15話 言葉とは裏腹に
遊園地で七つのアトラクションの制覇を目指す西浦あかりたちは、四つ目の施設をクリアし作戦会議をしていた。さっきの施設は手応えからして他の挑戦者の多くは苦戦すると思われた。それを一回でクリアしたことで気持ち的に余裕ができている。
「あと三つね。少し休憩しない?」
川口青空澄は今が息抜きのチャンスと予感し提案した。早く制覇すれば報酬が何なのか判明するのも早くなる。だが休まず次へと進んでも早く終わるとは限らない。適度に休憩して気持ちをリフレッシュした方が効率が上がるときもある。
「じゃあついでにラクアの所に戻らない?」
アカリは休憩に賛成し、行き先を提案した。チームメイトはここにいる五人で全員ではない。遊園地の招待状が届いた知り合いで、入場まで一緒にいた三郷楽阿がいる。招待状は申し込んで届いたものではなく島の同学年の能力者の中ではこの六人に突然届いたもの。だからラクアは来たくて来たというよりはとりあえず行ってみた程度のノリで、来て早々ベンチで休んだ。
今どうしているかは不明だが、休憩ついでに様子を見に行き、合流しないか呼びかけてみたい。そう思ってアカリは提案した。
「引き返すよりは先に進んだ方がよくない? 前もってどんな所か見えるし」
「でもそしたらラクア、何もしないまま終わっちゃう」
「もう半分終わったけどね」
休憩には賛成しつつラクアとの合流に反対したのはアカリの同級生、美南哀月。彼女の言い分は、戻るだけでは一度見たものしか見えず、先へ進めば残り三つの施設が見えてくる。結局そこへ向かう以上、先に下見して損はない。それに戻ると歩く距離も長くなる。先を急がないにしても前進する方が合理的と主張し、彼との合流を避けようとした。
それではラクアと別行動をしたまま制覇を達成してしまいかねない。制覇の瞬間や報酬を手にしたときの喜びを分かち合えなくなってしまう。とはいえアスミの言う通り彼抜きで制覇まで半分を過ぎてしまったので、今さら合流しても彼は今ひとつ喜べないかもしれない点はアカリも否定できなかった。
「いや、もしかしたら一人でメダル集めているかもしれないじゃん?」
「だったらいいな」
何もしなくても時間が過ぎていくことはラクアも分かっている。皆と一緒だと気乗りしないだけで実は一人でこっそり楽しんでいてメダルもゲットしている可能性はある。もしそうなら彼とはチームを組んでいるのでメダルは合算できる。同じ施設のを何枚集めても意味はないがまだアカリたちが入手していない三つの施設いずれかをクリアしていたら、回る手間を省ける。
ラクアの成果を確認しておけば残る施設を絞り込めるかもしれないという意味でも戻って彼に会いにいくのはアリだと思い、アカリは引き返す案を推す。楽したがり屋でメダル集めを仲間に任せベンチで休憩していた彼が、裏では頑張っていたとしたら嬉しい。
「じゃあいいよ」
言葉とは裏腹にアカリの表情は陰っていることに気づいたアイリは、ラクアに期待するだけ無駄だろうと思いつつ、逆に自分たちの成果をアピールして彼に認めさせるのは面白そうだと思い、引き返すことに賛成した。
「よし、こっちだ」
次の目的地は遊園地入場口付近、ラクアが座ったベンチに決まった。ただ来た道を引き返してもこれまでクリアした施設を通るだけで目的地への最短ルートではない。大森憩は園内マップを見て、ベンチに早く到着する道を割り出して先導した。
「あっ、ポップコーン」
するとキッチンカーを見かけた。看板と香りで皆すぐに分かった。なかでもアカリは見てすぐ店に吸い寄せられた。
「好きなのか?」
「あっ、うん…… 昨日も食べたし、映画館で」
「ね? 意外でしょ!?」
日比谷興奈にとってはアカリの反応は予想外だった。スナック菓子は太るから食べないタイプの子だと思い込んでいたから、欲しそうな動きをして印象が変わった。アイリもかつてはオキナと同じ感想を抱いたので、仲間ができた気分になった。
「コーンは野菜だからいくら食べても平気なの」
「それは嘘」
アカリは平均より高頻度で食べている自覚がある。それは映画館に行くことが多いから併設の売り場で買うことが多いためで、カロリー面での問題点について自分を納得させる言い訳を考えてある。原材料がトウモロコシだから実質野菜と捉え、ヘルシーな食事と思い込んでごまかしているのだ。
だが真に受けるのは一人もおらずアスミが鋭く否定した。彼女はアカリと別の中学校だが能力者になった時期が近い仲で、アイリ同様アカリがポップコーン好きなことは知っている。だが真似する気はなく、好きなデメリットも分かっている。
「映画か…… 夏休みだし色々始まったよな」
「うん。観終わった後に招待状が来たものだから」
アカリたちが招待状を受け取ったのは昨日。手元に届くまで何の前触れもなかったから彼女は二日連続でポップコーンを見ることになった。そしてこの遊園地は島の外、アスミの故郷にあり、めったに来られる場所ではない。せっかくなので食べたいという気持ちと、こうなるのなら昨日映画もろとも我慢しておけばよかったという気持ちがせめぎ合う。
とはいえ夏休みが始まったから映画館に行く時間ができたし遊園地へ招待されたと考えれば、時期が被ってしまうのは仕方ないとも考えられる。
「一個買って皆で分ければいいじゃん。それなら食べる量は少ないし」
「そうだな。他の場所にもありそうだし」
間をとって少量食べるのはどうかとアスミは提案した。イコイも同感で、この手の遊園地には様々な味のポップコーンが点在していると読み、皆で色んな味を楽しむには一つ買って分けるのを繰り返す方がいい。ここで満足するほど食べず、他でも食べられるくらいの余裕を持たせるという案に、アカリは賛成した。結果、ここでは一つだけ貰うことにした。お金を払わずとも招待状を見せるだけで貰えた。
「食べ放題ならもっと欲しいな」
「また来たらいいじゃない」
割り勘の利点は出費を抑えられることだが、招待された特権で好きなだけ食べられると知るとたくさん欲しくなる。だが今を逃しても売り切れにならない限りはまた貰えるし、胃の容量は元の体のままだから食べきれる量が増えたわけではない。今ぜいたくをして後で欲しいのに食べる気が起きないなんて目に遭いかねないと忠告したアスミは、場所を覚えておき各々好みの味の所にもう一度行くことを提案した。
一方アカリはサービスが良過ぎることに不安を抱いた。確かに招待状一枚で飛行機の手配や入園、施設のチケット代まで自己負担なしなのは嬉しいが、あまりにも破格過ぎる。加えて指定の施設を制覇すると未知の報酬が待っている。お金を払って申し込んだわけでもないから選ばれた特権という実感もなく、何か裏があるのではないかと勘繰っていた。そこにポップコーンのサービスまであって、余計に罠か何かと疑わしくなった。
だがそう思っているのは自分だけかもしれないと、皆の食べる表情を見て感じ取る。確かに待遇が良いだけで何も困っていないから、考え過ぎかもしれない。
「これ好きだから映画館に行くの? ほら、映画なら家でも観られるし」
オキナはアカリに尋ねる。ポップコーンが好きなのは映画が好きだからなのか、逆にポップコーンが好きだから映画館に行くのか。映画だけなら配信やブルーレイで自宅でも観られるので、スクリーンか食べ物目当てで劇場に行くのかと予想した。
「皆で観るのが好きなの。どんな反応なのかなって、近くの人の顔とか声とか」
家と映画館の違いは周りに人がいるか。アカリはその人たちが映画でどんな影響を受けたかをスクリーンに照らされた表情や微かに聞こえる漏れた声で感じ取る。それができるから彼女は劇場に足を運ぶ。
「まあ観ることも好きだから家でも観るけどね」
そして彼女は映画自体も好きだ。感動や悲しみの涙を流すとストレスが解消される。劇場ではマナーを守って感情を抑えるときもあるが、家で一人で観るときは人目を気にしなくていい。家と劇場、どちらにも長所がありケースバイケースだ。
「人の反応か…… 意識したことないな」
「うん。基本ずっと前向いているから」
映画館で他の客の反応を気にするというアカリなりの見方は、他のメンバーにとっては馴染みのないものだった。正面のスクリーンに注目していないと一瞬でも見逃してしまいかねないし、見逃してまでよそ見をしたいとは思わない。
アカリも当初は皆と同じ考え方だったが、ある日気づいた。本当に貴重なのは、同じ瞬間を目にした人の反応なのだと。
「映像ならまた観たらいいし、でもその人と観るのはそれっきりでしょ?」
劇場で見逃しても配信や販売されればまた観られる。けれどもその劇場で近くにいた人がどんな思いを抱いていたかは、また観るときには居ないから再び知ることはできない。
花火とか空模様とか、またいつか見られる光景と、今しかいない近くの人の反応とでは、後者を貴重だとアカリは思う。だから目を離したくない瞬間でも目を逸らし、同じように見ている人を見る。
それはこの遊園地でも同じだ。初めての施設でも、チームメイトがどんな表情を浮かべているか気にしている。
「ここだってそう。このメンバーで来るのは今回だけかもしれないし」
同じ島で暮らしており、他校生でも同学年の能力者繋がりで頻繁に交流会を開いているから、また会う機会はすぐに来る。とりわけ今は夏休みで、平日でも予定を合わせやすい。だが島を出て空路の旅を経て遊園地に来ることが再びあるかと言われると誰も頷かない。招待状がなければいくらかかるか見当もつかないのも要因の一つだ。
最初で最後かもしれない。そう察しているからこそ、自分一人でまた来たときに見られるものを見るより、今しかいない人を見たい。それがアカリのスタンスだ。
「だから私は皆と過ごしたい。ラクアともね」
だからせっかくなのでラクアとも回りたい。これまでクリアした四つの施設も、彼が同行していたら何を思ってどんなことを言っていたか気になる。まだ制覇まで三つあり、制覇後も自由時間にして一緒に過ごすことはできる。
「だったら何としても説得したいな」
「ああ。反論なんてできないだろうけど」
アカリの思いを理解したイコイとオキナは、ラクアがまだ同行を拒む姿勢だったときは彼女のためにも彼を説得しようと決意した。彼が一人でいたがるのはそれが楽だからというだけであり、そんなことで彼女の思いを無下にするのは気に食わない。とはいえ彼が思いを聞かされてそれでも折れないほど捻くれているとも思えないから、すんなり同行してくれそうにも思えた。
などと話していると目的地のベンチが見えて、そこにラクアがいた。移動していなかったおかげで探す手間は省けたが、ただ動いていないだけにも思えた。
「……終わった?」
「いや、今四つであと三つ」
ラクアはアカリたちに気づいて進み具合を尋ねると、彼女はチームで共有しているメダルケースを開いて見せる。まだ埋まっていないメダルのうち彼がゲットしものがあれば、制覇にさらに近づく。
「まだ四つ?」
「うん」
「まあ全員で回っているからな」
そしてラクアにとっては想定より集めるペースが遅いようで、けれども方針上仕方ないとオキナがフォローする。四ヶ所回る時間はあったから、散り散りに集めていればもっと多くゲットしていたかもしれない。だが施設の難易度が未知数で同じチーム四人で挑戦すればどんな展開でも誰かしらは一位になってメダルをゲットできる形式のものが多かった。分散するとなかなか一位になれずメダル集めが進まない可能性もあったから、ゆっくりでも確実に一枚ずつ集めるやり方は間違ってなかったと自負している。現に一度もやり直しせず四つ順調に集まった。
「そっちは?」
「ゼロだけど」
「偉そうなこと言って……」
足りないメダルをラクアがゲットしていたら制覇に近づくと期待して尋ねたが、彼は一つも持っていない。それでよくまだ四つなんて言えたものだとアイリは突っかかると、何もしなかったことの正当性を主張した。
「被ったら余計に疲れただけだろ?」
ラクアは皆がどこに行ったのか知らないから、へたに動いて集めたメダルがダブったら、それは無駄になってしまう。どこに行けば被らないか分かっていたら集めに行ってもよかったので、連絡が来るまで待機していたら今に至った。
「まあいいよ。あと三つ、一緒に集めよう」
持ってないなら集める楽しみが残っている。アカリは前向きに捉えラクアを誘うも、その顔は完全に呆れていた。




