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16話 最後かもしれない

 遊園地の七つのアトラクションの制覇を目指す西浦(にしうら)あかりたちは四つクリアして一旦引き返し、チームメイトの三郷(みさと)楽阿(ラクア)と再会した。動く気が起きずベンチでずっと休んでいたラクアを、今からでも同行しないかとアカリは誘った。


「あと三つ、一緒に集めない? せっかく一緒に来たんだし」


 チームで分散した方が、理論上は早くクリアできる。だが制覇の条件は各施設のメダルを獲得することで、今までの施設は四人で挑戦し、個人かペア同士の対決、四人で施設内の敵を倒す協力のいずれかに分類される。個人で一位になる、ペアで勝利する、敵を撃破するとその人にメダルが渡される。

 個人戦は四人の内訳が同じチームなら誰かしらは一位になる。だが分散すると他チームとの競争になる。前者の方が効率が悪い反面、確実にメダルをゲットできる。アカリたちはそうやって三つのメダルを集めた。

 そして協力タイプの施設もあり、こちらは四人が競争相手ではなく味方同士。既知の仲で組んだ方が連携がうまくいき、彼女らは一回でクリアした。


 残り三つの施設がどんなタイプかは不明だが、チームで一緒に挑めばクリアできるとアカリは思っている。ラクアの力が必要になるときがきっとある気がする。何よりせっかく彼もいるのなら一緒に回りたい。


「嫌だ。気分じゃない」


 だがラクアは勧誘に後ろ向きで、楽に断ろうとしてここから動きたくないとアピールした。


「そう言ったらすぐ諦めてくれると思った?」


 だがアカリには見透かされていた。彼女だけではない。川口(かわぐち)青空澄(アスミ)にも美南(みなみ)哀月(アイリ)にも、ラクアの狙いはバレていた。この三人は特殊能力者になった時期がラクアと近い"同期"の仲。他校生ながら交流の機会は多く、彼の性格は理解している。

 普段から楽したがりなラクアでも、楽しむことには前向きだから、普段の彼なら遊園地に来て早々休憩なんてしない。普段通りでいられない彼を、復活させたい。


「それともまだ充電が必要か?」


 大森(おおもり)(イコイ)は問いかける。ラクアが休んでいるのは前向きな理由だと彼は考えている。いずれ力を発揮するために蓄えている。そして動くにはまだ早いから、誘いを断ろうとしているのではないかと尋ねた。


「……よく分かったな」


 確かにラクアは頑張りを継続するより休むときは休み気合いを入れるときは入れた方がパフォーマンスが上がる。週の労働時間を休日にも分散すれば一日あたりの時間は減るが、平日だけに割り振り休日は手を離す方に賛成派だ。

 同じ理屈で遊園地に来て帰るまでずっと行動するのには反対だ。動かなくても並んで待つのは疲れるし、休むのは帰った後でもできる。けれどもあえて来園中に休むことで元気が必要なときに調子を上げられる。ずっと行動していると肝心なときにエネルギー切れで満足できないよりは、緩急つけた方が良いと考える。


 だから今はまだ動く気ではないと実は思っていたのだ、とラクアは答えた。実際は嘘。単にやる気が出ないだけで、いつかのために温存しているつもりではなかった。そう正直に答えても印象が悪いし話も続いて面倒に思う。イコイが好意的な解釈を挙げてくれたから、採用してあたかも最初からそのつもりだったことにして、好意的に撤収してもらおうと目論んだのだ。

 そしてラクアが嘘をついているとアカリは察しつつも断言する根拠がない。行きたいけど今はまだ動くときではないと言い張られては説得しようがない。


「さすが、よく分かってるね」


 アカリはイコイの方を向いて微笑んでそう告げた。表向きはラクアの性分を理解していることを褒めて表情に出ているが、内心は余計なことを言ってくれたものだと怒っている。せっかく彼に同行してもらうチャンスだったのに、残る理由を推測という形で吹き込んだせいで台無しだ。

 なおイコイは照れくさそうな反応を見せる。素直に褒められたと捉えていた。一方彼の隣にいる日比谷(ひびや)興奈(オキナ)はラクアと再会しようと移動しているときのアカリとの会話を思い返し、彼女の思いを邪魔してしまったことに気づく。



「遊ぶのはまた今度でもいいけど、このメンバーで来るのは今日限りだと思う」


 オキナはラクアの意思を受け入れつつ、いざというとき力を発揮できるように備えておくことなら、今回でなくてもできると告げた。確かに気軽に来られる距離ではなく、招待状が届かなければ存在すら知らない遊園地だった。けれども来ようと思えばまた来られる。招待状がなくても一般の来園客として。

 もしラクアが一人でまたここへ来たら、そのときに休憩したり本気で施設に挑戦したりすればいい。今日やることにこだわらなくてもいい。


 だから今しかできないことを優先するのはどうかとオキナは提案する。それは招待状が届いたこのメンバーと一緒に過ごすことで、アカリが望んでいる過ごし方だ。


 彼の意見にラクアは揺らいだ。好きな子と来るのは確かに今回きりかもしれないと。そして気持ちの揺らぎをアカリは見逃さなかった。オキナが後押ししてくれたと察し、内心お礼を言い、このチャンスを逃すまいとたたみかけた。


「私はラクアを見たい」


 アカリは遊園地に来たことよりこのメンバーと来たことを重視した過ごし方をしたいと思っている。分散すれば早く施設を制覇して報酬の正体が早く明らかになるかもしれない。だが時間がかかってでも一緒に過ごす時間が長いと、遊園地の光景に対する反応を見る機会が増えて、それは彼女にとって大事なものだ。

 また一人で来たときでも、施設は楽しめる。けれども周りがどんな表情を浮かべたかは一人で来たときにはもう見られない。分散して見る機会を失うのはもったいないから皆と行動できて嬉しいし、これまで離れていたラクアとは残りの時間に一緒にいたい。そう願っていると面と向かって打ち明けた。


 そんなアカリの言葉がまるで告白のようにも聞こえ、ラクアは動揺した。彼女の言い分には共感できる。体力を温存して一気に解き放って、それを皆にアピールしたいとは思っていない。離れて休んでいたのは、ネガティブな理由だ。これまで一人で過ごしていたことを、本当は後悔している。



「仮にまた来たとしても、初めての反応は今しか見られない。もちろん二回目のリアクションも見たいけど……」


 また皆と来ればいいという逃げ道が出てくる前にアカリは封じ込めた。都合がつけば可能だが、初回と二回目では反応が違うので、今しか見られない表情があることに変わりはない。かといって一度見た後の反応に興味がないわけでもなく、むしろ見たいからまた皆で来たいとも思っている。


「……ラクアはどう?」


 周りの反応を見たいのはアカリの意思。けれどもラクアも同じことを思っていないかと問いかける。彼が自分の気持ちに正直になれるかどうかが、この先どうするかの分かれ道。まだ意地を張って一人で残るというのなら、彼女も引き下がると決めている。


「最後かもしれないしな」


 今しかできないことをする。その考え方にはラクアも賛成した。それがアカリの場合は仲間と過ごすことで、ラクアの場合はそもそもこの遊園地に来ること。休むことはここでなくてもできる。ここでしかできないことに時間を割かないのはもったいない。またいつか来ればいいと考えていても、そのときまで生きていられるとは限らない。

 けれども今は生きている。なら今のうちにやっておきたいと彼は決意した。


 そんな意図が込められているとはアカリたちは気づかず、単純に再びここに来る可能性は低いと考えての発言だと受け取った。今が夏休みだから来られたのであって、忙しくなるとそんな余裕はない。だからせっかく来たからにはペース配分を気にせず気ままに活動したいと考えを改めたものと解釈した。


「じゃあ行こうか。あと三つのメダルを集めに」


 ラクアも同行し、チームメイトが結集した。これから残りの施設へと向かい、一位になるか敵を倒すなどのクリア条件を満たしてメダルを手に入れる。順番は自由で、現在地と混み具合次第で、回り方によって所要時間は変動する。分析してルートを決めるのはイコイの得意分野だ。


「次はここだな。ワニ退治」


 直前にクリアした四つ目の施設とラクアがいたベンチとでは、近い施設が異なる。そして今から向かうと決めた施設は、まだオキナは下見をしていない。もっとも下見をいくつか済ませていたことは皆にも隠しており、下見の目的は、皆が初見で驚くなか自分だけは冷静でいることで、度胸があると評価されてみたいから。

 だからラクアとの合流を優先した結果まだどんな施設か知らない状態で向かうのは若干不安だった。驚いて恥ずかしい姿を晒さないよう心がけ、向かいながら施設で何が起こりそうか予想しておき、何が起こっても想定内だと落ち着いていたいと思った。


「……もしかして苦手? ワニ」

「えっ、いや…… 平気」


 だがこれまでとは施設へ向かうときの表情が違うことをオキナはアカリに気づかれてしまった。確かに今までより不安だが、それは恐怖心ではない。かといって正直に未知ゆえの不安だとは言えない。未知なのは皆同じだから、自分だけビビっているなんて思われたくない。


「そう? なんか今までと雰囲気違ったから」

「よく見てるね」


 皆の反応を見るのが好き。そう言っていたのも納得がいくほどのアカリの観察眼にオキナは敬意を表する。彼女は得意げに振る舞い、けれども詮索はしなかった。



「今まで四人で並んで残った人は待っていたの。ラクアは初めてだし、ぜひ参加して」


 向かいながらアスミはラクアにチームでの動きを説明する。施設は四人一組で挑戦する。チームはラクア合流前の時点で五人なので、誰かが留守番をしていた。四つ目の施設のように後方から支援することができる場面はあるかもしれないが、基本的には四人選抜する。

 今まで五人は交代で留守番し、クリアした次の施設へ向かったので、留守番した人はその施設に挑戦できていない。だが挑戦のチャンスはある。七つ制覇した後は自由時間にする予定で、そのときに並べばいい。


 そして次の四人を選ぶにあたり、これまで単独行動をしていて一度も参加していないラクアは真っ先に候補に入る。そのことに誰も異論はなかった。

 するとアイリが告げた。


「なら私はパス。四回とも出ていたし」


 反対に五人のなかでまだ一度も留守番をしていないアイリは、他の人に二度目の留守番をさせる前に自分が休むべきだと自己申告し、出番を譲ることにした。

 これで残り四人のなかから三人を選べばよくなった。重要なのはラクア含めた四人の参加者が同じ気持ちで臨むことであり、それが選抜の判断材料になる。



 施設に到着すると、まずはどんなタイプかを確認する。個人での対決で、制限時間内に一番多くワニを退治した人にメダルが渡されるというものだった。このタイプは最初にクリアした二つの施設と同じで、四人全員同じチームで挑戦すれば、皆がどれだけ張り合ったり手を抜いたりしようとも誰かしらが一位になりメダルをゲットできる。メダルはチームで共用なので誰がゲットしてもチームの成果になる。つまりどんな展開であっても一回の挑戦でメダル獲得は確実なのだ。


「ラクアはどうしたい? 一位になりたい?」


 かといってメダル獲得がすべてではない。一位を取りたい人もいれば勝敗を気にせずはしゃいだり適当に済ませたりしたい人もいるだろう。

 どれが正しいとかはない。けれども挑戦者の中で気持ちが揃っていないと揉めると、これまでの施設で身をもって知った。そうして拗れないように、同じ気持ちで挑める人を優先して選抜する。単に出番を均等にするよりはスッキリした結果になる。


「もちろん」

「へえ、意外。別にお前が一位じゃなくてもクリアなのに?」


 やる気のラクアをオキナは意外な反応だと呟いた。彼のことだから適当に流し、誰に一位を取られてもチームの成果なのは変わらずむしろ余計に疲れずに済んだとポジティブに捉えるものと思っていたから、率先して一位を狙う気だとは予想外だった。


「なら勝負したい」

「俺も」


 するとオキナはラクアと張り合いたいと告げ、イコイも同意見だった。勝算はまだないが、これから思いつくかもしれないし、それを彼が上回ってくるのならお手並み拝見したい。


「じゃあ私とアスミで……」


 これで残り一人を決めればよくなり、候補は二人に絞られた。アカリは一度留守番したとはいえ四人協力のタイプだったから後方での支援についていたという意味で、アスミほど留守番をしたわけではない。それに張り合いたいわけでもないから出番を譲ろうとしたが、アイリが割って入ってきた。


「私も出たい」

「いいわ」


 今回は留守番のつもりだったアイリだが、挑戦者の本気具合が今までとは段違いなことに感化され、留守番は別の機会に回したくなった。アスミはすんなり出番を譲り、アカリも彼女を応援したいと思い、これで挑戦者は決まった。

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