歌手にできることを精一杯に
私は、ステージに立ってマイクを手にする。
観客席を見渡せば、大勢のお客さん。
数え切れないほど。人の数が多すぎて圧倒されそうだ。
けれどひるまない。
わたしはここで、私にできることをするのだ。
喉の奥、いやおなかの中から力を振り絞る。
へいわ。
いのり。
ねがい。
たくさんの言葉に、心を込めて、ホールいっぱいに響かせる。
うたうことしかできない。
私たち歌手は、うたうことしかできない。
けれど、うたう人だからこそできることがあると信じている。
歌は人の心をふるわせることができるはずだから。
自分の心を届けることができるはずだから。
心と心を通じ合わせることができるはずだから。
だから、うたうことしかできない私は、精一杯うたう。
私たち歌手は、ほかの誰かには容易にできない、人の心をふるわせることができるのだから。