13話 気持ちを一つに
「今までのを反省して、次からは四人の気持ちを一つにして勝負しよう」
川口青空澄は遊園地の三つ目のアトラクションで付着したクリームを洗い落としてきた四人に残りの施設への方針を告げた。二つ目の施設を出て以降、アスミは美南哀月と拗れている。
二つ目の施設ではアスミが勝ちたかったがアイリが途中で諦めたことによって上位との差をひっくり返す手段を失ったことで揉め、アスミはその腹いせに三つ目の施設では、本気でやるのは七つ制覇した後にすれば今汚れて洗う時間をかけず次に進めるというアイディアを皆に黙っていた。四人で挑む施設でアスミ自身は留守番だったので、黙っていたことで自分も汚れたわけではない。
目的は各施設に四人で挑戦し一位に渡されるメダルを七つ集めること。個人戦ではなく自由にチームを組めて、彼らは六人で組んでいる。分散すると他のチームに一位を取られたら施設の待機列に並び直しになるので、四人選抜してチーム内で勝負することにより、誰が勝ってもチームとしてメダルをゲットできるように揃って順に巡っている。
勝ちを求めなくてよく、けれどもせっかく来たからには楽しみたく、とはいえ早く制覇して報酬が何か知りたい気持ちもある。メンバーの気持ちがバラバラだから、両立できない理想が衝突した。それは残りの施設に対しても起こり得る。だからもう衝突しないように、先に気持ちを一つにしてから挑戦する。それがアスミの提案なのだ。
「あくまでもチームとして、ね。メダル全部集めたら各々好きにしていい」
個人的には本気で勝ちたいのに周りが力を抑える気なのでそれに合わせる、というのは窮屈だ。だがそれはチームで挑戦する初回の話。挑戦は一回きりではなくまた並べばいい。だから一度は皆に合わせて加減し、次やるときは各々自由にやればいい。彼らはメダル制覇のためにチームを組んでおり、達成したらチームは解散。誰とどこへ行こうが自由の身だ。おいおい好きに過ごせると分かっていれば、今は我慢のときだと割り切れる。
「いいんじゃない?」
日比谷興奈はいの一番に賛成した。ちょうど次に近い施設のタイプは協力。これまでは四人で個人戦やペア同士の対決だったが、今度は四人で協力してクリアを目指す形式。メダルゲットの条件は一位になることではなくクリアすることで、全員で手を抜いて誰か一人は貰えた今までと違い、頑張ると全員が貰える。
そんな事前情報を仕入れているオキナは、そのことを伏せておきつつ、アスミの意見に賛同する。協力を求められる施設があると分かっていたから、チームで一丸となる動きが芽生えたのは好都合だ。
クリアのために協力が必要だと誘導することなく流れを作れたという意味では、彼女らの衝突も意味のあるものだと捉えた。
「次誰がやるかはそうやって決めよう。皆に合わせることができるかで」
加えてアスミの案はチームから挑戦メンバー四人を選出するときの判断材料にもなる。楽して終わらせたいか目一杯楽しみたいか。メンバーで意見が割れたとき、多い方に合わせて意見を切り替えられる人は優先して選ばれる。逆に頑固で曲げない人は減点対象だ。
「次はここか」
大森憩は園内マップから残りの施設の位置と待ち時間を調べ、残り四つの施設から次に行く場所を選んだ。待つ時間が少ないことにも理由があると西浦あかりは警戒している。現にさっきの施設もあまり並ばずに順番が来たが、それはクリームが付着するのを嫌った客が多かったせい。次の施設もワケありではないかと内心疑っている。
その施設は宇宙防衛隊。敵はエイリアンで、挑戦する四人は競争相手ではない。ライフを共用する仲間で、敵を全滅するとクリアとなり、メダルが全員に渡される。今までと違い手を抜くとライフをすべて失いゲームオーバー。メダルゲットには再チャレンジが必要。形式に勝利条件まで、これまでとは一味違う施設だ。
「おかしくない? メダル獲れないことがあるのに、人が少ない気が……」
「そう? 楽だからメダルゲットの回転率が高いのかも」
ルールを読んで考えたことは人それぞれ。アカリはルール上メダルを誰もゲットできないことがあり得ることから並び直す客はこれまでの施設より多いと考え、その割に待機列が短いことに違和感を覚えた。ただ理由の見当はついている。クリア難易度が高く、後回しにした客が多いせいだと。
目的が制覇である以上、後回しにしたところでいずれ乗り越えなくてはならない。だがその間に他の客によって攻略法が確立されれば難易度はグッと下がるので、詰まったらスルーするのは良い判断だ。そしてアカリは、もし推測が当たっているなら周りと同じく後回しにしたい派だ。特殊能力者仲間である皆の実力は信頼しているが、遊園地への招待状が突然届いたことといい謎に包まれた制覇の報酬といい、この遊園地を警戒しているので、自分たちで追求したい好奇心より怪しいと思ったら避けたい気持ちが勝る。
アカリとは逆の考えもある。イコイは一回の挑戦でメダルをゲットできる人が最大四人できる点に目をつけ、ゆえに一回の挑戦で多くの人にメダルが行き渡るから並び直す人が少なく待機列が短いと想像した。彼女との違いは施設への警戒度。これまで容易にメダルをゲットしてきたから残りも同程度と考え、一発クリアできるレベルだと想像している。
「何にせよこれまでとは全然違うタイプね。誰が行く? それとも他の所行く?」
アカリとイコイ、どちらの考えが正しいかはさておき、協力する形式である以上、これまでの施設の同じようにやりたい人が参加するといった基準では駄目だ。この四人ならクリアできるという自信を持てる選出でなくてはならない。すぐに決まらないなら後回しにするのもアリだとアスミは提案した。
「誰と組むか決まらなくて、人が少ないのかもな」
チームの人数は決まっていない。いっそ一人で制覇を目指す手もある。制覇の報酬が見えていない以上、独り占めを狙ってあえて一人でメダルを集めている客もいる。アカリたちのように四人以上もいるチームは少数派だ。
アスミの提案によって誰を選ぶかに焦点を当てたオキナは、他の客が少ない理由と結びつけた。四人に満たないチームは協力相手を見つける所から必要で、見つからなくて並ぶ段階にすら立てていない人が多いとも考えられる。
「それなら納得かも」
アカリは警戒心が薄れた。難易度と関係なく並びたくても並べない人が多いのなら、空いている理由に合点がいく。そして自分たちはメンバーが余るくらい層に余裕がある。協力相手を見つけるハードルが高いだけで、施設の難易度自体は突貫のチームでもクリアできる程度には緩く、友達同士なら造作もないのかもしれないと期待した。
「てっきり相当難しいのかもと思ったけど、大丈夫みたい」
「……決まりね。四人選んで今からチャレンジよ」
アカリが挑戦に前向きになったタイミングで、アスミは後回しの選択肢を消した。次は五人の中から挑戦するメンバーを選ぶ。
さっきはチームで気持ちを一つにすることを重視すると決めたが、それは本気を出そうと体力を温存しようとチームでメダルを獲得する目標が達成できることに変わりはないからであって、今回の施設は手を抜くとクリアできない。クリアを目指して真剣に挑むのは大前提であり、力を出し惜しんでいる場合ではない。
まずは施設の詳細を確認する。一人ずつ銃を持って敵を撃ち、敵の接近を止める。敵は次々と沸いてきて、接近されると攻撃を食らう。そのダメージは挑戦者四人で分け合い、ある提案食らうと揃って倒れてゲームオーバー。たとえその人自身は無傷でも、そうなった時点で強制終了。
かといって敵の接近レーンを分担するだけではクリアできない。ときに味方のレーンへ移動し協力して撃退することで接近を阻止する瞬間もある。どれだけ左右へ移動しようと撃てば正面に飛んで命中するので精度は求められない。だからこの施設のタイプは移動して味方をフォローする協力で、クリアには必須の要素なのだ。
「司令塔が必要ね」
「外から合図とかできないかな」
「それ採用っ」
そこでアスミが考えたのは、状況を見て指示を出せる人が必要ということ。きっと思い思いにやっていてはクリアできないので、盤面を見て動かす役目を持った人が要る。
それなら挑戦者の四人ではなく留守番の一人が担えないかアカリは発言した。その方が四人は攻撃と移動に専念でき、留守番の一人は敵の行動を見て挑戦者に指示を出す役割を持てて退屈しないし、チームでの勝利を分かち合える。
アスミは喜んで提案を受け入れた。たとえばゲームセンターのシューティングゲームは一人プレイだがもう一人が観戦しつつアドバイスをするのは可能だ。本人が夢中で気づいていない危機を外野の視点でケアできる。
四人で取り組む施設だから四人選ぶことに意識が向いて余るメンバーに何をやらせるかを考えるという発想がなかったから、アカリのアイディアに驚かされた。なお彼女自身は最初から今回の留守番は自分が引き受けるつもりでいたので、何かできることはないかあらかじめ考えていたから、今の案をすぐに閃いた。
「じゃあ私、見てるから」
「えっ、私が見ておくよ」
早速留守番に名乗り出たアカリに対し、自分もそうしたいとアスミも言い張る。だが前回もアスミが留守番だったのに対しアカリとアイリは一度も休んでいないので、出番のバランスを取るという観点でも自分が望ましいのがアカリの言い分だ。アイリでは駄目な理由もある。
「アイリと協力して仲直りのチャンスだよ」
「それは……」
それにここの施設は協力する形式。アスミにはアイリと参加してもらい、拗れを解消してほしい。その意味でもアスミには留守番に回ってほしくない。司令塔としては彼女の方が優秀かもしれないし二人が揃うと裏目に出るリスクもあるが、アカリは二人と自分を信じた。
「一緒にやろうよ」
「さっきやったでしょ」
一方アイリもアカリと協力プレイできなくなるのを残念がっているが、前の施設で四人ではなく二人でペアとして協力した。それで満足してほしいと遠回しに告げるとアイリは引き下がった。自分が留守番で彼女とアスミが協力するのを眺めているよりはマシだと割り切り、アスミと同じく協力して仲直りのチャンスだとこっそりと告げられると、その吐息と囁き声に動揺して言葉が耳から耳へと通り抜けていった。
「……アスミ」
挑戦者が銃を受け取っているときにアイリはアスミに話しかけた。アカリには聞こえない位置でこっそりと告げる。その様子はアカリも気づいており、会話は聞こえないが始まる前から揉めないか不安そうに見つめる。だがそれは杞憂だ。
「好きに私を使って。あなたの指示を優先するから」
本来の司令塔はアカリで信用していないわけではないが、彼女が立候補したのは出番を譲るための建前だとアイリは捉えている。そしてアスミにはアクションしながら指示を出してほしい。タイミングがアカリと重なり指示が割れたときはアスミの方に従うから、自分をどんどん使ってくれて構わないと告げた。そうすればきっと一回でクリアできる。今はお互いに非があって拗れているが、知り合ってから二ヶ月経ち能力や性格、得意なことを理解して、アスミへの信頼は薄れていない。
「分かった」
アスミもアイリの気持ちを受け止め、頷いた。挑戦者の身であっても、むしろ敵と近い最前線にいるから瞬時に出したい指示がある。アカリの言うことした聞かないなんて反抗をされるのが気がかりだったが、その心配は要らないと確信した。
「見てこのフットワーク」
「レーン飛び越えそうだな」
イコイは始まる前の準備運動がてらに反復横跳びをする。軽快な足取りからとんでもない幅を行き来する。見せつけられたオキナはこの施設で活きると思いつつも、隣のレーンに移るつもりが勢いあまってその先まで進んでしまい想定した迎撃をできず思わぬダメージを食らいそうに思えて却って不安になった。
アスミはイコイ相手に指示の難易度が上がることに気づき、頭を抱えた。
一方オキナもこの施設の難易度を事前に足を運んでいたので軽く把握している。一筋縄ではいかないが、ここは皆の能力や性格などのシナジーの見せどころなので楽しみにしている。




