは無関心で、点を取ることに集中する。

 彼はチームで確実にメダルを入手できるからわざわざ本気で勝負するつもりはなかったが、こちらは本気で勝ちたいからそっちも真剣にやれとアイリが圧をかけてきたので、刺激して面倒になるくらいならこの勝負の間だけ本気を出すことにしている。勝負に集中したいときは余計なことに意識を割きたくない。彼らの言い合いは耳障りだ。しかし耳を塞ごうにも両手にハンマーがあるので我慢するしかない。


 ラクアは勝つために作戦を考えた。普通に両手にハンマーを持ってワニの色と合う手を動かすのでは駄目だ。ワニの色を認識し、同じ色のハンマーを持っている手は左右どちらかを確かめて、正しい手を振る。赤なら右、青なら左。ただそれはその組み合わせで自分はハンマーを持っていることを頭に入れておかなくてはならない。途中で忘れてしまうと、叩く前にその色で合っているかチェックしなくてはならず、それでは遅い。

 だから赤と青ではなく、赤かそれ以外かで判別する。前の挑戦者を見ていて、赤のワニの方が多い傾向があると気づいた。頻度の多い方は利き手に回した方がやりやすい。赤なら右手と覚えておけば、そうでない色は右でない手で叩く。それが一番覚えやすいし、楽に叩ける。



 誰のせいだとしても問題は奪われた体力だ。イコイはタイムアップまで失速しないことを意識し、極力体力を温存すると決めた。そこでハンマーの勢いを抑える。相手は機械であって本物のワニではないから、倒すために力いっぱい叩かなくてもいい。機械が叩かれたと反応する最低限の力を込めるだけでも得点になることに変わりはない。そして加減した方が持久戦に強い。


 だがここでイコイの能力が発揮される。最低限の力を出したとき、逆に最大限と同等の力が出る。全力を込めて叩いた音が辺りに響いた。


「壊した!?」

「……いや、何ともない」


 イコイの能力はオキナたちも知っている。この遊園地に来てから何度か発揮している姿を見てきた。だからフルパワーを出していることには驚かないが、機械を潰していないか不安に思った。だが頑丈で緊急停止することなく稼働しているので杞憂だった。


「まあ全力っていっても限界以上の力は出ないから」

「それに一発だけだし」


 イコイは機械がびくともしない理由を察した。確かに容易に全力を出せるが、あくまでも普通の全力。他の能力者には、身体能力をアップさせることができる人もいる。その人には最大出力で劣る。彼らのフルパワーに耐えられるくらい頑丈なら、イコイの全力くらいへっちゃらというわけだ。

 その考えにオキナは納得した。イコイの強みは全力を疲れず維持することにあるが、今回は一匹を一発しか叩かない。連打すれば壊せるとしても、一撃しか受けつけないのでは効果が薄い。


「長持ちさせるためにルールを決めたのかもね」


 そしてアイリは考えた。イコイのような挑戦者に対抗してこの施設のルールは考えられるのではないかと。叩く回数が多いとその分壊れやすくなる。だから一匹につき一発しか叩けないようプログラムされている。


「ほら、叩き間違えると次のワニになるし」

「本当だ」


 間違った色のハンマーで叩いたとき、そのワニは倒せないが去っていく。正しい色で叩くまで残るようルールを考えることも可能だったが、そうした場合は正解するまで何発でも叩けてしまう。わざと間違えて一匹を壊れるまで叩き続けるなんて悪用もできてしまうわけで、それを許すと簡単に壊されてしまう。だから正誤問わずワニは一発叩かれたら去るように動き、集中攻撃されないよい立ち回っている。

 壊れるとメンテナンスが必要になり施設は休止に追いやられる。客が楽しめるように考えられているようだというアイリの気づきに二人は納得した。



 一方オキナはイコイのような体力温存はできない。一発叩くと次のワニに移るというのはあくまでも反応するくらいの衝撃を加えたときの話。力を抜き過ぎると反応しない。そして彼の能力は自分を有利にできない。辺りを見た目だけ幻想世界に変える能力では、ワニ退治の効率化はできない。

 だが何かの役に立てないか、オキナは考えた。例えば辺りをジャングルに見せかければ、雰囲気が出る。それでやる気が上がるなら効果があるかもしれないが、そうなる気はしないし、逆に相手の気分を上げてしまい裏目に出る可能性もある。

 そもそも目的は正面のワニを倒すことであって、景色を変えても効果は薄い。周りを見る必要がないのだから。


 そのときオキナは気づいた。見る必要がないものがチラついたら、邪魔に思って集中力を削ぐことができるのではないかと。そして早速試し、森の幻想空間に変えた。木々や崖に滝、本物のワニが暮らしていそうな世界を見せて、オキナは三人の反応を窺う。皆が景色に興味を向けてくれたら相手の手を止められるのでよし、自分は景色を知っているのでよそ見せず手を止めず点を取る。


「おお、凄い」

「良い景色ね」


 イコイとアイリは景色の変化に反応した。だがオキナの能力と判断する前に、施設の演出と思い込んだ。けれども前に挑戦していた人を見ていたときは途中でこんな変化はなかったことを思い出し、違和感を抱いた。


「気に入ってくれた?」

「ああ、オキナの仕業か」

「そういうギミックかと思ったわ」


 オキナはすぐ種明かしした。惑わせられたのならともかく、幻想の出来を褒めてくれたからすぐに自分の手柄だと明かしたくなった。そのせいで二人の気を散らせることに失敗したが後悔はない。最後にラクアの反応を気にかけると、彼は苦悶の表情で黙々と叩いていた。幻想が気になってよそ見しそうになるのを、見るだけ作業の邪魔になるからと内心言い聞かせて抑え込み、失速しないようハンマーを振るう。周りとどれだけ点差が開いているか気にする余裕はない。


「動物はいないの?」

「ああ。背景とエフェクトだけだね」


 オキナは物なら自由に幻想に含められるが人間や他の動物は生み出せない。地形に加えて雨や虹などの演出は可能だ。そして景色を塗り替えられる一方で、実際にいる人や動物を見えなくすることはできない。


「元からそこにいればできるけど」


 だが着飾ることはできる。オキナはラクアを指差すと、イコイたちから見た彼はゴリラだったので思わず笑ってしまった。ラクア本人は今自分が周りからどう見えているか分からないので、なぜ笑われているのか、そもそも自分が笑われていると気づいてさえいない。ただ周りが騒がしくイライラしていた。


「触れないのよね」

「うん。それにへたに動くと危ない」


 景色が気になって触れにいこうとするアイリにオキナは忠告した。変わったのは見た目だけで、今いる場所は変わっていない。現実の障害物が幻想世界によって見えなくなっている。見えているようで実質いきなり真っ暗になったようなものだ。何もないと思って歩いたら段差や壁があって怪我する恐れがあるので、幻想の中では動かない方が安全だ。幻想に切り替わる前と同じ行動をするだけなら安全だ。ラクアのように黙々とハンマーを振る作業に支障は来さない。

 オキナはラクアに勝ちたいが、この能力の使い方では勝てないと悟る。だがアイリは彼の行動を利用できると考えた。たくさん妨害し、ラクアの得点ペースを落とす。それが最も勝算のある作戦と考えて。


「もっとたくさん惑わせて。イコイはその調子でガンガン叩いて」

「そうすれば自分が二位になれるからか?」


 アイリは二人に今の調子で続けてほしいと指示を出す。そうすることに何の意味があるのかと二人は首を傾げた。一つ考えたのは、二人を一位争いから脱落させようと目論んでの提案。オキナは幻想を出すことに意識を割き、イコイは最低限の力で最大限の威力で叩くので機械を壊す可能性は一番高い。得点を稼ぐにはメリットの薄い行動に誘導させることで、相対的に自分の順位を上げるつもりなのではと睨む。集中しているラクアには敵わないと諦め、せめて二位になるべく相手のペースを落とすことが目的ではないかと疑った。


「ラクアをビリにする」


 確かにアイリの狙いは順位を上げることだ。けれども暫定一位のラクアを引き摺り下ろすことを考えている。彼が調子を崩さない限り一位の奪取は難しい。だが彼の調子を崩せたら順位は変動する。


「確かにこれは個人戦。でも皆でラクアのペースを乱すことはできる」

「……確かに、一人であいつに勝ちたいって思ってた。でも皆がいる」


 イコイもオキナも、最初はラクアに勝ちたいから勝負に臨んだ。そして自分の能力をどう活用すればいいか考えていた。だがこれは一対一ではない。いうなれば一対一が三組ある。ラクアに勝つために三人それぞれが策を練れば、重なり合って彼の力を削げる。アイリの狙いはそれだ。二人が思うがまま動いて強く叩く音を響かせたり視界に多くの情報を含めることで彼の集中力を奪い、ペースを乱す。

 三人の気持ちは一つになった。勝つためにラクアの気を散らせる。一人一人では効果が薄くても、三人でやれば大きな力になる。そう信じて結託し、思い思いに立ち回る。もちろんアイリも他人任せではない。彼の弱点なら三人の中で一番よく知っている。彼は一つのことに集中させれば優秀な反面、複数の作業を同時にこなすことは苦手だ。だから余計な音や景色でストレスが溜まり、調子が狂う。


「そろそろ持ち替えたり休憩したりしないの?」


 アイリはさらにラクアに負荷をかける狙いで話しかける。どの色のハンマーをどちらの手で持つかは自由で、途中で手離したり入れ替えてもいい。ずっと同じようにやるよりメリハリをつけた方が効率的ではないかと問いかける。少なくとも普段の彼は、コツコツやるより緩急つけるタイプだから、無理をしているように思える。

 勝つために邪魔はしたいが、それはそれとして本調子ではなさそうな彼を気にかけている。

 だが案の定ラクアは集中しているときに話しかけられるのを嫌い、シカトした。話なら後でもいいし、今聞かないことで自分が困ることはない。


「この景色、アカリに見せたらどんな反応するかな」


 けれどもアイリはめげずに話しかけつつ、手を動かして点を取る。手を動かしつつそれと関係ないことを考え会話を持ちかける。このようなマルチタスクは彼女の得意分野だ。

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