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1話 夢の遊園地と招待状

 泣きたい、泣きたい。西浦(にしうら)あかりは早く思いっきり泣きたいと気持ちが昂りながら、映画館へと向かう足を早める。これは彼女にとっての一種のストレス解放で、涙を流して気持ちをリフレッシュするために映画を観る。頻度が高い関係で、今日みたいに一人で行くことも珍しくない。

 早く着こうと一本前の上映に間に合うなんてことはなく、待ち時間が延びるだけだ。だがアカリにとっては有意義な時間で、劇場の入り口でポップコーンを買いに並ぶ。今日はどのサイズにしようか、何の味を選ぼうか。何度も来たから全パターン試し尽くしたが、一番は決まっていない。というより気分とお腹の空き具合で何が欲しいかは変わる。


 他にも食べ物はあるが、それらには目もくれずポップコーンを見比べる。映画館といえばコレだとアカリの中で確立されており、だが飲み物はセットで買う。

 ポップコーンは値段の割に体積が大きいから得した感があり、食べると喉が渇くのでジュースが沁みる。潤った喉にポップコーンを放り込んで、また水分補給。この繰り返しを調うと呼んでいる。

 どちらも最大サイズのを買い、劇場に入った。



 上映終了後、アカリはスッキリした気持ちで出てきた。フードを完食しお腹は満たされた。涙も存分に流した。嬉し泣きに悲しみの泣き。おかげでストレスを発散できた。学業に課外活動に短期留学準備。この頃忙しく映画を観る時間を作れなかったが、夏休みに入ったおかげで解決した。

 あくまでも気分転換であって、やるべき事が減ったわけではない。それでもモチベーションを回復させた点でプラスにはたらいたとアカリは信じる。

 観る前と後での心持ちの違いから、アカリはこういったリフレッシュの良さを友達にも知ってもらいたいと思った。特に課外活動の仲間に。夜にグループ通話で話そうと思い、アカリは帰路につく。

 そろそろ日が沈む。今日の夕焼け空はひときわ綺麗に見えた。アカリは空を眺めて、それから辺りを見渡す。この空を見る通行人は、どんな顔をしているのか。知人かどうかは関係なく、表情を流し見る。じっと見つめていると不審がられるので、サッと見てサッと前を向き直す。そのとき顔に封筒がぶつかり視界を覆われた。



 急に何も見えなくなり、けれども感触から紙が飛んできたとすぐに察したアカリは手で掴み、目から離す。未開封の封筒だと気づくと、まずは誰かの落とし物を疑い、封筒を探していそうな人を探したが、見当たらない。

 次に封筒の情報を探すと、自分の名前が書かれていてアカリは焦った。たまたま外を歩いていて手元に届いたからよかったものの、誰かに拾われ中身を見られていたらと思うとゾッとする。いい加減な配達だなと内心苛立ちながら、開封する場所を探す。

 逆に本人に届く確証があったともアカリは考えた。この島には特殊能力者がいる。誰がどこにいるか分かったり、狙った相手へ配達できる能力者の仕業なら、一見危ない渡し方でも合理的と考えられる。アカリ自身も能力者で、知り合いに心当たりがある。その場合受け取ってからは管理するのは自分の役目。迂闊に開けて風で飛ばされたら溜まらないので、風と人目を避けられるスペースを探し、そこへ着くまではしっかり握っておいた。


 彼女と同学年の場合は、去年すなわち中学二年生の四月に最初に能力者が現れ、以降平均して月に数人ずつ増えて、現在四十二人。今月すなわち七月はまだ新たに能力に目覚めた人はいないが、夏休みが始まり何かしらのイベントがあると、それをきっかけに覚醒する人が現れる可能性はある。

 能力は人それぞれだがランク分けされている。その四十二人のうち二十人がAランクで、その上で最高ランクのSランクが四人に対し、アカリはDランクと下から数えた方が早い。もっとも大多数が無能力者のFランクだから全体で見れば能力者の時点で上澄みなのだが、もう一声欲しいのが彼女の本音だ。

 とはいえ一度能力者になってそこからランクアップする事例はごく僅か。序列が上の人に勝負で勝てば上がるような評価ではないので、期待はできない。


 ただ今の評価が嫌なわけでもない。上のランクの人とも仲良く過ごしているし、能力があること自体が他校の能力者との接点を生み、交友が広がった。能力がなければ芽生えなかった縁で、アカリの世界は広がった。

 それに強大な力を持ってしまうと、制御に苦労するかもしれない。それで自分や周囲が傷つくのなら、感情偽装という、心情に対する表情が天邪鬼になる無害でやや不便な力だけな現状維持を願う方がいいかもしれない。


 などと、謎の封筒の飛来をきっかけに始まった能力絡みの思考を止めて、アカリはいよいよ封を切る。



「招待状。夢の遊園地を楽しんでもらいたく厳正な審査の結果選ばれた……」


 アカリは封筒の中身に目を通す。知り合いからの手紙と思いきや企業からの案内状で、首を傾げる。内容は魅力的と思いつつも、申し込んだどころか聞いたことすらない。そんな場所へなぜ招待されたのか、それもビラ配りのように不特定ではなく名指しで選ばれたのか。しかも日程は明日。迷っていると期限を過ぎてしまう。

 だがこれだけの情報で、行くと返事するのは怖いと思った。ひとまずこの夢の遊園地と招待状について詳細を知るべく、スマホの電源を入れる。


 アカリが映画を観ている間にチャットが飛び交っていた。彼女の他に四人に、その招待状が届いていたことを知る。メンバーは川口(かわぐち)青空澄(アスミ)美南(みなみ)哀月(アイリ)大森(おおもり)(イコイ)、そして日比谷(ひびや)興奈(オキナ)。アスミとアイリは同月に能力者に認定された、この島では"同期"と呼ばれる関係にあり他校生であっても交流の機会が多く仲が良い。さらにアイリは同級生でもあり、身近な人がいてアカリは安堵した。とはいえこの招待状に対し、二人と一緒だとしても行きたいほどの安心感はなく、むしろ二人が行かないのなら迷いなく便乗しようという心意気だ。


 アカリは自分にも届いたと伝える前に考えた。これだけ少数なら、届いていないフリをして黙っておけばいいのではと思った。きっと四人が揃って参加表明したところで招待状への疑念が残り、周りがどうであれ行かないという結論に至るのなら、最初から参加できないことにして招待状を隠す方が、丸く収まって楽だ。

 幸いにも一人で出かけていたおかげで、受け取ったことは誰にも見られていない。そしてチャットにも、自分が招待されたことを誰かが暴露していることもない。


 それなら封筒ごと隠蔽して知らんぷりするのが、余計なことを考えなくて済む。アカリは逃げに走ったその思考回路が、ある知り合いからの悪影響だと気づく。


 ともあれまずは皆の反応を確認し、それから自分にも届いたと報告するか考えるのでも遅くはないと判断したアカリは、数時間のうちに溜まったチャットを読み始めた。



 一方その頃、その知り合いである三郷(みさと)楽阿(ラクア)は破壊された中学校を訪れていた。来たところで何もすることはない。本来なら部活動がある日だがやる場所がない。場所だったものの瓦礫に触れて、その感触から現実だと思い知らされる。


「夢じゃないんだな」


 することはないもののラクアがここに来た目的は二つある。一つはこれが悪い夢ではないか確かめることで、生憎現実だった。

 もう一つは、ここに来たら会えるかもしれないと思ったから。学校がこうなった日を境に会わなくなったある幼馴染と再会できないかと願い、訪問の回数を重ねて機会を増やすという単純な物量作戦だ。今日来たのも手がかりを得たからではなく、今日が駄目ならまた明日来るつもりでいる。


 今日も現実を突きつけられた以外には収穫がなく、捜査を終えてスマホを見る。学校に行って撤収するまでの間は余計なことを考えたくなくて通知を消音にして情報を遮断していたが、終わった後なら問題ない。目を通して必要なら返信して片付いたら帰る。歩きスマホの方が効率が良いが、それは両立できる要領の良い人ができることで、ラクアの苦手分野。複数のやることを順に対応するのが彼のスタンスなのだ。


「招待状…… これのことか?」


 ラクアにも封筒は届いていた。ただ学校での用事とは無関係と割り切り、未開封のまま見なかったフリをしていた。今日のグループチャットではその封筒について知り合いが話題に挙げていたので、自分で確かめる手間が省けてラッキーと考えた。



 ラクアは開封し中身が皆に届いたものと同じ招待状だと確かめると、参加するか考えた。すでに届いた人向けのグループチャットが作られており、そこへ招待を依頼している人もいる。以降はそのメンバー内でやりとりをしていると考えられるが、まだ参加していない彼は内容を見られない。


 ただ見る必要はないと判断した。情報交換は全員でやらなくてもいい。一部のメンバー同士で進めてくれれば十分で、最低限の情報を全員でシェアする程度でいい。直前に入って、要約してもらった話だけ流してもらうだけで楽に追いつける。ラクアは話の中心に混ざる気はなく、その役目は他の人に任せるつもりだ。


 第一ラクアは行く気が起きない。アカリと違って怪しむわけではなく、そもそもやる気が出ない。幼馴染たちとのチャットでも、招待状の話題が出ていた。封筒が能力者だけに行き渡っているとも限らないから、無能力者で封筒が届いた人がいたら連絡するための確認だ。ただこちらは誰も受け取っていない。ラクアと同じく名乗り出ていないだけという可能性は考えられるが。


 チャットを読んでいくと、小学校が一緒だったアイリには届いていると判明してからは、ラクアも招待されているのではと予想する声が挙がっていた。それを受けて彼は首を傾げる。一応二人は"同期"の仲で彼は彼女のことが好きだが、それだけだ。二ヶ月前に肝試しに参加したら妖怪のいる世界へ一緒に飛ばされたなど、能力者になってからはイベントに共演することが多いが、だからといって今回もそうだとかもはや運命だとか囃されるなんて、口では拒絶しながらも証拠の招待状を撮って送信した。


「……待って、今のなし」


 ラクアは慌てて送信を取り消した。ただすでに見られていた可能性を疑い、グループ外の人には内緒にするようメッセージを送信した。だがそんな文章を残した時点で招待状は届いていると白状しているも同然なので、取り消しは無意味と悟って写真は再度載せた。


 あんなことがあったのに遊びに行くのかと文句が飛んできたがラクアは無視した。行かないから届いていないフリをするべく招待状を受け取ったことを黙っておいてと頼んだと察してほしいと思いつつ、それを伝える文章が感情的になっており、喧嘩なんて面倒なことにならないよう添削してから送信しようとして、結局すべて面倒になって下書きを消してチャットを閉じた。

 それに行かないと返信すると行ったら嘘つきになる。文句を言われても無視して行く方が筋が通っている。行くか行かないか、どちらにしてもこの場で報告しないことがベストと判断した。



「間に合う!?」

「走ればねっ」


 招待状の待ち合わせ場所は空港。そこでの現地集合では不安だったアカリはアスミとアイリと途中駅で合流してから向かう予定で時間を決めていたが、アスミの寝坊のせいで急ぎ足に切り替えている。

 当事者のアスミはポジティブに先導しているが、アカリは不安が拭えない。結局全員で行くことにしたものの彼女は招待状の怪しさが胸に引っかかったままだ。その迷いがアスミにも伝わったのか、走りながら振っていた右手の力を抜き、減速して振り返った。


「やっぱ無理かも」

「残念だね」

「嬉しそうだけど!?」


 間に合うと希望を持っていると油断して実際は間に合わない可能性がある。アスミは危機感を抱かせペースアップを図ったが、逆に朗報と捉えているかのようなアカリの反応に、むしろ先頭の自分が焦るべきと考え、再び集中する。

 一方アイリは二人に合わせて走りつつも、もしものときは現着している参加者を能力で足止めして時間稼ぎすればいいと割り切り、準備をしておいた。

 それとは別に、遅れそうな旨を知り合いに事前に連絡しておけば何か手を貸してくれるかもしれないと考えた。


「イコイたちに連絡する?」

「もうすぐゴールだ」

「前、前!」


 だがそうしようとした矢先、キャリーケースに乗るオキナを全速力で牽引するイコイが、アスミたちを追い抜いた。二人も彼女ら以上にギリギリの到着を予定しており、幸い事故なく集合場所を目前にした。オキナの警告も虚しく、ラクアと衝突した。

 なぜここに彼がいるのかは疑問だがアスミたちは彼らとの合流を果たし、全員揃って間に合った。

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