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14話 一心同体

 西浦(にしうら)あかりは遊園地の四つ目のアトラクションの宇宙防衛隊に挑む四人のチームメイトを見守る。各々エイリアンを倒す銃を持ち、四つのレーンに立って開始の合図を待つ。アカリの役目はエイリアンの接近を後方から知らせること。銃で倒しきれなかった敵が一定の距離まで来るとダメージを受ける。ライフが尽きる前に敵を全滅させると施設クリアだ。

 プレイヤーにできることは銃撃と左右への移動だけ。施設オリジナルの宇宙服は、着ていると床以外のあらゆるものをすり抜ける。これで味方との衝突や誤射は起こらない。一人で撃ったり移動したりするときとだいたい同じようにやれる。だいたいというのは味方を視認できるため、背後に回ると前の人の後頭部が敵を遮ってしまうという弱点があるためだ。


「本当にすり抜けるのか?」


 大森(おおもり)(イコイ)は自分の体が物に当たらなくなるという初めての感覚が気になり、始まる前に試した。日比谷(ひびや)興奈(オキナ)を見て手を差し出すとオキナも片手を出し、握手しようとしたら空振りした。想定通りの結果だが、普段と違う感覚に興奮する。


「凄っ、幽霊になったみたい」

「確かに」


 まるで幽霊のような体質になったことに驚くイコイに、この先の施設はお化け屋敷だと下調べしているオキナは、幽霊を見るのはこれからだ、とネタバラシせず、知らないフリをして相槌を打つ。

 ついでに今の状態でしかできない感覚を楽しむ。同じ場所に立って体を重ねてみたり、二人で腕をバラバラに動かして四本腕に見せかけたり。腕でもう一人を背中から貫通させたり。そんなおふざけで盛り上がっているのは男子陣だけで、川口(かわぐち)青空澄(アスミ)は呆れて見ていた。というのも透過状態の体で遊ぶことが目的でここに来たのではない。敵を全滅させ施設をクリアしメダルをゲットし、残り三つの施設もクリアして遊園地のイベントを達成することが目的だ。


「分かってる? 今回はメダルをゲットできないこともあるのよ」


 これまでの施設はクリアがメダルゲットの条件ではなかった。四人ずつ挑戦して一位がゲットできる。チームメイト四人で参加すればどんなに手を抜いても誰か一人は一位になるため挑戦するだけで確実にメダルが手に入る。これまでそうやって楽して集めたが今回は毛色が違う。四人は競争相手ではなく協力して敵を倒す仲間だ。浮かれていては敵に負けて再挑戦する羽目になる。


「ふざけたいならクリアした後。それなら文句言わないから」


 真新しい感覚を楽しみたいことは否定しない。ただそれは後でやってほしい。施設を制覇したらチームは解散、残りは自由時間。好きな人と好きなように過ごせばいい。だから今は我慢して集中するよう釘を刺し、イコイたちは頷いた。軽い気持ちで挑戦してはゲームオーバーになることは、順番待ちの間に前の客の挑戦を見て学んでいる。見た限りクリアしたチームがなく、敵の様子は途中までしか見えていない。クリアまでにどんなギミックが待ち構えているか、全貌は見えていないのだ。



 合図が鳴ると敵が出現した。アスミは思い思いに銃を撃ちながら左右へ移動し、敵が接近しているレーンに気づくとその方向へと移動して撃つ。序盤は敵が少なくダメージを受ける前に倒せた。だが彼女は自分たちの行動に無駄が多いと気づく。確かに一斉に同じ敵を狙えば早く倒せるが、現れてはそのレーンに全員が向かうのでは、敵の数やスピードが増したとき対処が間に合わなくなる。仲間が動くと信じて他のレーンで待つといった判断が要求される場面が訪れる予感がした。


 施設の警告音が鳴ると難易度がアップした。敵の数が増え、撃退に要する弾数も増えた。そのレーンに居座る時間が延びると他のレーンをカバーできない。行ったり来たりするのではどちらへの対処も中途半端になってしまう。

 アカリも後方からどこのレーンがピンチか伝えるが、誰がいつ動けば防げるかまでは誰も分かっていない。ついにダメージを受けたが、幸いにもそれはゲーム内のダメージであり、体は無事だ。


「端は俺が行く」


 イコイは今のダメージが端のレーンで敵の接近を許したことに気づき、移動スピードの速い自分が率先して対応すると方針を告げた。アスミも賛成した。敵は増えたが中央と端では密度に差がある。敵が多い中央は三人で対処し、敵が少ない代わりに素早い移動が求められる端は彼が対処する。さらに敵は増えたが密度の傾向は変わらず、決めた作戦でうまく対処できた。


 イコイは自由に力を発揮できるこの瞬間に感動していた。彼の特殊能力は最低限の力を込めると最大限で出力されるというもので、消耗することなく全力を維持できる。だが勢いあまって人や物にぶつかってしまうから発揮できる場面は限られていた。けれども今は透過状態。味方と密集していても衝突を気にせず、一方で敵への攻撃は普段通りやれるので、存分に力を振るえる。


 オキナたちは同学年の他校生だが特殊能力者という繋がりで知り合った。イコイは自分の能力と相性の良い能力はこのような透過状態になるものだと気づき、いずれその類の能力を持つ人が現れたら仲良くなりたいと思った。



 再び警告音が鳴ると、巨大なエイリアンが現れた。今までは小さくて数が多い敵があちこちのレーンから迫ってきたが、今度の敵はどのレーンから撃っても当たりそうなほど巨体で、けれども接近をしてこない。

 すると今度はレーン上でランプが光り、敵の攻撃を察知したから他のレーンへ回避するよう表示された。じきに真上から敵の拳が降ってきて、けれどもそれで宇宙船はダメージを受けない。迎撃の必要はないが反応が遅れると体が押し潰され、宇宙服に守られて痛みはないが、さっき接近されて減少したライフがさらに減った。

 この攻撃は一人が何度も食らうとその人だけ脱落するものではない。四人で一心同体。ライフが尽きると揃ってゲームオーバーだ。


 敵の攻撃は時間経過とともに激化する。安全なレーンより危険なレーンが多くなり、どこへ退避するかが重要になる。この弊害を最も受けているのはイコイだった。隣のレーンへ移動しようとしたら想定以上に体が動き、もう一つ向こうまで進んでしまい、そのレーンも危険だったので攻撃を食らってしまう。

 だがそれはあくまでも最小限の力を込めて移動したときに限った弊害。皆と同じくそれなりに力んで移動すれば過剰に進むことなく狙ったレーンでストップできる。


 だが普通に動ければ乗り切れるというものでもない。ひっきりなしに続く攻撃で、休みない移動を要求される。アカリも危険な人に行くべき方向を呼びかけるが、その前にそれぞれ自己判断で動くので却って混乱を招いてしまう。

 そして人が密集すると視界が塞がる。警告の表示が前の人の頭で見えにくくなり、反応が遅れる。かといって前の人が動いたら同じように動くのでは遅かったり、前がうっかり間違えて被弾するとつられた後ろもダメージを受けて一気にライフが減ってしまう。



 ライフの減るペースが上がり雲行きが怪しくなり前線に立つ四人をサポートすると意気込んでいたアカリだったが、役に立てていないことを不安に思う。一方アスミも気が散るから彼女には黙っててほしいと苛立ち振り返る。するとアカリの笑っている顔が見えて、考えが変わった。


「皆、目じゃなくアカリの声を信じて!」


 アスミは問題点に気づいた。警告の表示は自分たちにもアカリにも見えている。同じものを見ているのに、自分たちの判断で左右どちらかに回避して、その方向がアカリの指示と一致しないことがあるという点だ。

 そして信じるべきは自分の目ではなくアカリの指示。なぜなら離れた位置から見ている分、視界にすべてのレーンが入っている。前線の自分たちは他のレーンの警告を把握するために首を振らなくてはならず、正面すら前の人に隠れて視認しにくいときがある。視界の外のレーンがいつ安全か危険か覚えておかなくてはならない。

 だからアカリの声を聞き、指示の通りに動くことに徹する。その方がダメージを受けにくく勝算があるとアスミは察した。そしてアスミの決断を聞いたオキナたちは頷き、見えるものに惑わされずアカリの示す方向に移動することを心がけた。


 バラバラだった四人の動きが一つになった。透過状態ということもあり、重なったまま揃って右へ左へと動き回る。動きが統一されるとアカリとしても誰がどっちへと細かい指示を出さなくてよくなり、まるで一人に伝えているかのように疎通できるようになった。けれどもちゃんと四人で戦っている。移動しつつ撃っている銃で、徐々に敵の体力を削っている。



 そしてついに敵の攻撃が止まった。だが敵は口を開け、光の粒を吸い込んでいる。


「ビームが来るかも! 今のうちに撃て!」


 この対処に回避は必要ない。撃たれて大ダメージを食らう。それなら銃を連発し、ビームを発射されるまでの溜めの時間に敵の体力を削る。それがベストと判断したオキナは皆に呼びかけ、アカリの声を聞くことから撃つ手に力を込めることに切り替えるよう促した。

 アカリの声も止まり、今までのレーン別の警告も止まったことから、四人は銃撃のテンポを落とさないことに専念した。そして見事、敵の発射前にライフを削り切って撃破した。


 すると巨大な敵は吹き飛ばされ、敵を全滅したとアナウンスが入った。勝利を実感した四人は歓喜し、ハイタッチを交わそうとしたが宇宙服のギミックで体がすり抜け空振ってしまい、おかしな笑いも込み上げた。



 宇宙服と銃を返却し出口へ向かう一行。アスミはアカリと合流すると、彼女のおかげで勝てたことにお礼を言いにいこうとしたが、泣いていて戸惑った。


「何があったの!?」

「ううん、嬉しくて」


 アカリは不安なときに笑い、嬉しいときに泣く。感情と態度があまのじゃくなのは能力の性質だ。それをアスミは知っているが、なかなか慣れない。傷ついての涙ではないと聞いて安心するも、一瞬彼女に苛立ったことを思い出し、隠さず白状した。


「……ごめんアカリ。実は私、最初アカリの声を邪魔だって思った」


 アスミは直感に長けている。だから頻繁に回避を要求される場面では、自分が皆に指示する方が適切と思っていた。そのことは美南(みなみ)哀月(アイリ)にも信用されていて、もしアスミの考えとアカリの指示が割れたら、アスミの方を信じると言ってくれた。だからそれを遮るアカリの声を迷惑に思い、自分やアイリのためにも余計なことを言わないでと強く当たりそうになっていた。

 けれどもアカリの目を見て踏み留まった。不安を感じさせない明るい瞳によって、彼女を信じて任せたいという気持ちに分かった。


「考えれば外からの方がよく見えるもんね」

「……うん」


 アカリとしては友達に鬱陶しく思われていたと聞かされてショックだった。だがその気持ちは表に出さず、一時的に迷惑と思われていても最終的には認めてくれたのは事実というのは聞き入れ、頷いた。


「あ、でも私がそっちにいればよかったとは思ってないわ。何となく、それだと駄目だった気がする」


 そしてアスミは指示役のポジションだけ良ければクリアできたかというと、そうは思っていない。自分がアカリの代わりに外から指示を出していたとして、それに従うよう四人を説得しないと意味がない。


「そうね。アスミがアカリの言う事聞いてと言ってくれたから、皆の動きが一つになった」


 外から指示しつつ中で各々自己判断で動いていた。それでは駄目だったが、途中から外の指示一本に切り替えたことで、ダメージを受ける頻度が一気に落ちた。アスミが指示役だったとしてもそれに従うよう呼びかけることが必要で、それをアカリや他の三人が担えたかというと疑問が残る。気になるならその分担でまた挑戦して確かめるという手もあるが、制覇が先だ。


「ともあれメダルゲットだな。ついに半分」


 イコイはメダルをアカリに渡す。外にいた彼女がケースを管理していたからだ。彼女はメダルを受け取りケースにしまう。これで四つ目、残すは三つ。制覇という目標は達成できていないが、これまでクリアした施設の中で今回のが最も達成感が大きかった。難易度的にも、チーム一丸となって挑戦したという点でも、一つの山を乗り越えたという実感が湧いている。


「ねえ、もう一度タッチしない?」

「だな。さっきはスカしたし」

「アカリも一緒にねっ」


 クリアの瞬間は手と手が触れなかったし、四人だけだった。元の体に戻りアカリとも合流した今、改めて喜びを分かち合いたい。五人は輪になり両手を上げて、両隣の人とハイタッチをした。

 最高の気分に浸る彼らの、七つの施設制覇の道はまだまだ続く。

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