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17話 鬼に見立てて

 遊園地で七つのアトラクションの制覇を目指す西浦(にしうら)あかりたちは、五つ目の施設に挑戦する。メンバー四人の内訳は先ほど合流した三郷(みさと)楽阿(ラクア)の他、大森(おおもり)(イコイ)日比谷(ひびや)興奈(オキナ)、そして美南(みなみ)哀月(アイリ)

 施設はワニ退治で、そのタイプは対決。四人でそれぞれワニをハンマーで叩き、点数が一番高い人がメダルをゲットできる。来園者で自由にチームを組み、このメダルを七つの施設から集めると制覇となる。そして四人は同じチームなので、誰が一位になろうとチームでメダル獲得は達成できる。そして一位になる条件は基準点の到達ではなく四人の中での最高点なので、本気でやらなくてもいい。

 ここは体力を温存して残り二つの施設に備えるのも作戦の一つだが、そういう冷めた空気感ではない。ラクア以外の三人は闘志を燃やしていた。


「ラクア、どうかした?」


 アカリはラクアから当初の熱意を感じなくなり、こっそりと彼に尋ねた。彼女の言う通り、彼は少し前までは一位を目指そうと張り切っていた。それは六人のチームから四人を相談して決める最中のこと。ラクアは自分がいなくてもメダル集めはできるだろうからと言って来園してすぐベンチで休んでおり、彼女らが過半数のメダルを獲得した後に彼の元へ戻り、今からでも合流しないかと誘った。この機を逃すと次はないかもしれないと考えを改めて合流した彼は、今回が初陣となる。

 四人の候補に真っ先にラクアが上がり、逆に五人の中でまだ一度も施設の留守番役になっていないアイリは自ら引き下がり、他の四人の中から三人を決めていいと譲った。その時点までは彼もやる気があった。


 だがオキナとイコイが立候補してあと一人を選ぶ際にアイリはやっぱり自分も勝負したいと進言し、最後の一人は彼女になった。そのときにラクアの闘志は鎮火した。頑張って一位になって彼女にアピールしたかったのに、彼女を負かすのは印象が悪い。今回は見送り、彼女が留守番のときまで力を温存すると決めた。その心情の変化は表情にも出ており、前後の違いをアカリにだけ気づかれてしまったのだ。


「自信なくしたか?」


 アカリの言葉はオキナにも聞かれ、ラクアのテンションが下がっていることに気づくとその理由を推測した。それは反射的にやる気になった後、どうすれば一位を取れるか分析してみて、能力的に厳しいと現実を突きつけられたからではないかというものだった。



「ラクアの特殊能力は人を疲れさせるもの。けど相手は機械だ。本物のワニじゃない」


 施設の待機列が進むと、先に来ていた他の客の挑戦を観戦できる距離になった。遊園地なだけあって、ワニは製品でハンマーもおもちゃ。そして彼らは特殊能力者。それぞれ固有の力を持ち、使い方次第で勝負を有利に進められる。だが特殊能力を活かすには本人の素の性能も必要だ。身体能力や知力がそれに該当する。それらを総合的に実力と評して、戦闘能力に限らずどれだけ社会的に価値があるかも観点に含め、能力者にはランクとランク内序列が設定されている。このチーム内ではラクアがトップだ。

 だが逆に能力が活かされない場面もある。ラクアにとっては今がそうだ。腕相撲など体が触れて相手は力を要する場面では彼の能力は強力だが、機械には無力。そのことに気づき、一位を取れる自信がなくなったことが表情に出ているとオキナは指摘する。


 だがそれは思い違い。ラクアはこの勝負に勝てないとは思っていない。勝ちたいと思わなくなっただけだ。能力が活かしにくいルールでの勝負という自覚はあり、代わりに最上位の評価をされるだけの実力で渡り合おうと考えていた。


「甘いな。その能力を使いこなすだけの体力が俺にはある」


 能力で相手を疲れさせるには、効果が出るまで踏ん張る必要がある。そのことに長けているからラクアの評価は高い。ハンマーでワニを次々と倒す勝負なら、スタミナ切れで失速すると不利になる。逆にハイペースを維持できれば、能力に頼らずとも一位を狙えるというわけだ。


「始まる前に俺らをバテさせる方が良くない?」

「確かに」


 だがそんな根性論はラクアらしくないとイコイは思った。それは持久力を求められる勝負ならではの戦略であって、短距離走など短期決戦のときはまた別の作戦を立てなくてはならない。普段の彼ならあらゆるケースに対応できる楽なやり方を思いつくだろう。イコイが考えたのは勝負前に相手を過労させる作戦に走るというもので、相手を弱体化させて相対的に自分の一位を手繰り寄せる手口に、ラクアは思わず唸った。

 けれども彼は実践しない。そもそも一位になりたい気は失せたし、アイリを相手にそんな卑怯な作戦に出るのは嫌だから。


「今さら遅いけどね」


 そしてオキナも、ペラペラと話した後ではその作戦は通用しないと告げる。アイリにも丸聞こえで、彼女はラクアをじっと見て警戒している。少しでも近づく素振りを見せたら気づかれてしまう。せめて黙って一人で考えこっそり実践していればチャンスはあったことだろうが、周りを気にせず言っていたので手遅れだ。



「赤ワニと青ワニがいて、ハンマーも赤と青の二本。違う色で叩くと減点か」


 さらに近づくと勝負の様子が鮮明に見えて、得点の詳細が読めてきた。ハンマーを構えて多方面から迫るワニを待ち構えるのではなく、一列で寄ってくる二種類のワニを順に攻撃するというもので、ワニと同じ色のハンマーを当てないとミスになる。だから一人ずつ二種類のハンマーを持ち、ワニの色を見てどちらを振るか瞬時に判断するテクニックを求められる。

 どちらの手に何色を持つか、それを途中で持ち替えるかなどは自由。覚えやすい持ち方をするか、前の人の挑戦から振る回数が多い方を予測してそれを利き手に持たせるか。始まる前の準備の段階から勝負は始まっている。


「なんか鬼みたい。ワニだけど」

「鬼退治か。叩くのは初めてだな」


 二色なら赤と青でなくてもよく、赤青はワニらしくない。赤と青で退治から連想されるのは一文字違いの鬼の方で、むしろ鬼退治のつもりで挑む方がしっくりきた。というのも鬼をやっつけた経験ならある。本物ではなく、節分の行事でお面を被った人に向かって豆を投げるというものだが。


「小学生の頃」

「待て、言うな」

「え、何なに?」


 鬼退治から連想した節分のことでアイリは小学校での出来事を思い出す。当時同級生だったラクアは言いふらされるのを嫌い止めようとするが手遅れで、イコイたちは話題に食いついた。面白そうな話かもしれないと思い、ぜひ聞きたいとにじり寄る。彼は能力で指一本でラクアを制しつつアイリの話に耳を傾けた。



「節分の日に鬼のお面の色塗りをしたの。鬼は色ごとに何の鬼か違うって習って」

「へえ、意味あるんだ」

「人間には意味がないのに」


 鬼といえば赤い顔のイメージだが、この施設にもあるように青鬼もいて、他に白と緑と黒がいる。人間にも白人や黒人がいるが、それはただの人種の差であって性格の違いではない。

 節分の日に給食に豆が出て、撒く的の鬼のお面に自由に色を塗る授業があった。赤は欲張り、青は憎しみなど鬼の色には意味があり、やっつけたい鬼の色に塗るというテーマだった。

 けれども児童のほとんどが赤、一部が青だった。意味を意識したのではなく、馴染みのある色という理由で、アイリもその一人だった。その中でラクアだけが緑の色を描いていた。


「ラクアだけ緑だったの。働き者になりたいから、ダラダラする鬼にしたって」

「笑える」

「今と真逆じゃん」


 ラクアが嫌がった通りの展開になった。確かに彼は幼い頃は頑張り屋だった。体つきがいいのは生まれつきで、クラスの中でも力仕事を任されることが多く、それを誇りに思っていた。一方でゲームも好きで、そのゲームを遊べるのは作る仕事をする人がいるからだと知り、疲れず遊びながら給料を貰える職業に就きたいと思ってから一変した。力仕事は皆と同程度の量を疲れずこなせる程度の筋力があればいいと考えて鍛え、将来を見据えてプログラミングを始めた。

 やがてラクアは頑張ることを嫌うようになり楽して生きることばかり考えるようになり、そうなった後に彼と知り合ったイコイたちはアイリの話を聞いて、彼はかつて退治したいと思っていた鬼と同じ心を宿したことを皮肉だと笑った。


「退治しちゃえ」

「痛っ!」


 そして敵は施設の機械のワニなのにラクアを鬼に見立ててハンマーでポコポコ叩いた。いたずらのつもりなので手加減したが、イコイの能力は目一杯の手加減をすると却って全力と同等のパワーを発揮し、力いっぱい叩かれたも同然の彼は思わず叫ぶ。だがそれは禁止された行為。彼のうめき声が聞こえ、ワニ以外を叩かないでとスタッフに注意され、大人しく従った。ただその程度で彼の苛立ちが収まることはない。少なくとも痛みが引くまでは。



 とはいえラクアも変わってしまった自覚はある。確かに当時は純粋だったし汗水垂らすことを労働の快感と思っていた。だが職員室でエアコンが効いていることに気づいて涼みながら座ってする仕事もあると知り、インドアの職業の存在や仕事そのものの大変さをインターネット上の動画で見て、楽な方へと向かうようになった。

 だがそれは幼いゆえ社会を知らなかった頃からの変化であり、現実と向き合ったがための前向きな変化だと自負している。怠け者と揶揄される筋合いはないと主張する。

 だから話の発端のアイリには文句を言いたいところだが、好きな子が自分に関する話を覚えていてくれたことは嬉しかった。


「そんなのよく覚えていたな」

「人と違うことしているのは、割と覚えているから」


 実際は彼の片想いだが、アイリからも意識されていると期待したラクアは、覚えていた理由を探る。すると彼女は答えた。自分は周りと好みが違っていると幼い頃から自覚しており、一人だけ緑の鬼を選ぶような、周りと違う行動に関する話は、記憶に残っている。

 それはラクアに限った話ではなく、その事実に彼は落胆した。決して自分を特別視していたわけではなかったのだ。



「そっか、二人は小学校一緒だったっけ」

「……ああ」


 オキナは疑問に思っていたが解決した。ラクアとアイリは別々の中学校に所属しているのに、どうして同じ授業の思い出話があるのか。それは小学校までは同級生だったからという普通の理由だ。中学で転校したのではなく、アイリは受験して私立へ進学したので、今は二人は別々の中学校に通っている。

 ラクアは素直に頷きつつも、その表情は暗い。アイリが高校で内部進学せず地元へ戻ってくると、来年度からまた同級生になれるのだが、そうなる未来は訪れない。彼女が進路をそう決めて、彼にも告げている。


「今は違ってよかったな。ただでさえお前の学校、能力者が多いのに」


 一方でイコイたち他校生にとってはアイリが受験という形で別の中学校に入ったのは好都合だった。というのもラクアの同級生は能力者が多いことで有名だ。このチームは六人全員能力者だが、島の人口に対する能力者の割合はかなり低い。同学年は五万人いるのに、能力者は四十人程度だ。だがその三割がラクアの中学校に固まっている。能力者の同学年学校対抗戦をやろうものなら、彼の学校の一強状態だ。選択次第でアイリもその一員だったと思うと、散ってくれたおかげで少しでも勝算が見える。彼の中学対その他連合チームなら、連携力次第で互角になれるかもしれない。


「でもここ数ヶ月はメンバー増えていないし、落ち着いてきたんじゃない?」

「じきに逆転するかもな。そっちとそれ以外で」


 能力者は毎月少しずつ増えている。だが三ヶ月前を最後にラクアの同級生で能力者は覚醒していない。それ以前がハイペースで覚醒していただけとも考えられるが、この調子なら連合チームが徐々に増員する一方でラクアの中学校はメンバー据え置きなら、いずれ戦力差は広がる。暫定互角から、有利へとパワーバランスが傾いていく。そもそも一校でその他と張り合えること自体が異常だから、差がつくのは当然と捉え気の毒とは思わない。


「……どうでもいい。別に勝ちたいわけでもないし」


 ラクア自身も同級生の能力覚醒が止まったことを気にしていない。自校対その他の場面なんてそうそうないし、むしろ能力者は他校生とも協力するものだ。


「今みたく一緒のチームってことのが多いしな」

「よく言うよ。一人でずっとサボってて」


 現にチームを組んで協力している。そう語るには説得力に欠けるのが、今まで一人で休んで協力の姿勢を見せなかったラクアの落ち度で、イマイチ締まらなかった。

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