18話 動きたい気分
五つ目のアトラクションへ挑戦しに向かった四人を見送った西浦あかりと川口青空澄は、挑戦者が見える位置へと移動する。四人は列の途中で、今は先に来ていた他の客がワニ退治に挑戦している。
「一人だったときは気にしなかったけど、今回から二人で待っているのよね」
アスミは気づいて呟く。どの施設も四人で挑戦するものだから彼女らのように余りは出る。二回に分ければ済む話だが、今は七つの施設の制覇が優先で、なるべく一回でクリアして次へと進みたい。
クリアはチーム単位なので同じチーム四人で競争すれば誰かは一位を取れるし、協力形式ならほぼ全員他校生とはいえ特殊能力者の同学年という繋がりがあり、知り合いなので力を合わせやすい。
四つ目の施設までは五人で行動していたので四人が挑戦する間は一人で留守番だったが、前回から三郷楽阿が合流したので二人で終わるのを待つ。
その時間をアスミは気まずいとは思わない。アカリは他校生で三ヶ月前に知り合ったばかりだが、そのきっかけである能力者になった時期が近い"同期"の仲で、これまでともに過ごす機会が多く仲が良い。今は他校生だがアスミは半年後に私立高校の受験を予定している。合格すればアカリと同級生になれるのだ。親しい相手だから、突然二人きりになっても窮屈と感じない。
「私たちは平気だけど、次どの二人で待つことになるのかな。どんな風にしているか見当つかないペアがありそうで」
「招待状が届いたってだけだしね」
遊園地には女子だけで来たのではない。男子と三人ずつだ。そしてなぜその六人なのかというと、昨日招待状を受け取ったからに過ぎない。招待状自体、抽選や先着で申し込んだものですらない。何もしていないのに届いた人がいて、届いたメンバーだけで来た。
だからアカリは怪しんでいる。果たしてただのサービスなのか、何か裏があるのではないかと。だが皆は乗り気で、場所はアスミの故郷ということもあり、皆と離れなければ大丈夫だろうと信じ、同行している。
一方で不安視していないアスミは、チームの六人から二人選んだとき、二人だけでどんな風に過ごすかを想像してみた。場合によっては自分が今みたいにその誰かと待つことになる可能性もあり、備えておいて損はないと考えた。とはいえその可能性は低い。出番を均すという観点では、今回挑戦する四人から二人を選ぶ方が妥当だからだ。
「アイリはどうかなって思ったけど、Aランク仲間なのよね、二人とは」
能力にはランクがある。アスミはアカリと同じく"同期"の美南哀月が次回留守番になったとき、一緒に待つであろう男子とどのように時間を潰すかが気になった。だが想像がつかないだけで実はAランク同士仲が良く、交流会で慣れているかもしれないと考えた。二人きりにして気まずくなるなんて心配はしなくていいと予感した。
「……私は少ないのよね。同じランクが」
一方でアカリはDランク。今回のメンバーに同じ階級はいない。相対的な基準でないからランクごとの所属人数にバラつきがあり、同学年ではAがやたら多く次いでアスミたちB。アカリの階級は少数派だ。もっとも能力者自体が希少な存在ではあるが、だからこそ学校を跨いで交流しいざというとき力を合わせられるよう能力的にも人物的にも理解を深めることに力を入れていて、だからこそたまに疎外感を覚える。
「そのうち増えるよ」
「まあ毎月少しずつ増えているけども」
だが心配要らないとアスミは背中を押す。能力は覚醒することはあっても失われた事例はない。そして能力に目覚める人は毎月数人いる。その中にアカリと同じランクの人がいるかもしれないし、今月はいなくても来月、再来月と気長に待てばいつか増える。そんなアスミの意見にアカリは頷きつつも、当然のことだから励まされた実感は湧かなかった。
「ところで最初の頃より人少なくない?」
「そういえば…… 待ち時間も短いような」
人が増える話をしていると、アカリは園内の客の人数に変化を感じた。施設を巡り始めた頃より、人の隙間が多い。彼女は頻繁に周りを見ていたから変化は勘違いではないと自負している。とはいえ施設によってバラつきがあるだけで考え過ぎかもしれないとも思っていた。
言われてアスミも気づく。三つ目の施設で留守番していたときより、体感で待ち時間が短い。アカリという話し相手がいて時間の流れを早く感じるだけかもしれないので確証はなかった。
「時計見てなかったから分からないけど」
「そうだね。危うく乗り遅れそうだったものね」
時計を見ていれば待ち時間がどれだけ違うのかはっきりしたのにと残念がるアスミ。けれども彼女は時計を気にしないタイプであり、今朝遊園地へ向かう集合時間に遅れたせいで、飛行機に乗るのがギリギリになってしまったことをアカリは思い出す。彼女は時間を守ることより、動きたい気分になったかどうかを優先する。
「まあ間に合って良かったってことで」
「間に合わない方が良かったなんてことになるのは嫌だけど……」
遅れそうになって得をしたものはない。アスミの寝坊がプラスにはたらくとしたら、飛行機に乗り遅れた結果遊園地に行けず嫌な思い出を作る心配がないことだが、そんな事態など望んでいない。いくら怪しくても、来たことを後悔したくない。
「今考えても仕方ないか。人が減ってたどうかなんて、少し見ただけじゃ分からないし」
もしかしたら気のせいかもしれないとアカリは考えた。混んでいるエリアがあれば空いているエリアもあり、それらは時間帯で変化がある。そもそも閉園まで残っていないといけないわけではなく、帰った人がいれば中の人が減るのは当然だ。自分たちだっていつかは帰る。怪しむようなことではないと自分に言い聞かせ、気にしないことにした。
「二人ずつ休むとして、あと二回……」
「あの四人から順番に選べばいいんじゃない?」
話を戻して、アカリは次回留守番になったときのことを考える。またアスミと残るか、他の誰かと一緒になるかは未定。だがそもそも今回が最後になるだろうとアスミは考える。施設クリアの証であるメダル集めは、順当に行けばあと二つの施設で完了する。チームは六人で、今回挑戦する四人が一回ずつ留守番に回れば出番を均等にできる。今回休んだ自分たちが再び休むことはないと考えた。
だからアカリが懸念している、二人きりになって気まずくなるのを心配する必要はないと思っている。
「でもラクアはずっと休んでいたし」
「自分からそうしてたんだし別に良くない?」
確かにアスミの案なら一人一回ずつ休みになる。だがそれは後半三つの施設に限った話だ。前半四つは五人で回っており、その間ラクアは休んでいた。全体で見れば彼だけ挑戦する回数が少ない。
だから彼だけは今回のを含め残り三つの施設はすべて参加させてあげたいとアカリは思い、代わりに誰かが二回休むことになるのは仕方ないと考えている。その役回りが自分に回ってくるかもしれないと案じる一方で、アスミは彼のことを気にかけていない。事情があって離脱していたわけではなく彼の意思でチャンスを捨てていたのだから、他の誰かが割を食うものではないと考えていた。そうすればアカリも身構えずに済むので、悪い話ではない。
「……もしかしてそのつもりでずっと休んでいたのかも。最初からいると二人で待つこと多いから」
そのときアカリは気づいた。もしもラクアが最初から合流していたら、前半四つの施設も二人ずつ留守番だった。そうなっていたら彼女は会話が保たない気まずい時間を過ごしていたかもしれない。けれども彼がいなかったから、周りを気にせず一人で待てた。五人で回っていれば気楽だからと気を使って、自分は身を引いていたのかもしれない。そこまで意図しての立ち回りだと考え、彼への見方が変わった。
「それ本人に言ってはダメよ。絶対狙ってないから」
だがそんなはずはないとアスミは冷静に否定する。確かにラクアは楽するのが得意だ。だが皆にとっても一人で待っていれば気を使わなくて済むなんて親切心がはたらくタイプではない。
そのくせ見栄っ張りだから、もしアカリが今の推測を彼に告げると、まったく見当違いであってもビンゴと堂々と答えるだろう。嘘かどうかは本人にしか分からない。今気づいたことなのに最初から考えていたと言い張られると、暴くのは困難だ。だから気づいても黙っておいた方がいいと助言する。
「でもせっかくならラクアと二人になってみたかったな……」
「言えば引き受けてくれるわよ」
アカリはラクアとなら二人きりでも気まずいと思わない。アスミ共々"同期"として関わる機会が多く、男子の中では接しやすい相手だ。
だが彼と留守番することはない。彼が留守番するならアカリがもう一度休むことはなく、しないなら彼女が休むとき彼と組むことにはならない。
ただアスミの言う通り、頼めば叶うかもしれない。休む回数が増えるのは彼にとっても好都合だろうから。
「もうすぐ始まるわ」
そう会話しているうちに四人の番が回ってきそうなので、アスミとアカリは上から観戦する。今は施設の挑戦に必要な赤と青のハンマーを一人ずつ受け取っているところだ。準備ができたらワニ退治が始まる。ワニといっても本物ではなくハンマーも軽いおもちゃだ。
するとラクアが大森憩と日比谷興奈にハンマーで叩かれた。標的はワニで四人は点数を競う相手なのに、なぜ叩いているのか、離れて会話が聞こえないアカリたちは戸惑った。
「私も混ざりたいなあ」
叩いているといっても本気ではなく、ラクアもやり返す素振りをみせない。単にじゃれ合っているだけに思え、楽しそうでアカリは羨ましく思った。留守番に回らなければ一緒になって彼を叩けたかと思うと、もったいない判断だと悔やんだ。アスミは賛同しかねるも黙っておいた。
スタッフに注意されて叩くのは収まったのが見えた。当然の結果だとアスミは呆れつつ、もうすぐ始まる四人の勝負を真剣に見守る。ランクの高いメンバー同士の勝負だ。きっとハイレベルな駆け引きが見られるのだろうと期待している。
「並び直さない?」
「え、もうすぐなのに」
オキナは勝負の目前にして仕切り直しを試みた。列を抜けて最後尾に戻らないかと提案し、真っ先にアイリが嫌がった。また順番待ちするのは面倒だし、わざわざそうする理由が見当たらない。
「腕疲れた」
「……さっき叩いたせいでしょ」
オキナとしては延期した方が体力を回復できて都合が良い。始まる前から疲れた理由はラクアの特殊能力だ。間接的であっても彼に触れると過剰に疲れる。大して力を込めていなかったのに、まるで全力で何発も打ち込んだかのように腕が疲れてしまったのだ。
それはラクアの仕業でも、叩いたのはオキナたちの悪ふざけ。自業自得だと一蹴したアイリは、並び直しに反対した。彼女は叩いていないから体は何ともない。
「なあ、本気出せない俺らに勝ってもつまらないよな?」
イコイはラクアに問いかける。せっかくの勝負ならお互い全力を出せる状態の方がいい。だから休んでからにしないかと同意を求めた。
「俺も本気出す気ないし」
だが彼は今の方が好都合と答えた。元より彼はここで本気で勝ちにいこうと考えていない。やるときはアイリが観戦に回ったとき、彼女以外の相手三人を蹂躙して強さをアピールするときと決めている。それまで体力を温存するつもりでいるから、仮にオキナたちが本調子になってきても、張り合うつもりはない。
だから並び直しは無駄と考え、誘いに乗らない。一方でアイリは、ラクアの手抜き宣言にカチンときた。
「私なんか相手にならないってこと?」
アイリは今まで四つの施設で一度も留守番していない。だから今回は出番を譲る気でいたが、ラクアが参加しオキナたちは彼に勝とうと燃えていたので、自分も混ざりたいと思った。勝ちたい気持ちは彼女も同じだ。それなのにやる気にならない彼を見て、相手にされていないみたいでイラッとした。
だがラクアはアイリ相手におとなげない振る舞いをしたくないから力を抑えるつもりいる。手を抜いても勝てるなんて甘く見ているわけではない。
「面倒くさいから本気でやるわ」
ただ弁明するのを面倒に思い、今回だけやる気になれば済む話ならそうしようと割り切った。それに個人戦だからオキナたちのコンディションは二人の勝負に影響しない。列を抜けずこのまま勝負すると決め、出番を待った。




