表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
49/71

第49話:あの子のこと①

挿絵(By みてみん)

表紙:武頼庵(藤谷K介)さん


挿絵(By みてみん)

かぶちゃん(影山蕪太郎):コロンさん

 ツキヒの謎を探るため、影山さんのお母さんの故郷である『S島』へと向かう――


 そんな大冒険を翌日に控えた金曜日の放課後、僕は松原さんに呼び出された。


 人気がない、ちょっとジメジメした校舎裏。

 一部日が当たる土手には、つくしやふきのとうが顔を出している。


「阿部くぅん……」


 何故だか涙目の松原さん。

 泣き顔も超絶かわいい。神は自分に似せてヒトを作ったとか言うけど、松原さんを作った神様はよほどナルシストだったのだろう。

 

 ていうか、学校のアイドル的存在にこんな顔をさせてしまって……、もし誰かに見られたら袋叩き確定じゃん。


 どうしよう――


 そんな事を考えてると、松原さんはどこから取り出したのかわからないでっかいコンビニ袋を、僕に差し出した。


「阿部くん、これ……!」


「え?」


 思わず受け取って中を見ると、大量のお菓子がぎゅうぎゅうに詰め込まれていた。


「これあげる……!」


「あ、うん」


 よくわからないけど、とりあえず頷く。


「これあげるから――」


 松原さんの顔がぐしゃぐしゃになる。

 

「これあげるから、私の分も、かぶちゃんのことよろじぐねぇえええ!」


 わんわん泣き出してしまった。


 松原さんは美人で人当たりも良くて最高の女性だけど――言動がマジで突飛だから、お付き合いする人はさぞ大変だろうな……なんて事を考えてしまった。


 犬走のところに並んで座って、要領を得ない話を頭の中で繋げてみると、こんな感じになった。


 ここ数日、かぶちゃんの様子がおかしい。

 

 普段通り振る舞ってるけど、何かに思い悩んでいるみたい。

 

 どうしたのか聞きたいけど……あえて私に隠してる事を、ムリヤリ聞き出すのはよくない。


 でも、すごく心配。


 きっと阿部くんなら……。


 私は、かぶちゃんの力になってあげられないけど、彼氏の阿部くんなら……!


 阿部くん、私の分もかぶちゃんを助けてあげて!


 ――そんな思考の飛躍らしい。


 影山さんに何があった僕は知っているけど、学校での影山さんはいつもと変わらず()()()調()()だ。

 思い悩んでいるとか、目に見えてわかる変化はなかったはずだけど……。


 松原さんは、僕なんかよりも一段深い視点で、他人を見ているんだな。

 そんな事にあらためて感心する。


「まあ、まかせてよ」


 僕だって、何が影山さんの助けになるかわからない。

 今やってることが、ずっと未来に思い返した時、悔やんでも悔やみきれない激苦(げきにが)の思い出になってるかもしれない。


 でも、僕だけしかできない事があるなら――


 頷く僕に、松原さんは腫れた目を三日月にして頷いた。


「かぶちゃんのところ、行こっか!」


 袖で瞼を押さえて立ち上がる。

 逆光の西日が、松原さんを縁取っていた。



   *   *   *



 自転車でフェリー乗り場へ向かう。


 土曜の朝、影山さんとの待ち合わせは7時30分。お年玉の残りを注ぎ込んでフェリーに乗れば、3時間後にいはS島に着く。


 両親には鉢山の家で朝からゲーム大会だって伝えてある。鉢山とも口裏を合わせているし、夕方までに戻ってこれれば多分バレないだろ……?

 

 とは言え、やっぱり緊張する。

 親に内緒で遠出するのもそうだし、影山さんと二人の旅路もそう。

 

 フェリー乗り場の近くにあるコンビニでおにぎりやお茶などを買う。こういう時、女の子の分も買っといてあげるのが、上級者の立ち振る舞いなのだろうか?

 よくわからないので、鮭おにぎりをもう一つ、買い物かごに放り込んだ。


 フェリー乗り場に到着すると、影山さんはすでに着いていた。

 その服装が、いつもと違って華やかで驚く。これは、イオーンで松原さんが選んでくれた洋服だ。髪も頭の後ろで一つに縛っていて、すごく新鮮に感じる。

 ていうか、めちゃくちゃ可愛かった。


「ごめん、買い物してて」


「ううん……あたしも、今来たところだから……」


 影山さんも緊張しているように見えた。今日、お母さんやツキヒの真相がわかるかもしれないんだから、その緊張も当然だと思う。

 

 券売機で二人分の乗船券を買った。

 ネットで前もって調べてきたその手順一つ一つが、新鮮でドキドキする。


 フェリーに乗り込む。

 2等室に椅子はない。絨毯に直接座ったり、寝転んだりするスタイルだ。発進してしばらくへたり込んでいたけど、だんだん間がもたなくなってくる。


「海を見てこうよ」


 影山さんを誘うと、コクリと頷いた。


 デッキに出ると海風がはしゃいでいる。束ねた影山さんの髪バサバサとはためいて、僕はその波のような動きから目が離せない。


「僕は、小学生の頃に一度乗ったことあって……影山さんは?」


「あたしは……ない……」


「海、すごいよね。見慣れてるつもりだったけど、沖まで来るとなんだか全然違う場所みたい」


「そうだな……」


 影山さんは小さく笑う。海風に吹かれて、少しだけ緊張がほぐれたのかもしない。


「それと、こんなものも買ってきた」


 僕はコンビニで買ってきた『かっぱえびせん』を取り出す。


「……? 食べんのか……?」


 たしかにかっぱえびせんは美味しい。普通に食べても最高だけど、今回はそうじゃない。

 僕は袋を開けてえびせんを一つ取り出すと、海の方に向かって放り投げた。


 慣性の法則で後ろに流れていくえびせんを、白い影がパクリと咥える。


 海猫だ――


「子供の頃に乗った時も、こうやって遊んだんだ」


「へぇ……」


 相変わらず無表情の影山さん。でもその目の奥は爛々と輝いてるように見える。


 僕はもう一度投げる。

 別の海猫が弧を描いて、それをキャッチし、飛び去る。


「やってみたい?」


「……」


 何も答えず、群れをなして飛ぶ海猫を見つめている。僕の視線に気がつくと、影山さんはおずおずと頷いた。


 えびせんをつまんで、投げる。


 えびせんをつまんで、投げる。


 影山さんの投擲フォームは下手っぴで、見ていると温かな笑いが込み上げてきた。

 5回に1回くらい、ものすごい反射神経の海猫が、明後日の方向に投げられたかっぱえびせんをキャッチする。

 影山さんは臆面もなくはしゃいで僕を見る。


「見てた……? いま、食べた……!」


「上手いじゃん」


「いや、べつに……上手かねーけど……」


「海猫の、意表をついたところに放り投げる、職人の技――」


「……阿部くん……」


「なに?」


「……バカにしてんだろ……」


「う、バレた。……ごめん」


「いいけど……」


 そんな会話をしていると、3時間なんてあっという間だった。気が付けば、船の向かう先に大きな島の全貌が見えてきた。

 影山さんの表情が再び緊張で強張る。


 フェリーは速度を落とし、港へと引き寄せられていく。



   *   *   *



 港からタクシーに乗り、日記帳に書かれていた住所へと向かう。

 いきなり家の前に乗り付けるのはなんだか無遠慮な気がして、あらかじめスマホで調べていた近くのコンビニで下ろしてもらい、そっからは徒歩で行く予定だった。


 見慣れない町の景色。

 海はいつも見ている海より広く、山に囲まれた市街地はとても狭く感じた。


 窓の縁に頬杖をついた影山さん。

 道路沿いに咲いた菜の花が、春の訪れを感じさせる。その事を伝えようか伝えまいか迷って、結局僕も無言のまま窓の外を眺めた。


 コンビニでジュースを買って、駐車場の端に座って飲む。もうすぐお昼だ。こんな時間に他人んちに訪問するのはちょっと失礼かもと思ったけど、いかんせん僕達には時間がない。

 出来れば確証に近い何かを掴んで、3時30分発のフェリーでJ市まで帰らないと――


 影山さんもそういう事情は承知している。

 ペットボトルのキャップを締めて、勢いよく立ち上がると、なんとなく決心がつかない僕を見下ろす。


「行こう……」


「うん」


 影山さんに促されて、僕も力強く頷く。


 徒歩で数分。

 影山さんのお母さんの実家――今は影山さんのおじいちゃんおばあちゃんが住んでいるであろう家は、菜の花畑の外れにあった。

 年期が入った平屋の一軒家で、どこか重苦しい空気が漂っている。家のまえに砂利の駐車スペースがあるけれど、車は一台も停まっていない。


 僕は嫌な予感がした。


 迷っている時間がもったいない。影山さんは間髪入れずに呼び鈴を鳴らす。

 磨りガラスの引き戸から見える玄関は薄暗い。

 

 しばらく待っても、人の動く気配はなかった。

 影山さんはもう一度呼び鈴を押す。


 留守かもしれないという不安は、心のどこかにあった。約束しているわけじゃないから、家にいない可能性だって十分考えられた。

 でも、連絡のとりようがない以上、こんなふうにアポなしで訪問するしかなかったし、土曜なら家にいるんじゃないかっていう淡い期待もあった。


 もう一度、呼び鈴を押す。


 動きはない。

 

 影山さんもどこか緊張の糸が切れた様子だった。

 どうしよう。

 さっきのコンビニで少し時間を潰して、また顔を出すことにしようか。


 呆けた顔で引き戸を見ている影山さんの肩を叩いて、踵を返したところで――


 猛スピードの軽トラックが、道路からこちらに向かってくるのが見えた。軽トラは慣れた動きで菜の花畑の角を曲がり、目の前の駐車スペースに停車する。


「あ――」


 僕は、一旦緩んでしまった緊張の糸を再び張りなおすのに苦労する。


 運転席のドアが開く。

 降りてきたのは、小柄で白髪のお婆さん。でも背筋はしっかり伸びていて、瞼が垂れたその目にはいい知れない威圧感がある。


「なんだ、お前ら?」


 お婆さんは僕と影山さんを交互に睨みつけた。

 僕は体が勝手に後ずさってしまう。


「あの……! 百々(どうどう)さんですか……?」


 影山さんは尋ねる。


「そうだが?」


 お婆さんは事もな気に頷いた。


 影山さんの表情が、一瞬だけ引き攣る。


「あたし……! その……百々(どうどう)月子の娘です!」


 今度はお婆さんの表情が引き攣った。

 そして品定めするような、どこか下品な目つきで、影山さんの頭の先から爪先までを眺める。


「ああ――」


 そして煩わしそうに頭を掻く。


「たしかに、そのいけ好かない目元、()()()に似てるわな……」


フェリーの様子は調べた事2割、空想8割で書いてます。このルートでは海猫に餌やりが出来ないのかもしれないけど、2人に楽しんでもらいたくてやらせてあげました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
もうなんていうか。 ハタから見るとテンプレな青春逃避行な感じですよね。 これで二人が行方不明になったらそれこそいろいろ噂されるから生きて帰れよ(`・ω・´) 海鳥にスナック菓子は私もやりましたわ。 …
なんか結婚自体がいわくありげだねぇ。。 そういうの、子供や孫に押し付けんなよ。って思うけど。。。 あと >僕はその律動から目が離せない。 中学生の阿部くんの視点から出てくる言葉としては、他の部分に比…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ